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賭けに負けたマクロン大統領の四面楚歌

ニューズウィーク日本版 2024年7月9日 14時14分

山田文比古
<「極右」首相とマクロン大統領の野合政権の誕生という最悪の事態は辛うじて回避できたが、あと3年の任期を残すマクロン大統領はレームダック化し、フランス政治は混乱と停滞の時代に入っていくだろう>

7月7日に行われたフランス議会下院議員選挙第2回投票(決選投票)は、左翼連合の新人民戦線がおよそ1/3の議席を獲得して第1党となり、マクロン与党が3割弱の議席を獲得して第2位、「極右」とされる国民連合と同調勢力のブロックがおよそ1/4の議席を獲得して第3党という結果に終わった。

連立政権の模索

この状況では、各党単独政権はあり得ず、複数の政党による連立政権という道しかない。
日の出の勢いであった国民連合は、失速し、過半数に届かなかった。その場合野党にとどまることを、事前にバルデラ党首は公言していたので、バルデラ首相の誕生という事態は避けられた。他の政党と連立を組むということも、まったく考えられていない。

第1党に躍り出た新人民戦線も、善戦したマクロン与党も、同じく過半数に至らず、単独政権は無理という状況だ。両党は反極右で一致するのみで、政策面では大きな隔たりがある。特に新人民戦線を構成する「不服従のフランス」とマクロン与党は、水と油の関係にあり、連立はあり得ない。

緩やかな政治協力連合

そうしたことから、現在考えられる連立のシナリオは、2つである。
第1のシナリオは、マクロン与党を中心に、左は社会党と環境派から、右は共和党までの間で、緩やかな政治協力連合(可能な範囲でのみ協力する消極的連立)を組むことだ。マクロン大統領はこのシナリオの実現を模索するだろう。

第2のシナリオは、第1のシナリオから、右は共和党を外し、左は共産党を含めた、左寄り連合で、緩やかな政治協力連合(可能な範囲でのみ協力する消極的連立) という点は変わらない。

首相と内閣については、いずれのシナリオの場合も、「アタル首相の続投+各党の寄り合い所帯内閣」となるか、「実務家首相+行政管理内閣」(イタリアモデル)、となることが想定される。第2のシナリオの場合は、左派の首相という線もあり得るが、可能性は低い。

いずれのシナリオも実現できず、連立そのものが実現できない場合は、最低限の解決策として、連立なき「実務家首相+行政管理内閣」となることもあり得るだろう。

不安定な議会、不安定な政権、レームダック大統領

いずれにせよ、緩やかな政治協力連合(可能な範囲でのみ協力する消極的連立)にとどまるのは、各党間にそれ以上の協力をするインセンティブもなければ、政策面でのコンセンサスもないからだ。その結果、議会に安定的・永続的な多数派なし、という状況は変わらない。首相と内閣は、議会の不信任決議で内閣総辞職というリスクに晒され、極めて不安定な政権とならざるを得ない。

そうした状況の中で、各党は、必要に応じその都度政策で協力はするが、その実体は妥協だ。妥協して、各党が合意可能な政策のみ実行する。しかし、各党間の対立で、合意に至るのは容易ではなく、政治的な混乱と停滞がもたらされることは間違いない。

一方マクロン大統領は、内政における指導力を失って単なる調整役にすぎなくなる。レームダック大統領と言われても仕方がない。ただし、大統領専権事項である外交は別で、マクロン大統領は今後、外交に専念することが多くなるだろう。その意味で、フランス外交に大きな変化があるとは考えにくい。

極右 vs 反極右

国民連合は、最後の決戦投票の段階で失速し、議席数の面で抑え込まれた。
その要因は、反極右の大同団結・包囲網の形成(共和国戦線)と、極端な主張をする政党に不利に働く選挙制度(小選挙区2回投票制=候補者を2人に絞り込み、有権者は二者択一の中でよりマシな候補を選択)にある。

しかし、本当に国民連合を抑え込めたわけではない。投票数(第1回投票)ベースでは1/3を占め、第1位の勢いだったからだ。

ここまで国民連合が勢力を増した背景には、「極右」に対する国民意識の変化がある。国民連合が脱悪魔化したことを認め、これまでのように「極右」と見なさなくなった国民が増加したのだ。こうして、これまで「極右」と呼ばれてきた国民連合を「極右」と見なさなくなった国民連合の支持者と、依然として国民連合を「極右」と見なす「反極右」共和国戦線支持者の間で、分断が深まったのだ。

(参考)フランスの「極右」が「極右」と呼ばれなくなる日 

この「極右」と「反極右」の戦いの決戦は、3年後の大統領選挙に持ち越された。本番は大統領選挙となる。国民連合の大統領候補であるルペン前党首にとっては、総選挙で勝利とはならなかったが、最大野党のポジションは、大統領選挙を狙うには極めて好都合だ。

マクロニズムの失敗

今回の総選挙では、マクロニズムの失敗も明らかになった。他の欧州諸国でも見られる、中道勢力の弱体化と「極右」(右派ポピュリスト勢力)の強大化が進んだからだ。                     

マクロン大統領は、「右でも左でもない」中道路線(マクロニズム)を志向してきた。それは実際には、「左の心」(社会主義者の価値観:社会的連帯、進歩主義、多文化主義など)と、「右の頭」(新自由主義者の経済政策)の両輪で、中道層を厚くすることを目指したもので、当初はそれが功を奏し、左右穏健派政党(社会党・共和党)の失墜をもたらした。

しかし、「左の心」については、移民問題や治安の悪化などで、十分に発揮できなかった一方、「右の頭」については、富裕税の廃止や年金改革などで、十分に発揮してしまった。このため「金持ち優遇のエリート」として庶民の強い反発を招き、そうした反発を我がものとしてマクロン批判を徹底的に展開した国民連合の増長をもたらしてしまったのだ。

それやこれや、マクロン大統領の危険な賭けは、自分自身の四面楚歌の状況を招いただけの失敗に終わったようだ。


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