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子どもを自殺に追い込む「本当の」動機は何か?

ニューズウィーク日本版 2024年7月3日 10時30分

舞田敏彦(教育社会学者)
<一般的には「いじめ」が多いと思われがちだが、実際に多いのは学業・進路の悩みや親子・家族との関係>

子どもの自殺が増えている。2023年の10代の自殺者数は810人で、10年前の2013年の536人と比較すると1.5倍の増加だ(警察庁)。統計がある1978年以降の推移で見ても、3番目に高い。

少子化傾向にあることを考えると、子どもの自殺率は高くなっている。昔に比べて栄養状態は格段に良くなり、少人数できめ細かな教育が受けられるなど、子どもにとっていい時代になったと言われる。しかし、彼らの「生きづらさ」は増しているようだ。

どういう動機(理由)で若い命を自ら断つのか。一般的には、いじめを苦にしたものが多いのではないかと思われている。警察庁の統計に当たってみると、2017~2021年の5年間で、「いじめ」が原因・動機で自殺した10代少年は21人。予想外というか、全体の中で見ると少ない。

では、どのような動機が多いか。<表1>は、10代の自殺動機の上位20位を抽出したものだ。当該の動機で自殺した者の数で、割合は、5年間において計上された自殺動機の数(のべ数で人数とは異なる)に占めるパーセンテージだ。

最も多いのは学業不振で、当該の動機による自殺者は284人。判明した動機全体の1割弱を占める。その次は精神疾患で、3位は進路の悩み。うつ病、親子関係の不和、家族からの叱責といったものがそれに続く。

子どもの自殺動機の上位を見ると、家庭の闇のようなものが感じられる。具体的には、わが子を無理な勉学へと駆り立てる「毒親」の存在だ。少子化により、少なくなった子どもへの期待圧力が高まる中、親の養育態度にも歪みが起きやすくなっているのかもしれない。

子どもに早期受験を強制することなども、虐待に含まれる。虐待の英語表記(abuse)を分解すると「ab+use」で、元々の意味は、子どもを異常なやり方で使役することだ。家計の足しに、子どもを働かせる(児童労働)などはその典型と言える。現在ではこうした「abuse」は少なくなっているものの、別の意味の「abuse」が増えつつある。

なお、自殺の動機には性差もある。<表1>の右端の割合を男女別に計算し、グラフにすると<図1>のようになる。横軸に男子、縦軸に女子の数値をとった座標上に、それぞれの動機・原因のドットを配置したグラフだ。

斜線は均等線で、この線より下にある動機は「男子>女子」で、上にある動機はその逆ということになる。男子では学業不振や進路の悩み、女子では親・友人との不和や精神疾患による自殺が相対的に多い。

主な生活の場である家庭において、子どもの生活態度が不安定になりやすくなっている。現在では、自殺勧誘サイトといった有害情報もはびこっている。行為へと押しやる要因(プッシュ)と、それへと引き込む要因(プル)の重なりにより、子どもが自殺へと傾きやすくなっているとみられる。

対策の基本は、これら2つの要因を除去することだ。インターネット環境の浄化やネットパトロールの強化については、当局の通知でも触れられている(文部科学省「児童生徒の自殺予防に係る取組について」2023年7月)。もうすぐ夏休みだが、受験期の子がいる家庭では、親子間の葛藤が起きやすいことに注意しないといけない。

子どものSOSを受け止める環境の整備も求められる。とくに長期休暇中は、相談窓口を周知徹底する必要がある。

*こどものSOSの相談窓口(文部科学省)

<資料:警察庁『自殺の状況』>

 

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