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ウクライナ「領土割譲やむなし」初の3割超でゼレンスキーに和平の選択肢

ニューズウィーク日本版 2024年7月24日 16時55分

ブレンダン・コール
<国民の大半が全領土回復を望んでいたときにはありえなかった外交上の余裕が生まれるという専門家も>

「和平と引き換えにロシアへ領土を割譲する」ことを支持するウクライナ人の割合が増えている。キーウ国際社会学研究所(KIIS)が実施した世論調査の結果だ。

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ウクライナもロシアも、和平交渉開始を受け入れるには程遠いように見える。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はこれまで、ロシア現政権とのいかなる合意も拒否しており、とくにロシアのウラジーミル・プーチン大統領との停戦交渉は「不可能」とする法令に署名までしている。



しかしゼレンスキーは先週、11月に予定されている「平和サミット」にはロシア代表も出席すべきだ、と発言した。もしロシア政府に計画があり、「国連憲章に従って戦争を終わらせることに合意するなら、我々は話す用意がある」とゼレンスキーは言った。ニューズウィークは、同大統領の事務所にコメントを求めている。

ゼレンスキーは、「和平のために領土を割譲する用意がある」とは言っていない。アメリカなど同盟諸国も反対している。領土を与えることは、他国に侵攻したロシアに報酬を与えるのに等しいからだ。

だが、KIISによる最新調査は世論の変化を示唆している。KIISは、ロシアが本格侵攻を開始した2022年2月の直後からウクライナ人の意識調査を実施してきた。

開戦1年後は9割が反対

今回発表された世論調査によると、「和平を実現し、独立を維持する」ためには領土の割譲を受け入れる、と答えたウクライナ人は32%で、2024年2月の26%から増加した。2023年2月にはわずか9%だった。

「すべての領土を奪還するというウクライナ人のかつての士気は、疲労と犠牲の大きさのために低下しているのかもしれない」と、元ウクライナ軍人の防衛アナリスト、ヴィクトール・コヴァレンコは言う。「ウクライナ軍も反撃能力を欠き、もっぱら守りに徹している。西側諸国は揺るぎ支援を約束しているが、援助は一向に届かないようだ」

なお、今回の調査では、「戦争を終わらせるためにロシアに領土を割譲する」ことに依然として反対する者は、回答者の55%に上った。しかしこの数字も、2023年12月と比べれば減少している。当時は、人口の74%が割譲に反対だった。

回答者がウクライナのどこに住んでいるかによって、領土割譲に反対する度合いは異なる。反対が最も多かったのはロシアから遠い西部(60%)で、最も少なかったのはロシアに近く犠牲も大きい南部(46%)だった。

KIISによれば、世論調査の質問では、領土のどこが割譲対象になるかを特定していない。

平和のために受け入れられるシナリオについて尋ねたところ、回答者の62%が「(ロシアを刺激する)NATO加盟を伴わないEU加盟と、すべての占領地の回復」というなら受け入れられると答えた。

2番目に多い支持を集めたのは、クリミア半島と親ロ派地域であるドネツク州、ルハンスク州の支配権は事実上譲り渡すものの、ヘルソン州とザポリージャ州は完全に取り戻し、NATOとEUの両方に加盟する案で、53%だった。



国境線をウクライナが独立した1991年当時に戻せと主張する人が減ったことで、ゼレンスキーには、国内でほとんど反対を受けずに戦争を終結させる外交的余裕ができた、とコヴァレンコは話す。

「ゼレンスキー大統領はこの戦争を、親ロシア派のドンバス地方を切り離し、ウクライナを強化できるチャンスと見ているかもしれない」とコヴァレンコは述べる。「ウクライナ社会のかなりの割合の人が、(石炭や鉄鋼など補助金食いの)重工業が多いドンバス地方(ドネツク州とルハンスク州)がウクライナの財政的な重荷になり、EU加盟やNATO加盟への道を妨害してきたことを、ためらいつつも認めている」

もっとも全体的に見れば、ウクライナ人はまだ挫けていない。KIISのアントン・フルシェツキー所長はメディア発表でこう語った。領土割譲に関する柔軟性が存在するにもかかわらず、ウクライナ人は「明らかに、いかなる条件でも和平に同意していない」と述べた。

今回の調査は、5月16日〜22日と6月20日〜25日にかけて、ウクライナ政府が支配する全地域の成人3075人を対象に行われたもので、誤差範囲は5%だ。
(翻訳:ガリレオ)



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