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朝日新聞の名文記者が「多読」を自慢しない理由【勉強法】

ニューズウィーク日本版 2024年7月24日 7時15分

ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
<コミュニケーション能力を伸ばすには読書だが、効果的に成長するための究極のツールとは?>

朝日新聞の名物記者として知られる近藤康太郎氏のもとには、〈仕事〉の方法を学ぼうと若い記者が集まる。その場では〈仕事〉のみならず〈勉強〉の仕方が指導される。

組織、ひいては社会で、自分がしたい仕事をさせてもらえるようになるには、〈勉強〉と〈遊び〉こそ真剣にしなくてはならない。そして、多くのひとが言語コミュニケーションを駆使して〈仕事〉をする現代において、〈勉強〉とは本を読むことである。

〈仕事〉〈勉強〉〈遊び〉の三要素を磨く理由と、三要素がご機嫌な人生に結びついていくプロセス書いた『ワーク・イズ・ライフ 宇宙一チャラい仕事論』(CCCメディアハウス)より、誰でも真似できる〈勉強〉法を取り上げる。

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「年間百冊以上、読んでいる」は自慢にならない

〈勉強〉として文字を読むならば、紙の「本」に限ります。電子書籍や、新聞、雑誌、ネットにユーチューブ、SNSじゃだめなんです。

本は、遅い。本は、高い。難しい。分からない。そう思っている人は、ぜひ、前著の『百冊で耕す』を読んでほしい。本は、いちばん手軽で、いちばん速く読める。安い。難しいかもしれないけれど、「分からない」でもいいんです。いや、分からなくさせるのが、本の真骨頂です。

〈勉強〉は、紙の本に限る。理由は、前著にくわしく書いてあります。ここではその方法論を要約して書くと、①海外文学②日本文学③社会科学もしくは自然科学④詩集の四ジャンルの「古典」を、一日十五分、合計で一時間、読む。毎日読む。これです。「古典」とはなにもアリストテレスや源氏物語だけではなく、「死んだ人」の作品ならば「古典」としてとらえてよい、としましょう。ゲームのルール。

紙の本も、漫然と読んでいればいいわけではない。「年間百冊以上、読んでいる」と自慢する人がいますが、おそらくそれは、読みやすい本、自分の頭に入ってくる本を読んでいるんじゃないでしょうか。言い換えれば、すでに知っていることを読んでいる。

まさかと思うけれど、ドゥルーズや西田幾多郎やアインシュタインの本を、一日一冊ペースで読めるわけではないですよね。そんな人って、世界にいるんでしょうか?ですから、年間に百冊も読める人は、読む本を変えたほうがいいです。

読む本を変えるための外部プロデューサー

どうやって変えるか。わたしは、もうしつこく、あちこちで言ったり書いたりしているんですけれど、リストです。必読書リスト。リストこそが、〈勉強〉としての読書に必須の道具で
す。

どんなリストがいいのか。これも、前著『百冊で耕す』に詳述しているので参考にしてほしいです。いくつかリストをあげているし、わたし自身で作成した、おすすめリストも巻末にあります。それだけに限らず、あらゆるジャンルで必読書、つまり古典を選んでいる先輩読書家はいるものです。自分の気分にあったリストでいい。

近藤康太郎氏の抜書き帳。「リスト読み」やそれ以外の読書から厳選したフレーズを書き出している。30年以上続けている 撮影:朴敦史

「リストは完全制覇しろ」「すべて読め」とまでは言いません。言いませんが、まあ半分くらいは、読んだ、あるいは書店で、図書館で実際に手にした、というところまでは、がまんして付き合います。

リストとは、分かりやすく言うと、音楽でのプロデューサーですね(これで分かりやすくなってるかどうか、ちょっと自信がないですが)。ボブ・ディランでもだれでも、最初、ミュージシャンは自分たちの色を出したい。自分の音を追求する。好きなように歌い、楽器を弾き、ミックスする。しかし、それだけではだめだ、壁にぶち当たる。自分たちでも分かってくるんです。

自分を強制的に変えなければ未来はない

自分以外の才能を、外部から入れなければならない。それが外部プロデューサーです。外から知恵と知見を入れるんです。ディランは、スーパースターになったあとでも、たとえばダニエル・ラノワみたいな大物プロデューサーを起用する。「おれの新作をプロデュースしてくれ」って任せるんです。

ダニエル・ラノワは、当然、ディランの作品はリスペクトしている。いろいろと「こういうふうにするといいんじゃないか」とか、助言するわけです。でもディランはそれを無視したりするらしいんですよね。ダニエル・ラノワ、ものすごい傷ついただろうなって、笑っちゃうんだけど。

まあでも、そういうことですよ。自分を変えるってことです。外部プロデューサーを入れて、自分を強制的に変える。転がる石になる。

そして、必読書リストこそが外部プロデューサーです。自分の知っていることを、年間百冊も読まない。違う世界を知る。自分とは違う、世界のとらえ方を学ぶ。つまり、ベクトルを変えるんです。

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近藤康太郎(こんどう・こうたろう)

作家/評論家/百姓/猟師。1963年、東京・渋谷生まれ。1987年、朝日新聞社入社。川崎支局、学芸部、AERA編集部、ニューヨーク支局を経て、九州へ。新聞紙面では、コラム「多事奏論」、地方での米作りや狩猟体験を通じて資本主義や現代社会までを考察する連載「アロハで猟師してみました」を担当する。

著書に『三行で撃つ〈善く、生きる〉ための文章塾』『百冊で耕す〈自由に、なる〉ための読書術』(CCCメディアハウス)、『アロハで田植え、はじめました』『アロハで猟師、はじめました』(河出書房新社)、『朝日新聞記者が書けなかったアメリカの大汚点』『朝日新聞記者が書いたアメリカ人「アホ・マヌケ」論』『アメリカが知らないアメリカ 世界帝国を動かす深奥部の力』(講談社)、『リアルロック 日本語ROCK小事典』(三一書房)、『成長のない社会で、わたしたちはいかに生きていくべきなのか』(水野和夫氏との共著、徳間書店)他がある。

『ワーク・イズ・ライフ 宇宙一チャラい仕事論』
 近藤康太郎[著]
 CCCメディアハウス[刊]

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