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アメリカ第3の政党、リバタリアン党候補に聞く「麻薬合法化、NATO離脱、ガザはジェノサイド」

ニューズウィーク日本版 2024年7月25日 16時46分

ジェイソン・レモン
<バイデンの撤退で、対決はハリス対トランプへ...? ミレニアル・Z世代を票田に巻き起こす波乱。第3の候補、チェイス・オリバーに独占取材>

今回の米大統領選で個人の自由を尊重する第3政党リバタリアン党の指名候補となったチェイス・オリバー。

勝算は低いかもしれないが、本人は共和党のドナルド・トランプ前大統領や民主党のジョー・バイデン現大統領に対して大きな強みが1つあると自負している──年齢だ。

テネシー州生まれのオリバーは現在38歳で、年齢はトランプ(78)やバイデン(81)の半分足らず。ロバート・ケネディJr.(70)やジル・スタイン(74)、コーネル・ウエスト(71)など同じく第3政党の他の候補者と比べても何十歳も若い。

オリバー陣営はこの若さを武器にミレニアル世代やZ世代の若者の支持を獲得したい構えだ。「今こそ私たちの世代が立ち上がるべきだ」とオリバーは本誌による独占インタビューで語った。

オリバーは個人の自由の最大化と政府の不介入を訴える。麻薬は合法化し、国民はどんな治療を受けるか医師と相談して決める「体の自己決定権」を有し、銃を所持する権利は「不可侵」だと主張。

アメリカはNATOを離脱して海外に駐留する米軍部隊を引き揚げ、「ジェノサイド(集団虐殺)」を行っている(と彼が主張する)イスラエルなど外国への軍事援助もやめるべきだという。

本誌ジェイソン・レモンが話を聞いた。以下はその要約。

◇ ◇ ◇

Libertarian presidential candidate Chase Oliver told Newsweek it's time for millennials to "rise up" at the polling both. "We're tired of octogenarian politicians controlling our lives." pic.twitter.com/ZjidjBrreK— Newsweek (@Newsweek) June 9, 2024

──まだあなたをよく知らないアメリカ人が多い。簡単に自己紹介を。

チェイス・オリバー、38歳。11月5日の大統領選の投票日は39歳、トランプの年齢の半分だ。ジョージア州アトランタ在住。

反戦運動家からスタート、刑事司法改革を提唱し、投票アクセス(独立系候補が投票用紙に名前を載せるためのプロセス)の問題などを一貫して訴えてきた。

仕事は外食業界で皿洗いから始めて13年間キャリアを積んだ後、物流業界で長いこと国際物流に携わった。その後、人事の仕事も少々かじった。

──以前はバラク・オバマ大統領を支持し民主党員を自認していたはずだが、なぜ離党したのか。

イラク戦争に対する反戦運動をやっていた頃、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領は共和党で、私は共和党と民主党以外の政党は知らなかったから、じゃあ自分は民主党だ、と。銃が好きで税は嫌い、自由市場が好きな民主党員だったが。

2008年の大統領選で民主党は反戦を掲げるオバマを候補者に指名。だがオバマは大統領に選出されるとキューバのグアンタナモ米海軍基地の閉鎖や各国指導者との無条件対話、戦争終結といった公約を撤回した。

それで私は民主党を去り、銃や自由市場を支持し、総じて「自分は自分、人は人」という立場なので、リバタリアン党にたどり着いた。

オリバーは麻薬との戦いによりむしろ問題が悪化していると持論を語った SPENCER PLATT/GETTY IMAGES

──対立候補のトランプとバイデンについて何を最も批判するか。

変な話だがどちらについてもほぼ同じだ。

どちらも権限や規模という点で国の役割が拡大するままにしている。政府の役割拡大がさらに加速して私たちの暮らしをコントロールする面が増え、国内でも海外でも官憲や銃弾や爆弾によって暴力を拡大させるのを許してきた。

彼らは同じ1羽の鳥の左右の翼だと思う。2人とも独裁主義者だ。スタイルが違うだけで、政府を拡大させていることに変わりはない。どちらの統治スタイルも国内の党派心をあおり国民の亀裂を深めている。

どちらを選んでも結果は悲惨だ。

──どちらかがましということは?

今回の大統領選では、どちらが選ばれるにしろ、共和・民主両党の最有力候補はミレニアル世代やZ世代とはつながりがない。

私ならある。自分はミレニアル世代だと思っているから。こんなに若い候補者は久しぶりかもしれない。

今こそわれわれ若い世代が立ち上がるべきだ。私たちは大票田。ミレニアル世代・Z世代は間違いなく票の過半数を占めている。

──リバタリアンはアメリカの司法制度に懸念を抱いている。トランプは司法制度の犠牲者だと思うか。

最初に言っておくが、自分が支持する大統領候補が出廷するときだけ司法制度を気にするのはおかしい。常に無数の人々が司法制度の影響を受けているのに。

司法制度の影響を最も受けないのは自分を弁護する術のある人々だ。

司法制度の乱用に苦しんでいるのはトランプのような人々ではない。一流弁護士や弁護団を雇う余裕がなく、公選弁護人がつくような人々、不当な麻薬戦争の犠牲者だ。そうした状況が貧困の悪循環を生んでいる。トランプが刑務所行きになるとは思えない。恐らく執行猶予で済むだろう。

一方、身を守る術のない人間、無名の人間、統計学的に言えば非白人の場合は、もっと厳しい判決が下る可能性がある。

──あなたは麻薬問題と刑事司法制度の関連性に触れた。麻薬犯罪に国はどう対処すべきか。

まず全ての薬物の完全合法化を模索する必要がある。依存症は病気だから、刑務所に送って済む問題ではない。麻薬戦争自体が闇市場を生み、麻薬カルテルが金儲けのために暴力沙汰を起こす。合法化すればそうしたトラブルは確実に減るはずだ。

リバタリアンの大統領が誕生したあかつきには、成人が望む薬物を合法的に摂取できる道を早急に模索することになるだろう。

──あなたは先ほど、銃を所持する権利を支持すると述べた。政府は銃規制を行う立場にあると思うか。

銃を購入する権利は、全ての成人に認められるべきだ。銃の所持を理由に処罰されるのは、銃を攻撃的に用いてほかの人に害を及ぼした人物だけでいい。そのような暴力行為に対しては厳罰で臨むべきだと思う。

──民主党と共和党は、相手が言論の自由を制約していると互いに批判してばかりいる。

いま起きていることは、2大政党による茶番劇だ。

共和党対民主党という構図では、どうしてもこうなってしまう。選挙で2大政党よりも多くの選択肢があり、もっと多様な有権者の考えを代弁できる政党が4つ、5つ、6つ存在すれば、この類いのことは減ると思う。

民主党と共和党は、形こそ違ってもいずれも言論の自由を制約している。

──あなたは、パレスチナ自治区ガザで起きていることを「ジェノサイド」と表現しているが、ガザに関してこの言葉を用いることに強硬に抵抗する人も多い。

どうしてジェノサイドという言葉を用いるのかについては、国際司法裁判所などの国際機関が明確に説明している。

アメリカがイスラエルの真の同盟国であるのなら、イスラエル政府が間違った行動を取っているときはきっぱりと批判すべきだ。そのような主張をする人物が登場するのを待っているアメリカ人はとても多いと思う。

──あなたは外国に対する軍事支援全般に反対していて、国外に駐留している米軍部隊も引き揚げるべきだと主張している。

そのような政策転換をする際は、責任ある形で実行しなくてはならないが、私がアメリカ大統領であれば、世界のあちこちの国での軍事的活動を停止する方針を示すだろう。

例えば、ヨーロッパにある基地を同盟国に譲り渡してもいい。

これまでアメリカは何十年もの間、言ってみれば爆弾と銃弾を通じて自国の価値観を世界に輸出してきたが、それにより世界はますます不安定化し、アメリカという国とアメリカ人への憎悪も強まってしまった。

アメリカは、平和と外交、自由貿易、民間交流、そして近隣諸国と協力して繁栄を築く姿勢をもっと重んじる方向に対外政策を転換すべき時期に来ていると思う。

私があなたに何かを売ったり、あなたが私に何かを売ったりしていれば、私たちはお互いのことを銃で撃とうとは思わない可能性が高い。

──そうすると、NATOとの関係はどうなるのか。アメリカはNATOから離脱すべきなのか。

離脱すべきだと思う。といっても、自由な人々の権利を守ることは重要だと考えている。「アメリカがNATOを離脱すれば、西ヨーロッパをいつでも見捨てられるようになる」といったことを言う人がよくいる。そのような人たちにはこう言いたい。アメリカは、第2次大戦時にはNATOがまだ存在しなかったのに、西ヨーロッパの国々がナチス・ドイツと戦うのを助けたではないか、と。

(20世紀末に)冷戦が終わったとき、NATOを解体して、ロシアを貿易のパートナーとして迎え入れるべきだった。もしそうしていれば、NATOを存続させ、拡大させるよりもはるかに緊張を取り除けていただろうと、私は思っている。

──中国に関しては、民主党と共和党の党派の枠を越えて懸念の声が高まっている。アメリカは中国にどのように向き合うべきだと思うか。

中国と貿易戦争をすることは避けるべきだと思う。いま経済がバブルの崩壊過程に入っているなかで、アメリカ経済を危険にさらす恐れがある。アメリカが取るべき行動は、米中間の貿易障壁を減らすよう呼び掛け、貿易相手として関わることだ。

──あなたは、自分が同性愛者であることに誇りを持っていると述べている。この数年は、LGBTQ+コミュニティーに対する反発や反感が強まっている。そうした(性的マイノリティーの権利擁護の流れに対する)揺り戻しの動きに対して、大統領や政府はどのような行動を取ることができると思うか。

このところ反発や反感が強まっているのは、自然に変化が起きるペースよりも速く、政府が人為的に変化を生み出そうとしていることが理由だと思う。(政府が変化を推進するよりも)私は思想の自由市場に委ねたい。社会的価値観が異なる層の間で、いわば停戦が必要だ。文化戦争には賛同できない。

とはいえ、市民的自由は支持している。全ての個人が法の下で平等の権利を持つべきだ。この点は譲れない。誰でも自分が望む形で平和に生き、自分が望む形で平和に家庭を築くことができるべきだ。

──2大政党以外の候補者全般に対して、せいぜい2大政党の候補者の足を引っ張るだけという辛辣な見方をする人が多い。そうした批判に対してはどう思うか。

私の答えはこうだ。(バイデン)現大統領と(トランプ)前大統領、そして議会の支持率は、いま空前の低水準に落ち込んでいる。私がどうこうするまでもなく、ワシントンの政治はすでに腐っている。

私が混乱をつくり出していると言われるのであれば、それで結構。喜んで政治のプロセスに混乱を生み出したい。



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