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訪朝しても、金正恩と「ブロマンス」しても、プーチンの活路は開けない

ニューズウィーク日本版 2024年6月27日 16時14分

グレン・カール
<訪朝したプーチンと金正恩の「ブロマンス」に世界があ然としたが、蜜月は長続きしない。北朝鮮が備蓄する砲弾が尽きれば終わるだろう>

ロシアのプーチン大統領が6月19日、北朝鮮を訪問し熱烈な歓迎を受けた。しかし、プーチンと北朝鮮の金正恩総書記の蜜月は、ハリウッドスターの結婚生活程度しか続きそうにない。その期間は1年ほど。北朝鮮が蓄えている旧ソ連製の砲弾が底を突くまでだ。

それでも、プーチンにとって今回の訪朝は、実務上賢明な動きだった。ロシアはいま砲弾を切実に必要としている。ロシア軍はウクライナ戦争で1日に約1万発の砲弾を使っているが、それだけの砲弾を自国で生産することはできない。その点、北朝鮮は、ロシア製兵器で使用可能な砲弾を大量に備蓄している。

プーチンの訪朝は、地政学上の戦略としても理にかなっている。まず、プーチンが国際社会で孤立などしておらず、国際政治の重要人物であり続けていると、世界に向けて印象付ける機会になった。

今回の訪朝には、グローバルサウスの国々に対して、ロシアが旗を振る「多極的」世界秩序の魅力をアピールする狙いもあった。その多極的秩序の下では、アメリカ主導の世界秩序と異なり、人権や法の支配、民主主義などの問題で、国際社会が各国の国内問題に口を挟むことはない。この点を好ましく感じる統治者も少なくない。

ロシアと北朝鮮は今回、金が言うところの「史上最強の条約」に署名した。同条約では、一方の国が軍事攻撃を受けた場合の相互支援を約束したように見える(ただし、条約の細かい文言を読むと、支援を行わない道も残されているのだが)。プーチンは、西側諸国がウクライナへの武器提供を継続すれば、ロシアが北朝鮮に武器を提供する可能性があるという警告も発している。

こうした点で、プーチンの訪朝は、韓国、日本、アメリカの安全保障戦略をいっそう難しいものにしたと言える。

しかし、プーチンの挑発は裏目に出る可能性もある。韓国政府はプーチンの恫喝を受けて、ウクライナに殺傷能力のある武器を提供しないというこれまでの方針を見直すとし、日米との軍事協力を拡大させる意向も表明した。日本も、ロシアと北朝鮮の接近により、米韓との防衛協力強化を目指す自国の方針が正しかったことが裏付けられたと考えている。

プーチンと付き合う「損得」を天秤にかける男

それに、今回のプーチンの行動は、中国の習近平国家主席の意向にも反する。ホワイトハウスも、ロシアと北朝鮮の条約締結は中国も歓迎しないだろうとコメントしている。この指摘が浮き彫りにしたように、ロシアがウクライナとの戦争を続ける上では中国の支援が欠かせず、ロシアは実質的に中国に従属する状態になっているのだ。

中国にとって北朝鮮は、アメリカがアジアで影響力を拡大することを防ぐ防波堤の役割を持つ。しかし、中国は同時に、北朝鮮の挑発的な行動が自国とアメリカの関係を危うくしかねないと懸念してもいる。

ロシアと北朝鮮の条約について、中国政府は正式なコメントを避けているが、非公式なメッセージは発している。中国人民大学の国際関係論の教授が北東アジア情勢について、お決まりのように日米韓を批判する一方で、この条約が対立と紛争のリスクを「大きく高めた」と指摘している。

差し当たり、プーチンは思惑どおり、砲弾を手にし、国際社会の安定を揺さぶることができる。北朝鮮の砲弾が底を突けば、両国の蜜月は熱が冷めるだろうが、ロシアと北朝鮮が20世紀の冷戦時代以来の協力関係をある程度続ければ、日米韓は防衛協力を強化せざるを得なくなる。

ただし、プーチンの「友情」が中国にもたらす恩恵より、プーチン(とウクライナ戦争)による害のほうが大きいと習近平が判断するまでのことだ。

「大活躍」のアイスホッケーの試合でプーチンがコケた瞬間

 

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