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中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?

ニューズウィーク日本版 2024年6月27日 18時33分

マイカ・マッカートニー
<「共同富裕」の名の下、勝ち組企業への締め付けが強まり、SNSでの「カネ持ち自慢」も禁止されて、祖国に見切りをつける富豪が続出>

中国から国外に移住する富裕層は今年、過去最多に達する見込みだと、最新のリポートが伝えた。中国人富豪の移住先として一番人気があるのはアメリカだ。

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「中国は富裕層の流出で再び世界トップの座に就く見込みだ。今年、中国から出ていく富豪は1万5200人に上ると予想される」──富裕層の移住コンサルティング会社・ヘンリー・アンド・パートナーズ(H&P)は6月18日に発表した報告書でそう述べている。

世界第2位の規模を誇る中国経済は、2023年年明けのゼロコロナ政策解除を契機に、緩やかな回復に向かい始めた。だがその後は不動産危機、地方政府が抱える巨額の債務、若年層の失業率の高さ、内需の伸び悩みと、八方塞がりの状況が続く。

富裕層の国外脱出が増え始めたのは、中国の習近平国家主席が「共同富裕」のスローガンを掲げ、所得格差の是正と持続可能な開発推進の名の下、「富を誇示するような」SNSの投稿を禁止し、テック企業などへの締め付けを強化し始めた時期に重なる。

こうした政策が富の蓄積の足を引っ張り、富裕層の流出を促進しているようだと、アジア開発銀行の米国大使を務めたカーティス・チンはH&Pの報告書で述べている。ただし、中国にはミリオネア(純資産100万ドル以上の富豪)がおよそ86万2400人いるため、国外脱出組はそのごく一部にすぎない。

背景には複数の要因

「米国株はこの2年間ジェットコースターのように乱高下していて、好況とは言えないかもしれないが、欧州各国と比べれば、資産運用でより大きなリターンが見込める。ウォール街はここ数カ月、また記録的な運用益を出し始めた」と、ウィーンに拠点を置く人文社会科学の研究機関「人間科学研究所」のミーシャ・グレニー所長は、H&Pの報告書で指摘している。

中国の富豪が目指す移住先は、アメリカに次いでカナダが第2位。次はEU、シンガポール、日本、香港と続くと、データ解析でH&Pと提携しているニューワールド・ウェルスのトップ、アンドルー・アモイルズは本誌に話した。

アメリカには今年、世界中から3800人のミリオネアが流入する見込みだ。これは、アラブ首長国連邦(UAE)に流入する6700人に次いで第2位で、第3位のシンガポールには世界各国から3500人のミリオネアが移住する見込みだ。

本誌は米国市民権・移民業務局に書面でコメントを求めている。

米シンクタンク「アジア・ソサエティー政策研究所」付属中国分析センターのグオナン・マー上級研究員によれば、中国人富豪の国外脱出の背景には、いくつかの要因が働いているようだ。

第1の要因は、習政権がここ数年、国内のテクノロジー企業への規制を強化していることだ。

英金融サービス会社・リフィニティブのデータによれば、アリババ、騰訊(テンセント)など中国のテック大手5社の株式時価総額は2020年末から2023年7月までに合計1兆ドル以上も縮小した。

規制強化に「地方の起業家が恐れをなし、国外の比較的安全な避難先に逃れようとしているようだ」と、マーは言う。

不動産価格の下落とデフレ圧力で「ドル建てと人民元建て資産の収益格差が広がっている」ことも資産家の国外脱出の増加を促していると、マーは見る。

 

また、中国人起業家や投資家が「国内政治と地政学的なリスクの高まり」を懸念し、資産の分散を図っていることも脱出増加の一因になっているという。

ミリオネアの大脱出について、在米中国大使館の劉鵬宇(リュウ・ペンユー)報道官に聞くと、「経済のグローバル化で、各国間・地域間の移住の自由と魅力が大幅に拡大した。移住は個人の選択だ」との答えが返ってきた。

とはいえ、「長期にわたり成長を続けるという中国経済の基本的な流れは変わらず」、中国は今後も外国人にとって、学ぶにも生活するにも働くにも魅力的な国であり続ける、と劉は主張した。

3位はインド、2位は意外な国

富裕層の国外移住の多さで中国、イギリスに次いで世界第3位のインドは、「経済成長に伴い、新興のミリオネアが多数生まれている」と、英シンクタンク「英国政府研究所」のハナー・ホワイトCEOはH&Pの報告書で論じている。「ただ、中国は近年、成長が鈍化しており、時間が経つにつれ、長期的な損失が拡大する恐れがある」

H&Pによれば、中国のミリオネアは2013〜2023年に92%も増加したが、不動産価格の下落は止まらない。不動産部門は中国のGDPの推定25〜30%を占めていて、不動産危機が始まる前は、中国人の世帯資産のざっと7割が不動産関連だった。

中国の民間シンクタンク胡潤研究所が発表した今年の富豪ランキング「胡潤百富榜」によると、経済成長の鈍化に伴い、中国ではビリオネア(純資産10億ドル以上)が前年に比べ155人減り、19%のマイナスを記録したという。

今年に入り、信用格付け会社フィッチとムーディーズがそろって、中国の国債の格付けを「安定的」から「弱含み」に下げた。債務の重圧と財政再建の困難さを考慮しての評価だ。

富裕層の流出で中国に次いで世界第2位のイギリスからは、今年9500人のミリオネアが国外移住する見込みで、この数は昨年のおよそ2倍に相当すると、H&Pは報告している。



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