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投票者の年齢ピラミッドで分かる、日本で景気・雇用対策が二の次にされる訳

ニューズウィーク日本版 2024年7月17日 11時20分

舞田敏彦(教育社会学者)
<少子高齢化の進行と若年層の投票率の低下で、20代・30代の投票者数は激減している>

間接民主制の国では、国民は選挙を通して政治に参画する。しかし投票率は年々下がっていて、衆院選の投票率を見ると、1967年(第31回)では74.0%だったが、2021年(第49回)では55.9%となっている。20代の若者では、66.7%から36.5%とほぼ半減だ。

少子高齢化で若年人口が減っていることに加え、投票率がこれだけ低ければ、投票する若者の絶対数は著しく減っていることになる。筆者の経験でも、投票所で若者は見かけず、目にするのは白髪の高齢者ばかりだ。

投票所に足を運ぶ人の数は、公表されている投票率をベース人口にかけて算出できる。1967年の20代人口は1768万人で、このうち衆院選で投票したのは上述のように66.7%。よって投票者の実数は、1179万人ほどと見積もられる。他の年齢層の数値も出して並べると,投票者の年齢ピラミッドができる。<表1>は、1967年と2021年を対比したものだ。

右端が推定投票者数だが、1967年では下が厚く上が細いピラミッド型だった。当時は投票者の半分が20~30代の若者だったようだ。それが今では、きれいな逆ピラミッド型に様変わりしている。人口ピラミッド変化(少子高齢化)の反映だが、投票率の年齢差が拡大していることもあり、このような構造になっている。

なるほど、投票所で若者を見かけないわけだ。これでは、若者の意向は政治に反映されにくい。後で見るように、若者と高齢者では政治への要望はかなり違うが、重きが置かれるのは後者だ。その結果、若者の政治不信が強まり、ますます選挙から遠のいていく。こうした悪循環もあるかと思う。

選挙への投票率は国による違いもある。直近の選挙での投票率の年齢グラフを描くと、日本は右上がりの傾斜が大きい(「若年層の投票率が低ければ、教育や雇用政策は二の次にされる」本サイト、2023年11月15日掲載)。対してオーストラリアでは、どの年齢層も高い「高原型」だ。この国では選挙での投票は義務で、正当な理由なく棄権した場合は罰金を科される。

時代比較・国際比較の両面から見て、日本の若者の投票率の低さ(選挙離れ)は明らかだが、彼らは政治に何も期待していないわけではない。多くの要望を持っている。内閣府の『国民生活に関する世論調査』では、政府への要望を複数回答で尋ねている。横軸に20代、縦軸に70歳以上の選択率をとった座標上に、各項目のドットを配置すると<図1>のようになる。

斜線よりも下にあるのは、高齢者より若者の要望率が高い項目だ。赤字は「若者>高齢者」の傾向が顕著なもので、景気対策、少子化対策、税制改革、雇用・労働問題対策、といったものが当てはまる。雇用・労働問題対策への要望率は、若者が42.1%、高齢者が22.4%と20ポイント近くも開いている。

若者の投票率が低いと、これらの項目は二の次にされる。国際統計によると、若年層の投票率が高い国ほど、政府の教育費支出の対GDP比が高い傾向にある(前掲記事)。国が教育振興にどれほど力を入れるかも、若者の政治への関心に左右されると言えるだろう。。

若者は政治に要望を持ってはいるものの、それだけではダメで、自分たちの願いを実現してくれる候補者(政党)を推すという、具体的な行動をとらないといけない。それが選挙での投票だ。陳情、デモ、インターネット上での意見表明など、政治参画の手段は多様化しているものの、選挙での投票が主な手段であることに変わりはない。

近年、若者の投票率を何とか高めようと、大学のキャンパス内に投票所を設けたり、ネット投票の導入が議論されたりしている。投票所に出向き、紙に候補者名を書いて箱に入れるというやり方は、今の若年層(デジタルネイティブ世代)には馴染まないのかもしれない。ネット投票が実現したら、<表1>の投票人口ピラミッドも変わる可能性がある。

<資料:総務省『国政選挙における年代別投票率』、
    内閣府『国民生活に関する世論調査』(2023年11月)>

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