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サラ・マクラクラン、名盤『エクスタシー』を語る 「もう好きなようにやるって開き直った」

ニューズウィーク日本版 2024年6月29日 11時6分

デービッド・チウ for WOMAN
<歌手サラ・マクラクランが出世作『エクスタシー』を全曲再現する北米コンサートツアーをスタート>

「『もうすぐ30周年だって知ってる? 記念にコンサートツアーをやらなきゃね』。みんなにそう言われて計算したら、本当に30年もたっていてびっくりした」

30周年を迎えたのはカナダのシンガーソングライター、サラ・マクラクラン(56)が1993年に発表した3枚目のアルバム『エクスタシー』だ。制作時はこれが大ブレイクのきっかけになるとは夢にも思わず、ただ心境の変化を感じながら曲を書き、レコーディングに臨んだという。

「身軽な気分だった」と、マクラクランは本誌に語った。「あんなに長い期間恋人がいないのは初めてで、とにかく自由を満喫していた。アルバムものびのび楽しんで作ることができた」

故郷カナダでは91年の2枚目『ときめき』で地位を確立していたマクラクランだが、その名をより広い世界に知らしめたのが『エクスタシー』だった。特にアメリカでは人気が高く、現在までに約300万枚を売り上げている。

マクラクランはこれを序章として地道に公演を重ね、4枚目の『サーフィシング』で名実共にスターの座をつかみ、女性アーティスト中心の音楽フェスティバル「リリス・フェア」を立ち上げた。

アルバム『エクスタシー』は多彩な心の動きを表現

@official.sarahmclachlan The Fumbling Towards Ecstasy 30th Anniversary Tour begins in just three months! Secure your tickets at SarahMcLachlan.com #SarahMcLachlan #FumblingTowardsEcstasy #30thAnniversary #Tour ♬ Angel - Sarah McLachlan

この夏マクラクランは5月23日のバンクーバー公演を皮切りに、『エクスタシー30周年記念ツアー』で北米を回る。アルバムを全曲通しで再現する趣向で、チケットの売り上げ1枚につき1ドルが、青少年に無償で音楽教育を提供する非営利団体「サラ・マクラクラン・スクール・オブ・ミュージック」に寄付される。

ゲストに招いたファイストとアリソン・ラッセルもカナダ出身だ。「今までも女性アーティストと共演し、前座をお願いしてきた。私は2人の大ファンだから、ツアーは交流を深めるいい機会よ」

マクラクランは『エクスタシー』を、ほかのどのアルバムよりもすんなり曲が生まれた1枚と表現する。芸術的にもっと冒険していいのだと手応えを感じながら、彼女はこの作品を作り上げた。

「(88年の)デビュー作『タッチ』は高く評価されたけれど売り上げは今いちだったから、2枚目では前作を超えなきゃと肩に力が入った。でも3枚目になると『いいや。もう好きなようにやる』という開き直りの境地に。贅沢なことに、創作面では自由にさせてもらえた。それが成功の一因だと思うし、楽しかったのは間違いない。前作のようなプレッシャーを感じず、自分らしさを追求できた」

孤独、不安、メランコリー、憧れに希望。マクラクランの艶のあるボーカルが、豊かで深みのあるサウンドと空気感をバックに多彩な心の機微を浮かび上がらせる。

ダークで強烈な印象を残すオープニングナンバー「ポゼッション」は、ファンのストーカー行為に怯えた体験を基に書かれた。「恐ろしくて訳が分からなかった」と、マクラクランは回想する。

「ポゼッション」

「グッド・イナフ」は女性に対する暴力を取り上げて、胸に迫る。

「グッド・イナフ」

「あの曲では親しい女友達をモデルにした。恋人の虐待に耐えている彼女に、『あなたにはもっとふさわしい人がいる』と伝えたかった。これは友情ソングであると同時に、聞く人みなに『あなたには自分で思うより大きな価値がある』と訴えた曲なの」

ラストを飾る2曲「おそれ」と「エクスタシー」ではアルバムのテーマを凝縮するかのように、それぞれ不安と勇気を歌った。

「私は人生の暗い面に引かれるたちなんだと思う。試練を歌にすると嘘みたいに気持ちが晴れるから」と、マクラクランは言う。「でも楽観的な面もあって、歌詞に希望を込めることを大事にしてきた。暗いテーマに引かれるからこそ、希望を探さないと幸せな自分に戻れない(笑)」

「おそれ」

伝説のフェスが「誇り」と語るマクラクラン

『エクスタシー』をリリースした後の2年間は公演に明け暮れ、ツアーを通じて知名度を上げた。「200人だった観客が1000人、2000人へと増えた。そうやってファン層を築いていった」

『エクスタシー』の評判と売れ行きを土台に、97年には『サーフィシング』が世界で大ヒット。リリス・フェアを主宰し、ヘッドライナーを務めたのもこの年だった。

シェリル・クロウ、トレイシー・チャップマン、フィオナ・アップルをはじめ豪華メンバーが集結した伝説のフェスについて、マクラクランは「今でも胸が躍る」と語る。

「フェスに携わり、あんなに大勢の女性アーティストに賛同してもらえたのはとても幸福で名誉なことだった。互いに高め合うことで私たち女は生き延び、耐え忍び、繁栄してきた。この世のシステムは全て男が男のために作ったもの。リリス・フェアはそこに風穴を開ける1つの方法だった。心から誇りに思う」

ツアーでこれまでの軌跡を振り返りつつ、未来も見ている。「新作に取り組んでいるの。プロデューサーたちも私もいくつも企画を抱えて忙しいから、少しずつ進めるしかない。暇を見つけては互いの予定を押さえている」

デビューから35年後の今も気分は12歳の子供だと、マクラクランは言う。

「音楽のおかげでこの素晴らしい人生に恵まれ、今も夢なんじゃないかと毎日頰をつねっている。35年がたっても好きな音楽をやり、それを人々が聞きに来てくれるなんて、本当に夢みたい」

「エクスタシー」

@official.sarahmclachlan The Fumbling Towards Ecstasy 30th Anniversary Tour begins in just three months! Secure your tickets at SarahMcLachlan.com #SarahMcLachlan #FumblingTowardsEcstasy #30thAnniversary #Tour ♬ Angel - Sarah McLachlan


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