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CO2除去ビジネスの成功に懸ける米テック大手の目利きは確かか?

ニューズウィーク日本版 2024年6月24日 19時29分

ジェフ・ヤング
<CO2を膨大に排出し、気候変動対策の目標達成を迫られているアメリカのテック大手がこぞって大型投資を発表。空気中からCO2を取り出す技術への注目が高まっている>

マイクロソフトやセールスフォースなどテック大手は6月18日、気候変動対策として、大気中から二酸化炭素(CO2)を直接除去するさまざまな試みに、追加で資金を注ぎ込むことを発表した。

【動画】CO2除去の仕組み

その目的は、CO2除去(CDR)という、小さいながらも成長中の分野を後押しすることだ。今回の数百万ドル規模の投資は、膨大な量のエネルギーを消費するテック大手が、壮大な気候変動対策の目標を達成するための最新の動きといえる。

「CO2除去は保険として必要だ」と、セールスフォースでCO2除去事業を指揮するジャミラ・ヤマニは本誌に語った。同社は6月18日、CO2除去技術が必要なときに準備できるようにするために、CDR投資会社フロンティアに2500万ドルを提供することを発表した。

「後で利用できるようにするためには、今、早期投資する必要がある」と、ヤマニは言う。

18日には他にも、テック企業を代表してフロンティアが約4900万ドルのCDRを購入したことや、マイクロソフトが森林再生のために数百万ドルのCO2除去クレジット購入を約束したことなどが発表された。同社によれば、この取引は今のところ世界最大規模になるという。

これらの資金は、ラテンアメリカの植林プロジェクトやスウェーデンのバイオマスエネルギー施設のCO2追加回収の支援にあてられることになっており、テック企業が後押しするCDRアプローチの幅広さを示している。しかも、すべてが同じ日に発表された。

脱炭素化への圧力

テック企業が投資してきたCO2除去技術は、かつてはSF小説中の装置のように見えたが、それが今では実用化されるまでになった。

スイスのクライムワークス社はテック企業による数百万ドルの投資を使って、15年前に実験室で開発したCO2除去技術を、空気から直接CO2を分離・回収する世界最大の施設へと発展させた。

アイスランドにあるクライムワークスのマンモス・プラントは、同社にとって2番目の商業規模施設だ。現地の豊富な地熱エネルギーを利用して、CO2を排出することなく、大規模なCO2の「掃除機」に電力を供給している。同社は、マンモス・プラントで毎年3万6000トンのCO2を大気中から回収し、地下に隔離する予定だ。

クライムワークスのクライアント・ソリューション担当副社長、エイドリアン・シーグリストは、テック大手が同社をはじめとするCDR業界に初期の段階から最も多くの支援を提供してきた主な理由を3点挙げた。

「第1に、テック企業自身が脱炭素化を迫られている」と、シーグリストは言う。「そのプレッシャーはAI革命によってさらに高まっている」

大規模なAIモデルの学習と運用には、より大きなコンピューティング・パワーが必要になる。データセンターはますます巨大化して電力を消費し、それを冷却するためにさらに多くの電力が必要になる。

米国電力研究所(EPRI)の最近の予測によると、2020年代の終わりまでに、データセンターの電力消費量はアメリカで生産される全電力の最大9%、現在の2倍になる可能性があるという。

テック大手の大規模な投資の理由としては第2に、テック企業の文化がCDRの先駆的な性質とよくマッチしていることが挙げられる、とシーグリストは言う。

「テック企業はイノベーションに慣れている。だから、彼らが同じ感覚で気候変動分野に目を向けるのは、ある意味自然なことだ」

3番目は? そう、金だ。テック企業は、CDRの会社が規模を拡大しようとしているときに、それを実現するためのリソースを持っている。

気候科学者は、CO2排出量を迅速に削減し、クリーンエネルギーを増やすだけではなく、世界規模で、既に大気中に過剰に排出されたCO2を削減する方法を見つけなければならないと言う。

気候変動に取り組む独立系調査会社のローディアム・グループのパートナー、ジョン・ラーセンは本誌の取材に対し、「CO2除去は、気候変動を解決する戦略として、非常に重要な要素だ」と語った。

ローディアムは、今年初めにCDR手法の現状に関する本格的な報告書を作成した。その結論は、「CDRは成長する必要がある」ということだ。

「今世紀半ばまでに、アメリカだけで約10億トンのCO2を除去する必要がある」と、ラーセンは言う。ローディアムの調査では、このままではアメリカが2035年までに除去できるCO2は、約5000万トンにすぎないという。「まだまだ先は長い」

ローディアムの報告書には、植林や農業といった自然の力を使ったソリューションから、クライムワークスのマンモス・プラントの未来的な技術まで、さまざまなCDRの手法が取り上げられている。

「方法はいろいろだ」とラーセンは言う。そして費用も、長所短所も、環境への影響もソリューションによってそれぞれ異なっている。

「自然の力を使ったソリューションは誰にでも使えて、商業的にすぐに実用化可能な傾向がある」とラーセンは言う。だが一方で、数値的に評価しづらい部分もありそうだ。

18日の発表にも、自然の力を使ったCDRが盛り込まれていた。

マイクロソフトがBTGパクチュアル・ティンバーランド・インベストメント・グループと結んだ契約では、マイクロソフトが2046年までに自然の力を使った最大で800万トン分の炭素クレジットを売却するという。このクレジットは、ティンバーランド・インベストメント・グループが10億ドルを投じたラテンアメリカでの植林活動で創出された。

マイクロソフトのエネルギー市場上級ディレクターを務めるブライアン・マーズは、本誌の取材に対し、自然の力を使ったソリューションはマイクロソフトの環境目標の達成に向けた重要な要素であり、同社のCDRクレジット購入のほぼ半分を占めることになるだろうと語った。

「自然の力を使ったソリューションなくして、低炭素経済へのスムーズな移行は実現できないだろう」と彼は言う。

アルファベットやメタも出資

植林プロジェクトから送出されたカーボンクレジットの市場は、多くの企業にとってビジネスがしにくい市場だった。植林や森林保全を行うプロジェクトの中には、気候変動対策の目標に届かないと確認されたものも少なくなかった。

だが、「この分野のCDRに対するわれわれの自信は、市場が成熟するにつれて大きくなっている」とマーズは述べた。

環境NGOのコンサベーション・インターナショナル(CI)は、植林や森林の復興が、生物多様性の保護といった他の目標と齟齬を来さないよう、環境への影響に関する助言を行う予定だ。

マイクロソフトとBTGパクチュアルはいずれも、本誌の「最も信頼できる企業ランキング」にランクインしている。

ブラジルに本拠を置くBTGパクチュアルは、本誌の「世界で最も信頼できる企業ランキング」の金融サービス分野で44位だ。またマイクロソフトは「アメリカで最も信頼できる企業ランキング」のソフトウエア・通信分野で5位に入っている。

フロンティアによるCDR購入にも、自然の力を使ったものと新しい技術によるものの両方が含まれている。

フロンティアは2022年に、まだ黎明期のCDR産業のための需要創出を目的に、テック大手のアルファベットやメタ、ショッピファイ、ストライプなどから出資を受けて創業された。

フロンティアの戦略責任者ハナ・ベビントンは本誌に対し、同社はストックホルム・エクセルギー社との契約を結んだばかりだと語った。エクセルギーは廃材を燃やしてストックホルムの町に熱やエネルギーの供給を行っている企業で、この契約によりCO2の除去・貯留技術を自社の施設に導入することになる。

「このバイオエネルギー施設は、排出されるはずだったすべてのCO2をすべて回収し、われわれはそれをCDRとして購入する」とベビントンは述べた。エクセルギーは年に約80万トンの炭素を回収可能で、CDRプロセスの質についてはスウェーデン当局の厳しい監視によって保証されるという。

セールスフォースによれば、フロンティアに対する2500万ドルの出資は、全1億ドルの投資目標に向けた第一歩だ。ちなみにセールスフォースは、本誌の「アメリカの最も信頼できる企業ランキング」のソフトウエア・通信分野の35位に入っている。

セールスフォースのヤマニによれば、各社のCDRプロジェクトは、単にCO2を回収するだけでなく、CDR産業の規模拡大に道を開く一助となっている。

「私たちは技術革新を大きな規模で後押ししたり、そうした技術(の開発)を加速したいと考えている」とヤマニは言う。また、どのくらい多くの新しいプロジェクトが商業化に向けて前進しているか、どのくらいくらい多くの新しい買い手がCDR市場に参入を決めたかも重要な指標として注目しているという。

もっとも、テック大手がいかにCDRプロジェクトに熱心とはいっても、多くの科学者が必要と考える規模にはまだ届いていないことが、ローディアムの報告書からはうかがえる。

「民間部門がここで大きく伸びるとは思えない」とローディアムのラーセンは言う。「政府の政策に多少、上乗せするという役割がいいところだろう」

政府が民間への支援に動く気配もいくつか見えている。5月、米エネルギー省は補助金の対象となるCDRプロジェクトの最終選考に残った企業のリストを発表、その中にはクライムワークスも入っていた。クライムワークスは、アメリカ国内でも初のCDRプロジェクトをルイジアナ州で始める計画だ。

ラーセンによれば、テック企業によるCDR投資は、それまで気候変動対策のソリューションとしては過小評価されていたCDRの知名度を上げる役割を果たした。

「(CDRは)長い目で見れば大気中のCO2濃度を減らす数少ない選択肢の1つだ」とラーセンは語った。「よりクリーンな電気や電気で動く交通手段を作ること、そして気候変動問題の解決策として人々が思いつくあらゆることと同じくらい、重要だ」

【動画】CO2除去の仕組み

【動画】世界最大のCO2除去プラント「マンモス」


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