メリッサ・ハンター・バックリー(テネシー州在住)
<米軍時代のトラウマと喪失感から、白人至上主義団体にどっぷり漬かっていた夫。夫のために、家族のために戦う決意をした妻は──>
2015年春のある日、夫のクリスの提案で、クリスの友達グループのバーベキューに参加することになった。みんなでホットドッグを頰張り、子供たちが元気よく遊び......そんな時間を想像していた。
ところが、そこにいたのは、白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)の独特の衣装に身を包んだ大勢の男たちだった。それはKKKの集会だったのだ。
クリスはこの日、3歳の息子のためにKKKの衣装を用意していた。驚愕のあまり、心臓が飛び出しそうになった。自分の夫が過激な差別主義者の団体に加わり、しかも幼い息子を洗脳しようとしているなんて思ってもいなかった。
クリスはこの1年ほど前からKKKに加わっていたのだ。原因はいくつかあった。一つは、米軍時代の軍用車両の事故をきっかけに鎮痛剤の依存症になったこと。依存症のせいで私たちは住む家を失い、ホームレスの収容施設で暮らした時期もあった。
米軍を辞めて同僚たちとの戦友意識を味わえなくなったこと、そしてアフガニスタンで親友を亡くしたことの喪失感にも苦しめられていた。クリスはKKKで仲間との友情めいたものを感じていたのだ。
子供たちをKKKの人種差別主義と暴力に近づけることは断じて避けたかった。けれども、クリスを見捨てることもできなかった。夫のために、家族のために戦おうと思った。
「愛する人に差別主義者のグループをやめさせる方法」をネット検索して知ったのが、アーノ・ミケイリスという人物だった。元ネオナチで、今は若者を過激思想から脱却させるために活動している。
クリスは最初嫌がったが、最終的にアーノと会うことに同意した。16年夏のことだ。面談を続けるうちにクリスはKKKを離れ、薬物依存から脱し、つらい過去と共存できるようになった。
18年のある日、アーノはクリスに、ヘバル・モハメド・ケリという友人と会うよう勧めた。ヘバルは著名な循環器科医で、難民としてアメリカにやって来たクルド系シリア人のイスラム教徒だ。
文化を越えた友情の力
クリスはこの提案に激しく抵抗した。米軍時代に、イスラム教徒を敵と見なすよう訓練されていたためだろう。イスラム教徒という言葉を聞いただけで、顔面蒼白になり、パニック状態になった。アフガニスタンで負った心の傷をずっと抱え続けていたのだ。
それでもついに面会を受け入れると、2人は頻繁にメールをやりとりしたり、話したりするようになった。仕事のこと、父であること、そしてイスラム教について。
ヘバルを通じてイスラム教への理解を深めたことにより、クリスは米軍とKKKでの日々に染み付いた人種差別的なイデオロギーを捨てることができた。
ヘバルは、クリスがずっと求めていた存在、つまり支えになってくれる友人になり、戦場でのトラウマを癒やすのを助けてくれた。
いまクリスが私と子供たちを連れて行くのは、ヘバルの一家との夕食だ。ヘバルの母親とハグするときのクリスは、とても幸せそうに見える。
人種差別と対立に毒された世界にあって、文化の異なる人同士が友情を育むことは、憎悪より優しさ、分断より結束のほうが大きな力を持つと教えてくれる。いま私と子供たちは、それを目の当たりにしている。
<米軍時代のトラウマと喪失感から、白人至上主義団体にどっぷり漬かっていた夫。夫のために、家族のために戦う決意をした妻は──>
2015年春のある日、夫のクリスの提案で、クリスの友達グループのバーベキューに参加することになった。みんなでホットドッグを頰張り、子供たちが元気よく遊び......そんな時間を想像していた。
ところが、そこにいたのは、白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)の独特の衣装に身を包んだ大勢の男たちだった。それはKKKの集会だったのだ。
クリスはこの日、3歳の息子のためにKKKの衣装を用意していた。驚愕のあまり、心臓が飛び出しそうになった。自分の夫が過激な差別主義者の団体に加わり、しかも幼い息子を洗脳しようとしているなんて思ってもいなかった。
クリスはこの1年ほど前からKKKに加わっていたのだ。原因はいくつかあった。一つは、米軍時代の軍用車両の事故をきっかけに鎮痛剤の依存症になったこと。依存症のせいで私たちは住む家を失い、ホームレスの収容施設で暮らした時期もあった。
米軍を辞めて同僚たちとの戦友意識を味わえなくなったこと、そしてアフガニスタンで親友を亡くしたことの喪失感にも苦しめられていた。クリスはKKKで仲間との友情めいたものを感じていたのだ。
子供たちをKKKの人種差別主義と暴力に近づけることは断じて避けたかった。けれども、クリスを見捨てることもできなかった。夫のために、家族のために戦おうと思った。
「愛する人に差別主義者のグループをやめさせる方法」をネット検索して知ったのが、アーノ・ミケイリスという人物だった。元ネオナチで、今は若者を過激思想から脱却させるために活動している。
クリスは最初嫌がったが、最終的にアーノと会うことに同意した。16年夏のことだ。面談を続けるうちにクリスはKKKを離れ、薬物依存から脱し、つらい過去と共存できるようになった。
18年のある日、アーノはクリスに、ヘバル・モハメド・ケリという友人と会うよう勧めた。ヘバルは著名な循環器科医で、難民としてアメリカにやって来たクルド系シリア人のイスラム教徒だ。
文化を越えた友情の力
クリスはこの提案に激しく抵抗した。米軍時代に、イスラム教徒を敵と見なすよう訓練されていたためだろう。イスラム教徒という言葉を聞いただけで、顔面蒼白になり、パニック状態になった。アフガニスタンで負った心の傷をずっと抱え続けていたのだ。
それでもついに面会を受け入れると、2人は頻繁にメールをやりとりしたり、話したりするようになった。仕事のこと、父であること、そしてイスラム教について。
ヘバルを通じてイスラム教への理解を深めたことにより、クリスは米軍とKKKでの日々に染み付いた人種差別的なイデオロギーを捨てることができた。
ヘバルは、クリスがずっと求めていた存在、つまり支えになってくれる友人になり、戦場でのトラウマを癒やすのを助けてくれた。
いまクリスが私と子供たちを連れて行くのは、ヘバルの一家との夕食だ。ヘバルの母親とハグするときのクリスは、とても幸せそうに見える。
人種差別と対立に毒された世界にあって、文化の異なる人同士が友情を育むことは、憎悪より優しさ、分断より結束のほうが大きな力を持つと教えてくれる。いま私と子供たちは、それを目の当たりにしている。