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人道支援団体を根拠なく攻撃してなぜか儲かる「誹謗中傷ビジネス」

ニューズウィーク日本版 2024年7月29日 0時0分

藤崎剛人
<訴えられて損害賠償を命じられてもペイするというビジネスモデルの背後にいるのは誰か>

一昨年から始まる「不正会計」デマをきっかけとして、貧困やDVなどの困難を抱えた10代女性を支援する団体Colaboが様々な誹謗中傷を受けている問題で、7月18日、誹謗中傷のきっかけをつくった「暇空茜」を名乗る人物に対して損害賠償を求めた裁判で、暇空氏に220万円の賠償と投稿の削除を命じる判決が出た。昨年3月に出た、Colaboの会計に不正はなしとした東京都の監査結果と合わせて、暇空氏のデマによって女性支援団体の活動が妨害されたという事実が、公的に認められたことになる。

しかしこれで問題が決着したわけではない。暇空氏とその支持者はColabo以外にも様々な社会福祉団体を攻撃してきたが、今回の判決が出た後も、貧困児童を支援するNPO団体を根拠なく攻撃し、「炎上」させている。暇空氏は「ひまそらあかね」の名前で都知事選に立候補し、11万票を集めた。貧困層やマイノリティなどを支援する団体に対する誹謗中傷は、それが儲かるビジネスにもなり、ますます深刻な社会問題になりつつある。

名誉棄損裁判はColaboの勝利

7月18日に判決が出た裁判は、インターネット上で暇空茜を称する男性(本名:水原清晃)が女性支援団体Colaboに対して、この団体は女性たちを「タコ部屋」に住まわせて生活保護を受給させ、毎月一人6万5000円ずつ徴収する「生活保護ビジネス」を行っているというデマを流したことに対してColabo側が訴えたもの。弁護団によれば、この判決で暇空側の主張は一つも認められなかったという。

また弁護団も主張しているように、判決文の「被告(暇空)が自らの好む漫画やアニメなどのコンテンツを批判する原告仁藤(Colabo代表・仁藤夢乃氏)に対し強い敵意を抱き、原告らを批判する動機がそのような点にあることを自認しているもので、上記活動報告書等の記載をあえて曲解している可能性を否定できない」という箇所は重要だ。つまり裁判所は、暇空氏が自分の気に入らない主張をしている仁藤氏を攻撃することを目的として、悪意をもってデマを流した可能性があると認定しているのだ。暇空氏はこの裁判以外にもColabo関係者との訴訟を抱えており、その帰趨にこの判決文が影響する可能性もある。

仁藤氏は裁判後の記者会見で、この間の支援活動妨害による被害の甚大さについて述べた。中でも深刻なのは、支援対象そのものへの被害だ。支援している少女たちが不安になったり、生活を壊されたり、また本来繋がることができたはずの少女が、デマを理由に連絡を躊躇しているうちに、取り返しのつかない事態にまで発展した事例もあったという。こうした被害は、裁判での勝利によって回復できるものではない。

さらに暇空氏とその同調者は、こうした裁判での敗北に反省することなく、新たな攻撃対象を見つけて、Colaboのときと同じように活動を妨害しようとしている。そのターゲットとなった団体の一つが、貧困児童への支援活動を行っているNPO法人「キッズドア」だ。

標的は「公金チューチュースキーム」

NPO法人「キッズドア」は、給食がなくなる夏休みの「緊急食料支援」として、申込みがあった家庭に、米や乾麺、レトルト食品といった食料を一括・無料で送り届けるプロジェクトを行っている。寄付等で賄われるその費用は、一世帯あたり税・送料込みで8000円だという。このプロジェクトで支援された食料の写真をこの団体の理事長である渡辺由美子氏がSNSにアップしたところ、「もっと安くできるはずだ」「中抜きだ」などといった批判が集まり、炎上した。

なぜ「キッズドア」が狙われたのか。暇空氏はColabo攻撃以降、様々な社会福祉系のNPOや社団法人をColabo同様に攻撃し続けている。暇空氏には、こうした公と連携して活動を行う福祉系の団体は、裏で補助金を不正に獲得するノウハウを共有しており、様々な政党や地方自治体、諸官庁と共謀し、「公金チューチュースキーム」を形成しているという持論がある。実際は彼が様々な自治体や団体に対して行った住民監査請求や開示請求で不正が見つかったことは一度もないのだが、彼はその持論を保ち続けており、今回新たにターゲットとなったのが「キッズドア」だった。

裁判で敗訴しても、また同じようなNPO攻撃が行われてしまうのは、先般のコラムで扱った「誹謗中傷ビジネス」の問題がある。Colaboとの裁判で、暇空氏には220万円の損害賠償が命じられた。しかし、暇空氏はColaboに関係する訴訟を目的として、その同調者たちからおよそ1億円以上のカンパ金を集めたといわれており、その他にこの裁判をネタにした動画配信やnote記事を流すことによる収益もある。したがって数百万円程度の損害賠償では歯止めにはならないのだ。

重要なのは、「誹謗中傷ビジネスの」手法は、このやり方にうんざりすることなく、積極的に応援する同調者がいなければ成り立たないということだ。その点、暇空氏は前述の通り、先の東京都知事選に出馬し11万票を集めているのだ。

最大の被害者は支援対象者

名誉毀損裁判での敗訴を経ても止まらない、困窮者への支援活動を行っているNPO団体などへの攻撃で、最も被害を受けるのは、仁藤氏が会見で明らかにしたように、困難を抱えている当事者に他ならない。Colaboが対象とする行き場のない女性たちや、「キッズドア」が対象とする困窮家庭の子どもたちが、活動への妨害によって十分に支援されない状況が生じてしまう。

名誉毀損裁判での敗北も顧みない「誹謗中傷ビジネス」とその同調者を止めることは容易ではない。しかしこのまま放置すればますます支援の現場は疲弊するだろう。僅かな希望があるとすれば、今回の名誉毀損裁判は多くのメディアが報じたことだ。昨年Colaboの会計に不正はなしと報じたメディアは少数だった。これ以上の被害を出さないためには、こうして社会の問題意識を少しずつ高めていくほかはない。

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