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日本人が知らないアイルランドの「呪われた」チーム

ニューズウィーク日本版 2024年7月9日 18時0分

コリン・ジョイス
<アイルランドで高い人気を誇る伝統のスポーツ「ゲーリックフットボール」で驚異の11大会連続決勝負けのチームがある>

ちょっと奇妙な話だが、僕は最近、「報道されるにまで至っていない世界のニュースをいくつか」記事に書く機会があり(ニューズウィーク日本版7月16日号〔7月9日発売〕特集「まだまだ日本人が知らない世界のニュース50」)、世界で一番不運かもしれないスポーツチームのメイヨーについて書くことができてうれしかった。それでも誌面スペースが限られているために、僕は注目に値するストーリーを「伝えきれていない」という感覚をぬぐえずにいる。

僕が特集で取り上げた記事の1つは、ゲーリックフットボールというアイルランドで高い人気を誇る伝統のスポーツについて。これが世界的な競技でないことは承知の上だが、それでもアイルランドで情熱と誇りを持ってプレーされ、激しい戦いが繰り広げられる。

ゲーリック(とハーリングという競技)の統括と普及を担うGAA(ゲーリック体育協会)は、アイルランドがイギリスの統治下にあった1884年に設立された。その明らかな目的は、古代アイルランドのスポーツを復興し、クリケットやラグビーといった「外国」のスポーツ――つまり「イングランド」のスポーツ――に取って代わるということだった。

アイルランドはその後長い間、自国の伝統スポーツと共に、これらの「外国」のスポーツをすることを受け入れてきた。でも、歴史的にゲーリックの競技は特に、アイルランド人としての誇りやナショナリスト運動と結びつきが強い。

街全体がメイヨーのチームを応援したが

僕の一族はメイヨー州の出身で、ここはアイルランドでも最も貧しい地域だった。1845~52年のジャガイモ飢饉では大きな被害を受けた。現在でも州の人口は、飢饉前の1841年に比べてわずか3分の1だ。

だから、メイヨーがゲーリックフットボールという何か1つのもので非常に秀でているということは、誇りに関わる問題なのだ。僕が2006年に初めてメイヨー州を訪れた時、赤と緑のメイヨー州の旗が街のそこかしこを飾っているのを見て驚嘆したのをよく覚えている。全ての家、全ての商業施設、全ての大通りが、全国選手権決勝に進出したメイヨーを応援するように旗を掲げているように見えた。

問題は、メイヨーがこの全国選手権の決勝戦で想像を絶する連敗を喫しているということ。なんと73年間にわたり11回連続で決勝戦負けなのだ。これを数学の問題に置き換えると、2つの結果が同じ確率で起こり得る場合、コインを投げて11回連続で裏になる確率は、5000分の1以下になる。

もちろん、スポーツ競技はコイントスではない。メイヨーの対戦相手が特に強くて、みんなが賭けたがるようなチームだったこともあった。でも、メイヨーが勝ちそうな時だってあった。

僕はゲーリックフットボールの専門家ではないし、メイヨーが決勝に進むたびに毎回ルールをおさらいしなければならないくらいの知識しかないが、それでもメイヨーが痛々しい負け方をして「悲嘆に暮れた」ことが何度かあった。

2016年には、ただでさえ稀なオウンゴールを、1試合で2回も決めてしまった。その試合は引き分けたが、続く再試合で、これさえ決めれば同点に追いついて延長戦に入るという土壇場でのゴールを外してしまい、敗退した。

アイルランドには32の州があり、メイヨーは決勝に進出し続けているのだから、メイヨーが弱いから負けているわけではないということは分かる。

そして当然、「呪い」の説も付いて回る。メイヨーは1951年に優勝したことがあるのだが、言い伝えによると、帰りのバスで選手たちは勝利に浮かれ騒ぎ、途中で葬列に遭遇したのに止まらず、死者と会葬者への礼を失した、というのだ。葬儀を取り仕切っていた司祭は彼らを呪ったとされている。「あのチームのメンバーが生きている限り、メイヨーを二度と優勝させたまわぬよう!」

チーム最後の生存者が亡くなって

おかしなことに、メイヨーの不運な連敗は1989年になってから始まった。決勝で負けるのを繰り返すようになるのは、(呪いから)40年近くもたってからなのだ。1989年以降になって、何度も決勝戦負けを繰り返すうちに、人々もこれは奇妙だと思うようになり、呪いの説が広まっていった。

そしてもちろん何年もの間、1951年の時の選手の健康状態には並々ならぬ関心が寄せられていた。チーム最後の生存者であるパディー・プレンダーガストは、メイヨーが2021年の決勝で敗れた数週間後に95歳で亡くなった。

だから、理論的には呪いは解けたはず。でも人々は、70年以上ぶりのメイヨー優勝を、いまだ待ち続けているところだ。



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