Infoseek 楽天

イギリス総選挙 政権交代しても、お先真っ暗な英国の未来

ニューズウィーク日本版 2024年7月5日 16時20分

木村正人
<イギリスの総選挙で、保守党が歴史的大敗。14年ぶりの政権交代で労働党のキア・スターマー党首が次期首相となる見通し>

[ロンドン発]7月4日投開票の英総選挙(定数650)で前身トーリー党に逆上ると350年近い歴史を誇る与党・保守党が歴史的大敗を喫した。出口調査では最大野党・労働党が410議席を獲得する見通しで、2010年以来、14年ぶりに政権を奪還する。

保守党131議席、自由民主党61議席、欧州連合(EU)離脱を主導したナイジェル・ファラージ氏率いる強硬右派新党「リフォームUK(改革英国)」13議席、地域政党・スコットランド民族党(SNP)10議席と予想される。保守党にとってはハルマゲドン級の壊滅的敗北となった。

保守党大敗と労働党の政権奪還は予想通りとは言え、改革英国が複数の議席を獲得したことには驚きを禁じ得ない。二大政党制の母国・英国政治の多極化はさらに進んだ。ファラージ氏は2016年の国民投票でEU離脱に投票した選挙区を固め、信じられないパフォーマンスだと自賛した。

「これからは労働党の票をターゲットにする」

ファラージ氏はイングランド東部エセックス州クラクトンの選挙区で保守党候補に8000票以上の差をつけて初当選し、「皆さんを驚かせる第一歩だ。これは保守党の終わりの始まりだ。これからは労働党の票をターゲットにする」と不敵な笑みを浮かべた。

元保守党副幹事長のリー・アンダーソン下院議員は今年2月、サディク・カーン・ロンドン市長(労働党)を「イスラム主義者」と結びつけて党員資格を停止され、改革英国に鞍替え。19年のEU離脱総選挙で保守党から初当選したアンダーソン氏は今回、改革英国として議席を得た。

ファラージ、アンダーソン両氏の選挙区では70%以上の人がEU離脱に投票した。英世論調査の権威ジョン・カーティス氏は英BBC放送で「改革英国は保守党地盤での保守党票の大幅減から恩恵を受けた。国民投票で離脱に投票した地域で最も前進した」と分析する。

次期首相「英国がEUに再加盟することはない」

直近の世論調査では、国民投票でEU離脱を選択したのは誤りという声は英国全体で56%、正しかったという回答は44%。EUに再加盟すべきだという意見は47%、戻らない方がいいが35%。再加盟派が離脱派を10ポイント前後上回っている。

EU離脱派は英国が再加盟に方針転換するのを防ぐため、改革英国に投票した。保守党はEU離脱派と残留派の股裂きにあい、壊滅した。ファラージ氏が次の照準を労働党に合わせるのは「レッドウォール」と呼ばれるイングランド北部・中部のEU離脱支持地域を取り込むためだ。

次の首相となる労働党のキア・スターマー党首が「私が生きている間に英国がEU、単一市場、関税同盟のいずれにも再加盟することはない」と断言するのも再加盟を匂わせたとたん、リシ・スナク首相と同じ悲惨な運命が待ち受けていることを熟知しているからだ。

「英国は破産の瀬戸際に立たされている」

ファラージ氏が英国独立党(UKIP)の党首をしていた09年欧州議会選の得票率は16%。14年の欧州議会選で27.5%となり、16年国民投票で離脱派は52%に達した。19年総選挙ではEU離脱を推し進めるボリス・ジョンソン首相(当時)の保守党の議席占有率は56%だった。

強硬なEU離脱派は英国の桎梏である。労働党政権になっても何一つ変わらない。金融コラムニストのマシュー・リン氏は英紙デーリー・テレグラフ(7月4日)に「誰も認めようとしていないが、英国は破産の瀬戸際に立たされている」と書く。

英シンクタンク「レゾリューション財団」によれば、政府債務残高の対国内総生産(GDP)比は100%に迫り、この16年間で3倍に膨れ上がった。税負担は27年度にGDPの38%近くに上昇。これは歴史上最も高い水準だ。

スナク首相だけでなく、スターマー新首相も「不都合な真実」に口を閉ざして選挙戦を戦った。高齢化が進み、生産性が低迷する先進国の誰もこの問題からは逃れられない。日本はその先頭を走っている。


この記事の関連ニュース