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着陸する瞬間の旅客機を襲った「後方乱気流」...突然大きく揺れる機体を立て直す操縦士の映像が話題

ニューズウィーク日本版 2024年7月14日 13時15分

スー・キム
<着陸の最中、突然大きな横揺れを起こした旅客機。原因は先に着陸した機体が巻き起こした「後方乱気流」が着陸コース上に残っていたことだったという>

ギリシャの空港で旅客機が着陸時に「後方乱気流」に巻き込まれ、機体を安定させようとするコックピット内の様子を収めた動画が話題を呼んでいる。どんどん地面が近付いてくるなかで機体が突然大きく揺れた瞬間の緊張感と、それでも冷静に対処するパイロットの技能が伝わってくる動画はネットで話題になっている。

■【動画】着陸直前の旅客機を、「後方乱気流」が襲った瞬間の映像...パイロットの対応に「すごい反応」と賛辞

TikTokユーザーたちを驚かせているこの動画は、@frogblastduncainによって共有されたものだ。投稿者は名前を明かさなかったが、「オランダのアムステルダムを拠点とする大手航空会社」で、ボーイング737型機のパイロットとして8年働いていると本誌に語った。

この動画には、「A320 NEO(エアバス機)によって生じた後方乱気流に遭遇したわれわれを見てほしい」と書かれている。投稿者のパイロットは本誌の取材に対し、「すべての航空機は、後方乱気流と呼ばれる乱気流を発生させる。航空機の翼が、揚力を発生させることによって起きる」と説明している。

後方乱気流に遭遇したのは、アムステルダム発アテネ(ギリシャの首都)行きボーイング737-800の着陸中で、投稿者は副操縦士を務めていた。「アテネは離着陸の多い空港で、私たちはイージージェット(英国を本拠とする格安航空会社)のエアバスA320のすぐ後ろにいた」と投稿者は振り返る。

動画はコックピット内を撮影したもので、滑走路に近づいているとき、「突然の横揺れ」で機体がふらつき、パイロットが制御を試みている。

「動画を見る人たちが横揺れに気が付く前に、パイロットとしてコックピットにいた私は、横揺れが起きていることを感じていた。横揺れのモーメント(運動率)を十分制御できると感じたし、実際に安全に着陸することができた。制御が不十分だと感じたら、どの時点でもゴーアラウンド、つまり、着陸を中止して再挑戦できた。今回の場合、その必要はなかった」と投稿者は述べている。

後方乱気流が渦を巻き、機体を回転させようとする

また、投稿者は次のように説明する。「動画を見れば、機体が急に横揺れしているのがわかる。後方乱気流が渦を巻き、機体を回転させようとするためだ」「このような出来事は時々起こるが、かなりまれなことだ。私たちはこのような事態に備えて訓練を受けている」

この動画を見て、飛行機に乗るのが怖くなったとしても、それはあなただけではない。「Frontiers in Psychology」に発表された2021年6月の研究によれば、飛行機恐怖症は先進国で約10~40%の人に見られるという。

乗客1人が死亡し、数十人が負傷したシンガポール航空便の事故など、激しい乱気流による最近の事故が報道されているのを見て、多くの人が以前よりも空の旅に不安を感じているとしても不思議はない。

動画の投稿者は本誌に、「後方乱気流は翼の先端で発生して降下し、渦を巻きながら機体を離れていく。乱気流の強さは、翼の形状と、航空機の重量の影響を受ける」と説明している。

航空機は、その最大重量によって、ライト、ミディアム、ヘビー、スーパーに分類される。投稿者によれば、世界最大の旅客機であるエアバスA380は最も重い旅客機でもあり、唯一スーパーに分類されるという。

前方の航空機との間隔を定めた規制が

投稿者は次のように説明する。「離着陸時に、特定カテゴリーの航空機の後ろにどれくらい接近できるかについて、管制官やパイロットは一定の規則を課されている。後方乱気流は、フライトの安全性に大きく影響するためだ」

例えば、ボーイング737-800はミディアムに分類される。つまり、「離陸時、重いカテゴリーの航空機が先に離陸した場合、2分間待たなければならないということだ。この間に、後方乱気流は離陸コースから『転がり』出る」と投稿者は話す。

動画の航空機は、「スーパー」クラスとされるエアバスの後ろにいた。着陸時には通常、一定の距離をとるために2機の間隔を空けるが、欧州連合(EU)の新しい法律では、一定の時間もとることになっている、と投稿者は補足する。「今回は、私たちが守るべき最低間隔は4.6キロメートルだった」

投稿者は続ける。「私たちは着陸機のちょうど4.6キロ後ろにいた。あの日のコンディションでは、後方乱気流が完全に風で吹き飛ばされることはなかった。当時は風が非常に弱く、後方乱気流が、滑走路の少し上空にとどまりやすい条件だった」

ティックトックユーザーたちは、今回の着陸の映像に感銘を受けたようだ。「美しい着陸!」「いい仕事。よく訓練されている」「よく立て直した」「素晴らしい反応だ」「うまく操縦されているなあ...」といったコメントが寄せられている。
(翻訳:ガリレオ)


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