木村正人
<7月の仏国民議会選に向けた世論調査で、マクロン大統領の中道連合はルペン氏の国民連合に大差を付けられ3位に低迷>
[ロンドン発]6月30日と7月7日の2回、投票が行われる仏国民議会選(下院、定数577)の世論調査で、国民連合(旧国民戦線)と共和党の右派連合37%、不服従のフランスや社会党などの左派連合28%がエマニュエル・マクロン大統領の中道連合20%を大きく引き離している。
英誌エコノミストは社説(6月27日)で「マクロン氏はフランスのために良い仕事を成し遂げたが、すべてをリスクにさらしてしまった。国民議会選後、右派と左派のポピュリストが中道の大統領の足かせになる恐れがある」と分析する。
マクロン氏は7月26日、セーヌ川での開幕式で始まるパリ五輪でフランス最高の姿を世界に誇示するはずだった。しかし先の欧州議会選で、党の脱悪魔化を進めて支持を集めるマリーヌ・ルペン氏の国民連合に倍以上の差をつけられ、国民議会の解散に追い込まれた。
構造改革を進めた政権は有権者に罰せられる
マクロン氏は大統領に就任してからの7年間、フランスをビジネスフレンドリーに転換させ、200万人の雇用と600万社以上を生み出したとエコノミスト誌は評価する。富裕税を抑え、企業減税を実施した。受給開始年齢を段階的に引き上げる不人気な年金改革にも着手した。
元ルクセンブルク首相で前欧州委員会委員長ジャン=クロード・ユンケル氏がいみじくも 「私たちは皆、何をすべきか知っているが、それを実行した後、どうすれば再選されるかを知らない」と喝破したように構造改革を進めた政権は有権者に罰せられるというジレンマがある。
マクロン氏もまた、そのジレンマの犠牲者になろうとしている。3年も前倒しして国民議会を解散するというギャンブルは右派と左派をそれぞれ団結させた。その結果、マクロン氏の中道候補者の多くは1回目投票で脱落する可能性が高くなった。
次期フランス首相を目指す若きカリスマ
「自国に改革の果実をもたらした大統領がなぜこのような苦境に陥るのか。パリをはじめ大都市が繁栄する一方で、フランスの多くの地域はそうではない。格差に対する認識が、民主主義世界の多くで政治を右傾化させている」とエコノミスト誌は指摘する。
道路整備など関連経費も含めて費用が立候補時の見積もりの5倍に膨れ上がった東京五輪が有権者の目の敵にされたように、パリ五輪も経済格差、生活費の高騰、政治エリートへの反発の象徴になる恐れがある。
フランスの次期首相を目指すのは国民連合党首のジョルダン・バルデラ氏(28)だ。母はイタリア系移民。16歳で国民戦線に参加し、エネルギッシュな演説が評判となり、めきめきと頭角を現したマリーヌ・ルペン氏の秘蔵っ子である。
フランスは希望ではなく、怒りや悲しみに支配されている
バルデラ氏のリーダーシップの下、国民連合は欧州議会選で大躍進した。カリスマ性と若い有権者へのアピール力を武器に「フランスは消滅しつつある」と国家衰退の危機感を煽る。バルデラ氏は英紙フィナンシャル・タイムズのインタビュー(6月26日)にこう答えている。
「フランス人は変化を求める準備ができている。7年に及んだマクロンの残忍な統治と決別する。欧州連合(EU)予算への拠出金を20億ユーロ削減する」と述べる一方で「経済政策は経済界の信頼と安定を確保するため多くの現実主義から成っている」と動揺する市場の抑制に努めた。
ロシアとの戦争に発展しない限りウクライナへの軍事支援も約束した。しかし過激派とみなされたモスク(イスラム教の礼拝所)の閉鎖や導師の国外追放を容易にする措置やイスラム主義を強調する衣服の禁止など「イスラム主義イデオロギーと闘う」法案を推進するという。
フランスはいま希望ではなく、疲労と怒り、悲しみ、恐怖に支配されている。有権者はマクロン氏に不満をぶちまける方法として、国民連合に走る。こうした空気がフランス国民議会選の結果を通じて、極右政党「ドイツのための選択肢」が台頭する隣国に伝播するのは避けられまい。
<7月の仏国民議会選に向けた世論調査で、マクロン大統領の中道連合はルペン氏の国民連合に大差を付けられ3位に低迷>
[ロンドン発]6月30日と7月7日の2回、投票が行われる仏国民議会選(下院、定数577)の世論調査で、国民連合(旧国民戦線)と共和党の右派連合37%、不服従のフランスや社会党などの左派連合28%がエマニュエル・マクロン大統領の中道連合20%を大きく引き離している。
英誌エコノミストは社説(6月27日)で「マクロン氏はフランスのために良い仕事を成し遂げたが、すべてをリスクにさらしてしまった。国民議会選後、右派と左派のポピュリストが中道の大統領の足かせになる恐れがある」と分析する。
マクロン氏は7月26日、セーヌ川での開幕式で始まるパリ五輪でフランス最高の姿を世界に誇示するはずだった。しかし先の欧州議会選で、党の脱悪魔化を進めて支持を集めるマリーヌ・ルペン氏の国民連合に倍以上の差をつけられ、国民議会の解散に追い込まれた。
構造改革を進めた政権は有権者に罰せられる
マクロン氏は大統領に就任してからの7年間、フランスをビジネスフレンドリーに転換させ、200万人の雇用と600万社以上を生み出したとエコノミスト誌は評価する。富裕税を抑え、企業減税を実施した。受給開始年齢を段階的に引き上げる不人気な年金改革にも着手した。
元ルクセンブルク首相で前欧州委員会委員長ジャン=クロード・ユンケル氏がいみじくも 「私たちは皆、何をすべきか知っているが、それを実行した後、どうすれば再選されるかを知らない」と喝破したように構造改革を進めた政権は有権者に罰せられるというジレンマがある。
マクロン氏もまた、そのジレンマの犠牲者になろうとしている。3年も前倒しして国民議会を解散するというギャンブルは右派と左派をそれぞれ団結させた。その結果、マクロン氏の中道候補者の多くは1回目投票で脱落する可能性が高くなった。
次期フランス首相を目指す若きカリスマ
「自国に改革の果実をもたらした大統領がなぜこのような苦境に陥るのか。パリをはじめ大都市が繁栄する一方で、フランスの多くの地域はそうではない。格差に対する認識が、民主主義世界の多くで政治を右傾化させている」とエコノミスト誌は指摘する。
道路整備など関連経費も含めて費用が立候補時の見積もりの5倍に膨れ上がった東京五輪が有権者の目の敵にされたように、パリ五輪も経済格差、生活費の高騰、政治エリートへの反発の象徴になる恐れがある。
フランスの次期首相を目指すのは国民連合党首のジョルダン・バルデラ氏(28)だ。母はイタリア系移民。16歳で国民戦線に参加し、エネルギッシュな演説が評判となり、めきめきと頭角を現したマリーヌ・ルペン氏の秘蔵っ子である。
フランスは希望ではなく、怒りや悲しみに支配されている
バルデラ氏のリーダーシップの下、国民連合は欧州議会選で大躍進した。カリスマ性と若い有権者へのアピール力を武器に「フランスは消滅しつつある」と国家衰退の危機感を煽る。バルデラ氏は英紙フィナンシャル・タイムズのインタビュー(6月26日)にこう答えている。
「フランス人は変化を求める準備ができている。7年に及んだマクロンの残忍な統治と決別する。欧州連合(EU)予算への拠出金を20億ユーロ削減する」と述べる一方で「経済政策は経済界の信頼と安定を確保するため多くの現実主義から成っている」と動揺する市場の抑制に努めた。
ロシアとの戦争に発展しない限りウクライナへの軍事支援も約束した。しかし過激派とみなされたモスク(イスラム教の礼拝所)の閉鎖や導師の国外追放を容易にする措置やイスラム主義を強調する衣服の禁止など「イスラム主義イデオロギーと闘う」法案を推進するという。
フランスはいま希望ではなく、疲労と怒り、悲しみ、恐怖に支配されている。有権者はマクロン氏に不満をぶちまける方法として、国民連合に走る。こうした空気がフランス国民議会選の結果を通じて、極右政党「ドイツのための選択肢」が台頭する隣国に伝播するのは避けられまい。