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日本の夫婦が生む子どもの数は70年代以降減っていない

ニューズウィーク日本版 2024年6月27日 14時40分

舞田敏彦(教育社会学者)
<少子化の背景にあるのは未婚率の上昇で、その対策には若年層全体への経済支援が必要>

第3子を出産した家庭に祝い金を支給し、児童手当も手厚くしている自治体が多い。国としても、多子世帯の学生については、大学の授業料を無償にする方針を示している。子どもを3人、4人育てる家庭の負担を軽減しよう、という配慮からだ。

こういう政策の背景には、「今の夫婦は、子どもを1人、多くても2人までしか産まない」「少なく産んで大事に育てる考えが広まっている」という認識がある。確かに、そういう面もあるだろう。「子を1人育てるのに何千万円」という試算を聞いては、夫婦は青ざめ、第2子・3子の出産を控えようとする。少子化が進むのは、夫婦が産む子どもの数が減っているためだ、と言われたりもする。

だがデータを見ると、そうとも言えない。<表1>は、戦後初期からの出生数を5年間隔で辿ったものだ。

出生数は、第2次ベビーブームを過ぎた1970年代半ばから減少の一途で、2022年では77万人にまで減っている。このうち第3子以降は13万人で、割合にすると17.4%。この数値を他の時期と比べると、低いとは言えない。むしろ高いほうの部類だ。筆者が生まれた70年代半ばの頃よりも、今の夫婦のほうが第3子以降を多く産んでいる。

既婚女性ベースの出生率でみても、過去最低というわけではない。30年ほど前の1990年では、20~40代の有配偶女性は1861万人。出生数は上表にあるように122万人なので、出産年齢の既婚女性100人あたりの出生数は6.56人。2022年の同じ数値は6.84人で、これよりも若干多い。

夫婦が産む子どもの数が減っているとは、一概に言えない。近年では微増の傾向すらある。未婚率の高まりにより、結婚している(できている)夫婦の割合は小さくなっているが、それだけ「選ばれし層」になっている、ということだろう。

それはデータでも示せる。6歳未満の子がいる世帯の年収中央値を計算すると、2007年では528万円だったが、2022年では692万円にまで増えている(総務省『就業構造基本調査』)。東京に限ると650万円から946万円と、15年間にかけて300万円近くも増えている。47都道府県の数値を出し、3段階で塗分けた地図にすると<図1>のようになる。

この15年間で地図の色が濃くなっている。2007年では年収中央値が500万円未満の県が多かったが、2022年では600万円を超える県が大半だ。国民全体が貧しくなっているのとは裏腹に、子育て世帯の年収は上がっている。今では、少ない年収では結婚・出産はおぼつかない。結婚・出産の階層的閉鎖性が強まっている。

少子化対策に当たって、子育て世帯の負担の緩和が重要であるのは確かだ。しかし、高いハードルを越えた「選ばれし層」だけを支援の対象にしては、効果は薄いと言うべきだろう。全国民から徴収する少子化支援金にしても、この部分だけに注がれるとしたら、持たざる者から持てる者へとお金を流してしまうことになる。

未婚者層をも含む、若者全体を支援の対象として見据えないといけない。増税もあり、今の若年層の可処分所得は減っていて(「この四半世紀でほぼ倍増した若年層の負担率」本サイト、2023年8月16日)、少なくなった手取りから、重みを増した消費税で日々の買い物をし、学生時代に借りた奨学金の返済もしている。結婚どころではない。

減税をして、彼らが自由に使えるお金を増やすことに重きを置くべきだ。人生のイベントアワーにある若年層の可処分所得を増やすことは、昨年に策定された「こども未来戦略」の基本理念として示されている。都知事選が近いが、この理念を施策として実行できる首長の誕生を望みたい。

<資料:厚労省『人口動態統計』、
    総務省『就業構造基本調査』>

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