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元気な企業を見てみれば、日本の実像はそんなに悪くない

ニューズウィーク日本版 2024年7月9日 16時40分

河東哲夫
<「日本は円安で貧しくなった」という言説が流行しているが>

この頃、日本はGDPでドイツに抜かれた、インドにも抜かれるだろう、購買力平価ではロシアにももう抜かれているなどと言われ、買い物に行けば腐りかけニンジンを平然と(それも高価で)売り場に並べていたり、人を鬱にするようなことばかり。

しかしそれとは裏腹に、元気な日本企業はたくさんある。日立製作所は業容の一大転換で、株式時価総額を危機時の8000億円から10兆円に引き上げたし、東京エレクトロンは半導体製造装置などいくつかの分野で世界で50%以上の高いシェアを持つ。また工場の自動化デバイスなどのキーエンスは創業以来わずか50年で、時価総額で日本第2位の大企業にまでのし上がった。一体、日本の実像は何なのか。

世界はいくつかの大きな転機にある。アメリカは、大統領が誰になろうと保護主義的性格を強めるだろう。同盟国、民主主義国の企業でも容赦はしない。米国外でアメリカの法律などに反する取引や行動をした外国企業には米国法を適用し(米国法の域外適用)、同企業の在米幹部を告発・投獄したり、アメリカでのビジネスを禁止、甚だしい場合にはドルでの決済ができないようにするだろう。

日本企業は米国内で生産しているから、保護主義の被害を受けることは少ないが、第三国での行動で米政府から制裁を受ける危険は今後ますます増える。

日本人は必ず解決策を見つける

中国は、外国企業にとっての輸出基地(つまり中国での低賃金を利用して、対米欧輸出用の製品を組み立てる場所)ではもうなくなった。賃金は上がったし、米欧はこれから中国製品への壁をますます高くするだろう。だから中国での生産は、中国市場での販売を狙うだけのものになるが、ここでは中国企業との厳しい競争にさらされる。それだけでなく、政府の助成金で太った中国の企業は国外での直接投資にも進出。製品はダンピングで販売して、他国の企業を力ずくで押し出そうとする。

欧州では......いや、もうよそう。

世界の経済は、このように「国」単位で物事を考える時代を通り越した。17世紀以降、西欧諸国は税を国王、次に議会に集中管理させて強い軍隊を創出。それを使って海外の植民地を広げて、自分の市場とした。だが、この国家を単位とする近代のモデルは過去のものになりつつある。

アメリカの半導体企業、IT企業のいくつかは台湾系・中国系・インド系の人たちが動かしているし、ドイツの自動車企業は中国の自動車企業とほぼ合体して、中国市場の制覇、電気自動車(EV)の開発を進める。日本の企業もアメリカなどで果敢なM&Aを進めてきたし、AI開発のような先端部門でも「Sakana AI」社はグーグル脱藩組に日本の元若手外交官が加わった痛快なユニコーンだ。

企業の経営部門は急速にグローバル化していて、人種・民族の混在は当たり前。外国人を「おもてなし」する外部の存在としてしか見ることのできない日本人の常識では理解ができない。グローバル企業やグローバル人材だけが先に行ってしまわないよう、それら企業の税収は一国が独占することなく、関係各国の間で分配する制度をつくっておくことが重要だ。

「日本は円安で貧しくなった」という言説が流行しているが、トランプ前米大統領が再選して利下げでもしようものなら、円安は急速に解消され、日本経済は急浮上して実力相応の姿を見せるだろう。労働力不足を補うレストランでの配膳ロボットのように、日本人は必ず解決策を見つける。うわべ、そして付和雷同の報道にだまされず、本当のトレンドを見極めていきたい。

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