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世界に押し寄せる「オーバーツーリズム」の津波...観光客数を「制限」する規制も、各国が続々採用

ニューズウィーク日本版 2024年7月25日 17時28分

木村正人
<訪日客数が過去最高を記録。各国でオーバーツーリズムへの反発が強まるが、問題を単純化しすぎた対策は解決策にならない>

[ロンドン発]日本政府観光局(JNTO)によると、6月の訪日客数は313万5600人となり前年同月比で51.2%増、コロナ前の2019年同月比で8.9%増となった。単月として過去最高を記録した。上半期累計で1777万7200人となり2019年同期の過去最高を100万人以上上回る。

子どもたちの休みに合わせた需要の高まりに加え、台湾、フィリピン、米国などで訪日客数が増加した。18カ国・地域で訪日客数は6月の過去最高を記録。ロンドン暮らしの筆者の周辺でも円安に惹かれて日本に行きたいという友人が激増している。

日本政府は昨年3月、観光立国推進基本計画を更新。「持続可能な観光」「消費額拡大」「地方誘客促進」を3本柱に訪日外国人旅行消費額5兆円、国内旅行消費額20兆円の早期達成を目指すとともに、来年までに持続可能な観光地域づくりに取り組む地域を100に広げる目標を掲げた。

観光公害もうれしい悲鳴?

日本は電気をつくる燃料となるエネルギー資源の9割を海外に依存する。製造拠点も海外に移転し、輸出を促進する円安の追い風は吹かない。デジタル関連サービスの赤字「デジタル赤字」も膨らみ、インバウンドは新たな収入源として期待される。

秡川直也観光庁長官によると、このペースで推移すれば今年のインバウンド消費額は8兆円も視野に入る。観光地に旅行客が集中し、地元住民の暮らしを圧迫するオーバーツーリズム(観光公害)も観光客不足でホテルや旅館の閉店が相次いだ数年前に比べるとうれしい悲鳴なのか。

山梨県は富士山の登山規制、姫路城は二重価格を導入し、対策に乗り出した。筆者も最近、日本に一時帰国したが、オンライン予約した宿泊施設の支払いがサイトの表示価格の2倍前後にハネ上がったケースが重なり、閉口した。「予約を一方的に取り消された」とぼやく友人もいる。

「過剰観光に反対」「プライベートジェットを止めろ」

エネルギーに乏しく、米国のマグニフィセント・セブンのようなテクノロジー企業がない欧州では、旅行・観光業が国内総生産(GDP)の10~20%を占める国が少なくない。最近、スペインで2番目に人気の高いマヨルカ島で過剰観光に抗議する1万人規模のデモが起きた。

「過剰観光に反対」「プライベートジェットを止めろ」と旅客機やクルーズ船の模型を掲げてデモ隊が練り歩く。反ツーリズム活動家は今年、バルセロナ、パルマ・デ・マヨルカ、マラガ、カナリア諸島などスペインで人気の観光地で抗議デモを繰り返している。

集合住宅が観光客用に改造され、投機目的の資金が流れ込んで住宅価格や物価を押し上げる。観光客はビーチを埋め尽くし、公共サービスの負担になる。バルセロナでは、12時間未満しか滞在しないクルーズ客に対する観光税が引き上げられる。

観光客やクルーズ客数を制限

フランス北部沿岸のイル=ド=ブレハは大都市のアムステルダムやベネチアに続き、オーバーツーリズム対策として観光客数を制限する。8月23日まで午前8時半から午後2時半の間、地元住民、セカンドハウス所有者、労働者を除いて4700人しか入れなくなる。

エーゲ海に浮かぶギリシャ・サントリーニ島では1日に1万1000人のクルーズ客が到着したことから8000人の上限を設けた。どの国でも観光税引き上げ、入場料、時間枠制度、事前予約制度の導入、オーバーツーリズムの抑制を目的としたキャンペーンなど対策を講じている。

コロナ後の旅行急増でオーバーツーリズムが改めて大きな懸念となっている。しかし2019年、国連世界観光機関はすでに「観光が世界中の地域社会に生み出しうる機会を最大限に活用するために、そのような成長は責任を持って管理されるべきである」と呼びかけている。

オーバーツーリズムの問題は克服できるか

英ノッティンガム大学のマリーナ・ノヴェッリ教授(観光)らは昨年10月、世界経済フォーラムに「いかにオーバーツーリズムを克服できるか」と題して寄稿している。オーバーツーリズムは観光客が多すぎることが問題と単純化されがちだが、数え切れない要因が絡んでいる。

観光客の消費や投資から生じる利益を優先するのではなく、政府や自治体は断固とした態度で過剰観光に対応しなければならない。地方自治体は定員制限を設ける措置を講じ、守られない場合は不作為の責任を負う。観光客も自分たちの行動に責任を持たなければならない。

観光に投資する側も地元の優先事項やニーズを高めるようなイニシアティブを支援すべきだ。各国の観光局は地域の背景と調和した開発を支援しなければならない。単純化しすぎた処方箋は持続可能で公平な観光の未来への可能性を放棄するものだとノヴェッリ教授は警鐘を鳴らす。


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