トニー・ヘイネン、プラバカラン・バナラジャ・アンベス(豪クイーンズランド大学)
<CO2の排出量半減を目指す国際オリンピック委員会。大会インフラの95%を既存施設で賄うだけでなく、リサイクル素材の活用、ベジタリアン向けメニューの割合を高める、といった取り組みにも力を入れているが──>
7月26日に開幕したパリ五輪の持続可能性に注目が集まっている。大会組織委員会は史上最も環境に優しく二酸化炭素(CO2)排出量の半減を目指す。
競技会場の新設を大幅に減らし、建築資材は木材を多用。低炭素型コンクリートも活用している。この五輪は持続可能性に焦点を当てたIOC(国際オリンピック委員会)の指針「ニューノーム(新しい規範)」に基づく最初の大会となる。
オリンピック開催は巨大事業だ。これまでの開催都市は巨額の費用をかけてスタジアムや会場を新設してきた。だが大会終了後はほとんど使われず、廃墟と化す例まである。
パリ五輪の組織委員会はさまざまな側面からこの課題に取り組んだ。まず、既にあるものの活用。五輪関連インフラの95%は既存の施設だ。
周囲の景観を生かすため、有名なランドマーク近くに仮設スタジアムを建設。競泳会場は唯一の常設施設だが、建材の大半がCO2を吸収・貯蔵する木材だ。屋根はソーラーパネルで覆われ、高度な水リサイクルシステムを備えている。大会終了後は地域のコミュニティー施設となる。
選手たちは持続可能性に焦点を当てた大会の特徴に気付いたはずだ。選手村にエアコンは設置されず、代わりに自然の風と地下水を利用した冷房システムが採用された。
この決定は物議を醸し、多くのチームは夏の夜に選手たちの安眠を確保すべくポータブルエアコンを持ち込む計画を立てた。これを受けて組織委員会は方針を転換。2500台のポータブルエアコンを導入することにした。
選手と観客は食事の変化にも気付いたはずだ。メニューの60%以上がベジタリアン向けとなり、CO2排出量の削減に貢献する。会場の電力は再生可能エネルギーのみ。過去の大会では停電回避のため、発電機で電力を供給していた。
「循環型経済」重視の一環として、大会で使用される製品の90%はリサイクル素材か、使用後に再利用される。
例えばメダルの素材はリサイクルされた金属で、その中にはエッフェル塔の鉄片も含まれる。選手村のマットレスはフランス軍で再利用され、大会運営のあらゆる面で発生するCO2排出はアプリやチェックリストで計測・評価される。
これだけやってもまだ完璧ではないと、大会批判派は指摘する。大会期間中の排出量の約50%は、選手と役員、観客の移動と宿泊によるもの。この排出量(特に航空機の移動)を削減することは極めて困難だ。
組織委員会はこれを埋め合わせるため、多くの国でカーボン・オフセットを活用する意向だ。
パリ大会の過大な宣伝文句には、うわべだけの「グリーンウォッシュ」との批判もある。そもそも現在の形の五輪は、環境に優しい未来と相いれないと主張する批判派もいる。
一部では開催を複数の国で分担する分散型モデルの採用を望む声も出ている。既に必要なインフラを備えた3、4都市だけで持ち回り開催すべきだという意見もある。
パリ五輪は感動のゴールシーンや新記録だけでなく、組織委員会の持続可能性への取り組みによっても記憶に残るかもしれない。温室効果ガスを排出しないわけではないが、過去の大会よりは大幅に改善されている。
2032年大会の開催地ブリスベーンを含む今後の大会組織委員会が、このバトンを受け継ぐことを期待しよう。
Tony Heynen, Program Coordinator, Sustainable Energy, The University of Queensland and Prabhakaran Vanaraja Ambeth, PhD student, The University of Queensland
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
<CO2の排出量半減を目指す国際オリンピック委員会。大会インフラの95%を既存施設で賄うだけでなく、リサイクル素材の活用、ベジタリアン向けメニューの割合を高める、といった取り組みにも力を入れているが──>
7月26日に開幕したパリ五輪の持続可能性に注目が集まっている。大会組織委員会は史上最も環境に優しく二酸化炭素(CO2)排出量の半減を目指す。
競技会場の新設を大幅に減らし、建築資材は木材を多用。低炭素型コンクリートも活用している。この五輪は持続可能性に焦点を当てたIOC(国際オリンピック委員会)の指針「ニューノーム(新しい規範)」に基づく最初の大会となる。
オリンピック開催は巨大事業だ。これまでの開催都市は巨額の費用をかけてスタジアムや会場を新設してきた。だが大会終了後はほとんど使われず、廃墟と化す例まである。
パリ五輪の組織委員会はさまざまな側面からこの課題に取り組んだ。まず、既にあるものの活用。五輪関連インフラの95%は既存の施設だ。
周囲の景観を生かすため、有名なランドマーク近くに仮設スタジアムを建設。競泳会場は唯一の常設施設だが、建材の大半がCO2を吸収・貯蔵する木材だ。屋根はソーラーパネルで覆われ、高度な水リサイクルシステムを備えている。大会終了後は地域のコミュニティー施設となる。
選手たちは持続可能性に焦点を当てた大会の特徴に気付いたはずだ。選手村にエアコンは設置されず、代わりに自然の風と地下水を利用した冷房システムが採用された。
この決定は物議を醸し、多くのチームは夏の夜に選手たちの安眠を確保すべくポータブルエアコンを持ち込む計画を立てた。これを受けて組織委員会は方針を転換。2500台のポータブルエアコンを導入することにした。
選手と観客は食事の変化にも気付いたはずだ。メニューの60%以上がベジタリアン向けとなり、CO2排出量の削減に貢献する。会場の電力は再生可能エネルギーのみ。過去の大会では停電回避のため、発電機で電力を供給していた。
「循環型経済」重視の一環として、大会で使用される製品の90%はリサイクル素材か、使用後に再利用される。
例えばメダルの素材はリサイクルされた金属で、その中にはエッフェル塔の鉄片も含まれる。選手村のマットレスはフランス軍で再利用され、大会運営のあらゆる面で発生するCO2排出はアプリやチェックリストで計測・評価される。
これだけやってもまだ完璧ではないと、大会批判派は指摘する。大会期間中の排出量の約50%は、選手と役員、観客の移動と宿泊によるもの。この排出量(特に航空機の移動)を削減することは極めて困難だ。
組織委員会はこれを埋め合わせるため、多くの国でカーボン・オフセットを活用する意向だ。
パリ大会の過大な宣伝文句には、うわべだけの「グリーンウォッシュ」との批判もある。そもそも現在の形の五輪は、環境に優しい未来と相いれないと主張する批判派もいる。
一部では開催を複数の国で分担する分散型モデルの採用を望む声も出ている。既に必要なインフラを備えた3、4都市だけで持ち回り開催すべきだという意見もある。
パリ五輪は感動のゴールシーンや新記録だけでなく、組織委員会の持続可能性への取り組みによっても記憶に残るかもしれない。温室効果ガスを排出しないわけではないが、過去の大会よりは大幅に改善されている。
2032年大会の開催地ブリスベーンを含む今後の大会組織委員会が、このバトンを受け継ぐことを期待しよう。
Tony Heynen, Program Coordinator, Sustainable Energy, The University of Queensland and Prabhakaran Vanaraja Ambeth, PhD student, The University of Queensland
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.