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日常を変える「テクノロジーの力」 スマホとスマートウォッチがもたらす健康管理革命

ニューズウィーク日本版 2024年7月18日 10時49分

西田 宗千佳(ITジャーナリスト)
<スマホアプリで日々の健康を一元データ管理! 体調のモニタリングから健康状態の改善まで、健康寿命を延ばす万能ツールが新たな未来を切り拓く。知られざるその実力をご紹介しよう>

スマートフォンは私たちの日常生活に欠かせない道具になった。

多くの人にとって、スマホは情報に触れるためのツールかもしれないが、実際には自分たちの健康にとっても非常に重要な役割を担っている。その秘密を探ってみよう。

スマホを健康管理のために使うといっても、考え方はシンプルだ。要は「健康にまつわるさまざまな情報が蓄積されていく場所」と考えればいい。

一つの例を示そう。歩くことは健康に良い、といわれる。そのため、万歩計などを活用して歩数を計測している人もいるだろう。

ただ実のところ、今やスマホがあれば万歩計は要らない。スマホが内蔵しているセンサーを活用することで、歩数などをカウントできるようになっているからだ。

iPhoneなど一部のスマホには最初からヘルスケア関連アプリが内蔵されている。日常的な健康管理をする上で、歩数や移動距離を知るだけでいいなら、これらのアプリで十分だ。

ポケモンGOで散歩を楽しく

スマホには、画面の向きを認識するためのセンサーやGPSが入っている。本来それらの機能は健康維持を目的として搭載されたわけではないが、人の動きをデータ化する機能であり、これを活用して人の動きを可視化できれば、自分がどんな生活をしているかも分かり、健康維持に役立てることができる。

「人生100年時代」がうたわれ始めた近年は、健康という大きなニーズに応えるビジネスも増えている。歩くことに関して言えば、モチベーションの維持をビジネスの種として捉えているのだ。

その一例が「ポケモンGO」に代表される「位置情報ゲーム」だ。ポケモンGOは、歩数カウントとGPSによる移動を記録し、ポケモンを見つけていくゲーム。

2016年にリリースされると同時に世界的ブームとなった。名前は知っているという人も多いかもしれないが、「ゲームだから自分とは無関係」と思っていないだろうか。

だが、歩くモチベーションをつくり、より活動的になって健康を増進する、という意味では明確に「健康のためのアプリ」と言えるだろう。

もっとダイレクトに「歩く」「街を散策する」ことを目指したものもある。

「テクテクライフ」は、歩くことによって地図を塗りつぶしていくゲーム。特に旅行などとセットで使うと楽しい。普段の街中だけでなく、旅先の地図を塗りつぶす感覚で楽しむことによって、歩く距離を増やし、健康維持にもつながる。

日々の運動という意味ではストレッチも大切だ。こちらはスマホで回数などを計測するというより、正しいストレッチのやり方を動画で知ることや、日々のストレッチ回数を管理することにスマホを使う。

ASIANDELIGHT/SHUTTERSTOCK

YouTubeに動画がたくさん公開されているのでそれを見ながら......というのも手軽ではあるが、アプリもチェックしたい。

「からだセイバー」は、不調を感じる体の部位に合わせておすすめのストレッチを提示し、やり方を教えてくれる。ネットやYouTubeでいちいち検索しなくても確認できるのが利点で、しかも無料で使える。

最近は「睡眠改善アプリ」も増えている。

「スリープ・サイクル」はスマホを枕元に置いておくと、睡眠中のいびきや体の動きに伴った振動からその人の睡眠情報を把握し、「より良い睡眠」に近づけることを目指している。ただこれも万歩計と同様に、数字などから管理し続けるには根気・やる気の両方が必要になる。

そこで、位置情報ゲームと同じようにゲーム的手法を使うのが「ポケモンスリープ」。スマホを枕元に置いて寝ると、睡眠の時間や寝返りといった動作を計測して記録し、睡眠の質を分析してくれる。

良質な睡眠を取るほど、希少なポケモンに出会えるため、朝起きるのが楽しくなるような仕掛けが施されている。

写真を撮るだけで食事を管理

こうした健康維持に生かせるアプリには有料のタイプもあるが、前述のものは無料で使い始められる。一度使ってみて有用だと考えれば、追加機能などに課金してより便利に使おう。「スマホといえばメールやLINE」と思っている人は、まず使ってみて、自らの生活習慣の変化につなげてほしい。

スマホを使った健康維持という意味では、食事管理のアプリもある。

食事管理アプリとは、食事内容の記録、そこからカロリーや摂取栄養素を判断し、アドバイスをしてくれるものだ。ダイエットを目的に開発されたものがほとんどだが、栄養素の不足などを指摘してくれるので、ダイエット以外の用途でも役に立つ。

この種のアプリの課題は、食事の内容を正確に記録し続けるのが大変という点にある。そこで、写真からAI(人工知能)が食事の内容を判断するアプリがおすすめだ。食事の写真をアプリから撮り続けるだけでいいので、管理が非常に簡単になる。

この種のアプリとしては「カロミル」の評価が高い。写真を撮るだけでAIが栄養素を解析し、体重計や血圧計を撮影すれば自動で記録してくれる上、3カ月後の体重を予測してくれる。

歩数や睡眠の記録とは異なり、データ解析やそこからのアドバイスといった要素が必要になるため、基本的な機能以外は有料会員制になっている場合も多く、年間で3000~5000円ほどの費用が必要になる。

ただ、食事の分析や改善策の提案といった機能は便利なので、本格的に食事管理をするなら有料会員になって利用したほうがいいだろう。

これは医師から聞いた話だが、日常生活で食べているものを撮影しておくと、医師に病状の相談をするときの参考情報にして判断できるので役立つという。これも簡単ではあるが、食事管理と言える。

MICROGEN/SHUTTERSTOCK

より高精度なスマートウォッチ

ただ、健康の指針となる情報を集め、より効果的に健康を維持するという意味では「スマートウォッチ」や「アクティビティトラッカー」と呼ばれる機器の併用が望ましい。

アップルの「アップルウォッチ」やグーグルの「フィットビット」などが人気だが、どれも基本的には腕時計のように手首に巻いて使う。

もちろん時計としても使えるのだが、それだけではない。スマホと連携させ、自分の健康に関する情報を記録し続けてくれる優れものだ。

歩数や階段を上った数ならスマホだけでも取得できるが、スマートウォッチではその精度がより高くなる。睡眠時間の把握なども、スマホだけに頼るよりも正確だ。今では心拍数や最大酸素摂取量なども記録することができるようになった。

スマートウォッチの愛用者には、マラソンや自転車競技などを楽しむ人が多い。どれだけ運動したかを記録でき、運動強度やそれに伴う体の変化の把握にも向いているためだ。一般的にそうした情報は、トレーニングの効果を高めるのに使われる。

だが、同じデータは日常的な活動でも有用と考えられる。前述したように、歩行に伴う心拍の変化などは、健康状態を把握するために重要な役割を果たす。歩数などの把握についても、スマホよりスマートウォッチのほうが正確な傾向にある。

スマホとスマートウォッチを身に着けておくことは、スマホだけで健康を維持するところから、一歩進んだ形と言えるわけだ。

特に現状、スマートウォッチは「循環器系」に不安を抱えている人たちには頼もしい存在だ。

前述のように、現在のスマートウォッチの多くには心拍数を記録し続ける機能がある。また、「アップルウォッチ シリーズ9」など、心電図機能を搭載した機種には心電図アプリも備わり、自分で簡易な心電図を測ることもできる。

記録された心拍数が異常に高い・低い場合や、心房細動を示唆する不規則な心拍を発見した際、アップルウォッチは通知を発する。それに従って医師に診断を依頼することで、病気の傾向を見つけ、より早期の治療に役立てることが可能だ。

病気を未然には察知できない

アップルは広告などで「アップルウォッチによって病気から救われた人々がいる」と宣伝している。これは間違いのない事実であり、スマートウォッチを身に着ける魅力の1つになっている。

アップルウォッチに限らず、心拍数記録などの機能を持ったスマートウォッチは、病気の前兆と思われる傾向を把握するのに有用だと考えていい。

PRESSMASTER/SHUTTERSTOCK

そのためか、スマートウォッチの中でもアップルウォッチは特に人気が高いのだが、iPhoneとセットで使う必要がある、という制約がある。アンドロイド製のスマホを使っている人は別の機器を選ぶ必要があるが、「心電図機能付きのアップルウォッチを使うためにiPhoneを選ぶ」という判断もありだろう。

スマートウォッチだけでの心電図記録にこだわらないのなら、グーグルの「フィットビット・チャージ6」などの、より小さく安価な製品を選んでもいい。サイズが小さく機能も少ないが、歩数や心拍数の把握などが中心ならいい選択肢だ。

ただ、スマートウォッチを選ぶ場合には、注意しなければいけない点もある。

病気の前兆を通知してくれた事例があることから、「スマートウォッチを着けていれば病気を未然に察知してくれる」と考える人もいる。だが実際、これは正しい理解ではない。

スマートウォッチではさまざまな体の情報を得られる。そこから健康情報を把握することもできる。ただ、それが病院の検査で得られる情報と同じかといえば、そうではない。

アップルウォッチの心電図機能は「医療機器」としての認証を得ている。だが、医療機器認定を受けていたとしても、情報の精度や内容は医療機関で検査に使う専門機材とは違う。だから、全ての病気の傾向を把握できるわけではないし、素人が常に確実な判断を下せるわけではない。

では、スマートウォッチは意味がないのかというと、そうではない。

複数の医師に尋ねてみたが、どの医師も「スマートウォッチを着けて管理することはプラスだ」と口をそろえる。その理由は、診断により多くの情報を使えるからだ。

循環器に異常が見つかり、病院で検査を受けるとする。だがそのときも、検査できるのは病院にいる間だけだ。病気によっては既に症状が消えたりし、正しい対処のための情報が得られないこともある。診断のための情報が「点」でしかない、とも言える。

しかしスマートウォッチを使えば、情報はいつでも得られる。精度は病院のものと違っても、長期的かつ日常的な記録があることは大切だ。医師から見れば、診断のための情報が「線」の形で得られることになる。

特に、不整脈に伴う心電図の状況は、日常的な情報があることが望ましいという。気になったらすぐに心電図を取り、診察時にスマホを持っていけば、医師としてはとても有用なのである。

心電図だけでなく、どれだけ歩いているのか、日常の心拍数がどれだけか、という情報が分かることで、医師は健康維持のための適切な指示をすることができる。

このように、自分で判断するためだけでなく、医師が判断の助けとするためにも、スマートウォッチとそこから得られる情報は大きな意味を持っている。

SOFIKOS/SHUTTERSTOCK

「医療機器認定」か確認を

ただ、どんなスマートウォッチのデータでも問題ないかというと、そうではない。手に届きそうな価格かつ、医学的判断にも使えるもの、という条件が付く。

ネットを検索すると、アップルウォッチ以外にも「心電図搭載」を売りにするスマートウォッチがいくつか見つかる。中にはアップルウォッチなどのメジャーなスマートウォッチが搭載していない「血糖値測定機能」をアピールする製品もある。だが、そうした製品はおすすめしない。

前述のように、スマートウォッチで測れる情報は常に正確なわけではないし、全ての病気の傾向を把握できるわけでもない。

心拍数はともかく、心電図のような機能は特にそうだ。医療用機器認定を得ていて、利用者も多いアップルウォッチなどの場合には、情報が多いこともあり、医師も一定の判断基準を持ちやすい。

派手な転倒を認識して通報

しかし医療機器認定がなく、どういう性質のデータが記録されるのか分からないスマートウォッチの場合、医師の側でもデータの判断が難しい。

特に注意が必要なのは血糖値の計測機能だ。現状では、血糖値をスマートウォッチで正確に測るのは難しく、針などで刺さない「非侵襲型」の製品で、高い信頼を置けるものは存在していない。今年5月時点、日本には血糖値計測機能で医療用機器認定を受けたスマートウォッチは存在していない。

現状の機能が無駄とまでは言わないが、正しいタイミングかつ正しい姿勢で計測しないと正常な値が出ないので、気休め以上のものと考えるのは難しい。

日本糖尿病協会は4月、不正確な測定値で誤った糖尿病治療につながる可能性があるとして、スマートウォッチで血糖値測定を行わないよう警告。米食品医薬品局(FDA)も2月時点で同様に警鐘を鳴らしており、世界的にも注意喚起がなされている。

こうした点から、フィットネスではなく健康維持を目的としてスマートウォッチを選ぶ場合には、一定の信頼性が重要だ。一方、心拍数の計測なら医療機器認定は不要なので、そこまで神経質になる必要はない。

ただ心拍数も製品によって精度は異なる。スポーツでのトレーニング効率を高める場合、心拍数の正確な変化を把握することが重要とされる。健康維持に使う場合も情報が正確であることが望ましいが、それ以上に「同じ機器で日常的に計測し、情報が蓄積されている」ことも重要だ。

それ故に、スマートウォッチは日常的に使い続けることが望ましい。

スマートウォッチの難点は、バッテリーの持ちが短いことだ。一般的な時計とは異なり、連続で使える期間は数日まで、というところが相場だ。入浴などの隙間時間を使って小まめに充電する必要があり、これが面倒でもある。この点だけは、健康維持とのトレードオフとして許容するしかない。

スマホやスマートウォッチには、また別の価値もある。「緊急時に連絡する」という要素だ。

最近、一部のスマホやスマートウォッチには事故や大けがなどに遭遇した際に、大きな衝撃や派手な転倒などを認識して緊急通報する機能が搭載されるようになっている。

例えばiPhoneの場合は、工場出荷時からその機能が「オン」になっている。グーグルのピクセルの場合には、「緊急情報と緊急通報」という設定項目の中の「自動車事故検出」をオンに切り替えると有効になる。

スキーなどの激しいスポーツで転倒した際にも誤動作するため注意が必要なものではあるのだが、万が一のことを思えば重要な機能と言える。

こうした「自動通報」が働かない場合にも、特定のボタンを同時に押すなどの手段によって緊急通報を行う機能もある。

機種によって操作は異なるが、iPhoneの場合には本体左側面と右側面、それぞれのボタンを1つずつ同時に長押しすればいい。

スマホで健康を維持するといっても、できることは限られている。しかし、スマホという「常に持っている機器」にはさまざまな情報を記録でき、スマートウォッチと組み合わせればさらに価値が高まる。スマホは自分の健康状態を示す窓口として、健康管理に役立つのだ。

ただ、現状の健康管理アプリは本格的なフィットネスを指向したものが多く、シニア向けの日常的な生活管理を支えてくれるものは万歩計の時代からそこまで進化していない。

文字を大きくするなどの見やすさや使いやすさは重要だが、それ以上にシニアが医師と共に健康状態を管理しやすい機能を持たせることが今後は重要になるだろう。

スマホの持つ情報の価値は、一部の施設や医師などの間で確実に認知が進んでいる。今後は、より幅広く健康維持の相談に使えるものに進化させていく必要がある。

ポケモンGO

WACHIWIT/SHUTTERSTOCK

2016年のリリースから世界中で爆発的な人気を誇る、人気アニメ「ポケットモンスター(ポケモン)」のキャラクターを捕まえて楽しむ無料アプリ。

現実世界と連携し、スマートフォンのGPS機能を使用しながら移動するとポケモンと遭遇し、スマホの画面をスワイプしてモンスターボールを投げることで捕獲できる。

ユーザーがいる実際の場所や天気、時刻によって、出現するポケモンが変わるため、リアルな体験ができ、「散歩+アルファ」を楽しめる。

iPhone

VALIANTSIN SUPRUNOVICH/ISTOCK

アップルが開発・販売しているスマホシリーズ。内蔵したヘルスケアアプリが歩数や消費カロリー、体重、血圧、睡眠時間といった健康に関するさまざまな情報をまとめて記録。

アップルウォッチや健康アプリと連携でき、アクティビティーやバイタル、栄養、マインドフルネス、症状など多様なカテゴリを提供し、アプリのアップデートのたびに機能が拡充される。データの変化から健康状態や体調の変化を確認できる。

スマートウォッチ

ONURDONGEL/ISTOCK

タッチスクリーンが搭載された腕時計型の電子機器で、パソコンのような機能を持つ時計とも言える。画面を触って操作できるタッチパネルをはじめ、メールや着信の通知、健康管理機能も備える。血圧や心拍の異常値を検知した場合に知らせてくれるほか、転倒検知機能やGPS搭載で居場所の確認も可能。

文字サイズや画面表示を調整できたり、音声操作機能が備わっていたりするタイプもあり、機械の操作に慣れていなくても安心して使える。

カロミル

毎日の食事を撮影するだけでカロリー計算や主要栄養素の摂取量を数値で把握できる健康管理アプリ。撮影した食事の写真や商品のバーコードを自動で記録し、栄養素を算出。

蓄積した食事データや運動記録などを基に、AI(人工知能)が3カ月後の体重を予測し、健康維持に向けたアドバイスもくれる。体重や血圧、血糖値も写真を撮るだけで記録するため、健康にまつわるあらゆるデータを一元的に管理できる。

<本誌2024年5月28日号掲載>

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