トニー・フランジーマワド
<マドゥロ大統領に挑むのは4月まで無名だった野党統一候補のエドムンド・ゴンザレス。支持率では現職を引き離しているが、「極端な戦術」を発動して選挙を阻む可能性も>
「変化を起こしたくて来たんだ」──5月のある日、ベネズエラの首都カラカスの西に位置する町ラビクトリアで選挙集会に参加していたバイク配達員のエリクソン・パチェコは言った。
演説していたのは、中道右派野党のリーダー、マリア・コリナ・マチャド。隣にいるのは、7月28日の大統領選に臨む野党統一候補のエドムンド・ゴンサレスだ。
大統領選は、3選を目指す反米左派のニコラス・マドゥロ大統領とゴンサレスの争いだ。元外交官のゴンサレスは、マドゥロ独裁政権により大統領選への立候補を阻まれたマチャドの代役として出馬した。
「初めて選挙集会に参加した」と、パチェコは言った。「これまでマドゥロに投票していて、マチャドは好きでなかった。でも今は大好きだ」
そう感じているのは、パチェコだけではない。いまベネズエラの政治に地殻変動が起きようとしている。大統領選で政権交代が起きる可能性が現実味を帯びている。マドゥロの支持率が10~20%にとどまっているのに対し、ゴンサレスの支持率は50~60%に達しているのだ。
物静かなゴンサレスは、駐アルジェリア大使や駐アルゼンチン大使を歴任した経験こそあるが、4月に野党統一候補に決まるまでは国内でもほぼ無名の存在だった。しかし今では、幅広い野党勢力がゴンサレスを大統領に押し上げるべく一致結束している。
数カ月前まで、野党がここまで勢いを増すとは考えにくかった。ウゴ・チャベス前大統領の死を受けて2013年に大統領に就いたマドゥロは、次第に独裁的な傾向を増し、国内の締め付けを強化した。
近年も数百人の野党活動家を拘束したり、検閲を強化したり、不正選挙を行ったり、人気野党政治家の立候補を禁じたりしている。
その一方でベネズエラはこの数年間、極度の経済悪化に見舞われて、人道上の危機に陥っている。基礎的な公共サービスが崩壊し、この10年間で800万人近い国民が国外に脱出した。
この状況下でマドゥロ政権は昨年10月、アメリカによる経済制裁の緩和と引き換えに、自由で公正な大統領選挙を実施することを受け入れた(その後、同政権が合意を破ったとしてアメリカ政府は制裁緩和措置を停止している)。
現時点で野党陣営が選挙戦を有利に進めているが、投票日まで何があるか分からない。マドゥロ政権が極端な戦術を実行する可能性は排除できないと、専門家は指摘する。
例えば、ゴンサレスの候補者資格を停止したり、選挙を延期したり中止したりすることもあり得る。
その口実をつくるために、領土問題で対立する隣国ガイアナと武力衝突を起こす可能性もある(マドゥロ政権は、ガイアナの国土の半分以上を占める資源豊かな「エセキボ地域」を自国領と主張している)。
しかし、それ以上に大きい脅威は、投開票日当日の不正だろう。ベネズエラの選挙管理委員会は、マドゥロ政権の与党に牛耳られている。そこで、野党側は地滑り的な圧勝を遂げることにより、不正選挙で結果が動かされる余地を減らしたいと考えている。
政権交代を望む国民の多くは楽観的だ。「ベネズエラ社会は、目覚ましい回復力と自由への意欲を示してきた」と、政治学者のパオラ・バウティスタ・デ・アレマンは述べている。「その点は、政治組織にも市民社会にも、そして街頭にも見て取れる」
From Foreign Policy Magazine
<マドゥロ大統領に挑むのは4月まで無名だった野党統一候補のエドムンド・ゴンザレス。支持率では現職を引き離しているが、「極端な戦術」を発動して選挙を阻む可能性も>
「変化を起こしたくて来たんだ」──5月のある日、ベネズエラの首都カラカスの西に位置する町ラビクトリアで選挙集会に参加していたバイク配達員のエリクソン・パチェコは言った。
演説していたのは、中道右派野党のリーダー、マリア・コリナ・マチャド。隣にいるのは、7月28日の大統領選に臨む野党統一候補のエドムンド・ゴンサレスだ。
大統領選は、3選を目指す反米左派のニコラス・マドゥロ大統領とゴンサレスの争いだ。元外交官のゴンサレスは、マドゥロ独裁政権により大統領選への立候補を阻まれたマチャドの代役として出馬した。
「初めて選挙集会に参加した」と、パチェコは言った。「これまでマドゥロに投票していて、マチャドは好きでなかった。でも今は大好きだ」
そう感じているのは、パチェコだけではない。いまベネズエラの政治に地殻変動が起きようとしている。大統領選で政権交代が起きる可能性が現実味を帯びている。マドゥロの支持率が10~20%にとどまっているのに対し、ゴンサレスの支持率は50~60%に達しているのだ。
物静かなゴンサレスは、駐アルジェリア大使や駐アルゼンチン大使を歴任した経験こそあるが、4月に野党統一候補に決まるまでは国内でもほぼ無名の存在だった。しかし今では、幅広い野党勢力がゴンサレスを大統領に押し上げるべく一致結束している。
数カ月前まで、野党がここまで勢いを増すとは考えにくかった。ウゴ・チャベス前大統領の死を受けて2013年に大統領に就いたマドゥロは、次第に独裁的な傾向を増し、国内の締め付けを強化した。
近年も数百人の野党活動家を拘束したり、検閲を強化したり、不正選挙を行ったり、人気野党政治家の立候補を禁じたりしている。
その一方でベネズエラはこの数年間、極度の経済悪化に見舞われて、人道上の危機に陥っている。基礎的な公共サービスが崩壊し、この10年間で800万人近い国民が国外に脱出した。
この状況下でマドゥロ政権は昨年10月、アメリカによる経済制裁の緩和と引き換えに、自由で公正な大統領選挙を実施することを受け入れた(その後、同政権が合意を破ったとしてアメリカ政府は制裁緩和措置を停止している)。
現時点で野党陣営が選挙戦を有利に進めているが、投票日まで何があるか分からない。マドゥロ政権が極端な戦術を実行する可能性は排除できないと、専門家は指摘する。
例えば、ゴンサレスの候補者資格を停止したり、選挙を延期したり中止したりすることもあり得る。
その口実をつくるために、領土問題で対立する隣国ガイアナと武力衝突を起こす可能性もある(マドゥロ政権は、ガイアナの国土の半分以上を占める資源豊かな「エセキボ地域」を自国領と主張している)。
しかし、それ以上に大きい脅威は、投開票日当日の不正だろう。ベネズエラの選挙管理委員会は、マドゥロ政権の与党に牛耳られている。そこで、野党側は地滑り的な圧勝を遂げることにより、不正選挙で結果が動かされる余地を減らしたいと考えている。
政権交代を望む国民の多くは楽観的だ。「ベネズエラ社会は、目覚ましい回復力と自由への意欲を示してきた」と、政治学者のパオラ・バウティスタ・デ・アレマンは述べている。「その点は、政治組織にも市民社会にも、そして街頭にも見て取れる」
From Foreign Policy Magazine