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石丸伸二氏のような政治家の「一方的な発言戦略」に要注意

ニューズウィーク日本版 2024年7月30日 13時10分

西村カリン(ジャーナリスト)
<都知事選の石丸伸二候補のように、一方的なパフォーマンスを展開して政策を語らない政治家が支持を得ることに危うさを感じる>

フランスの国民議会(下院)の選挙結果はビッグサプライズだった。6月30日の第1回投票で極右の国民連合が第1党になったが、7月7日の決選投票に向けて左派連合と与党連合が候補を一本化。左派連合が予想外の1位、与党連合が2位となった。

一部の候補者の無能さや失言、政策の弱点、過去の人種差別発言や違法行為など、国民連合の弱みが第1回投票と決選投票の間に一気に明らかになり、「やっぱり駄目だ」と思うフランス人が多かった。

「極右は嫌」と思う人々が諦めず積極的に投票して、人種差別的な政策を推進する国民連合が第1党になるという最悪の状況を阻止したのだ。それを見た多くの日本人が「羨ましい」「フランスすごい」とコメントしていた。日本ではそういった「逆転」が不可能だと思って「フランスが羨ましい」と言うのだろうか。そうだとしたら不思議だ。

日本とフランスの3つの相違点

日本も民主主義の国。日本でも選挙があり、18歳以上なら投票権を持つ。日本でも政治家は国民が選ぶ。では、日本とフランスは何が違うかと考えたら、3つの主な相違点がある。

①フランス人はずっと前から政治への関心が高い。選挙の時には家族の間でも、友人との飲み会でも、同僚との雑談でも政治の話をする。

②フランスのマスコミは政治家を厳しく追及する。

③テレビやラジオで政治家同士の激しい議論がある。

残念なことに、日本での選挙は全然違う。特に私が気になっているのは、マスコミの態度だ。政治家の発言を報道するけれど、政治家への鋭いインタビューはしない。政治家の討論番組を放送しないから、国民は彼らが議論する姿を見る機会が少ない。

そしてSNSやYouTubeなどのせいで、政治家の見た目やパフォーマンスが重視され、国民の政治意識がますます弱くなっていくリスクがある。東京都知事選の結果を見るとよく分かる。実現したい政策をほとんど語らない石丸伸二氏が2位になった。

本人のYouTubeチャンネルの政治活動動画を見ても、政策の説明はほとんどない。選挙戦最終日の7月6日に東京駅前で行われた演説の動画は3分42秒あるが、「人生の使い道が見つかった」「ここに来れて本当によかった」といった内容ばかりで、政策については0秒だ。ほかの動画も政策を語らないものが多いにもかかわらず、褒めるコメントばかり。何に基づいてこうした政治家を応援しているのか疑問だ。

石丸氏のような政治家が取っているのは、極端な「一方的発言」の戦略、いわばプッシュ型政治活動だ。YouTubeやTikTokを最大限利用し、インタビューに応じる際には記者を怒ったりばかにしたりして、それも関心を集めるためのコンテンツとして使う。記者会見では記者に不満を言い、威嚇する場面もある。ただしこういった戦略を選んだ政治家は、厳しく追及されると弱さが明らかになる。

日本で足りないのは、マスコミの調査能力と国民の政策に対する関心ではないかと思う。大手メディアと政界は記者クラブを通して「ウィンウィン関係」をつくってしまった。石丸氏のように記者を敵扱いしがちな新タイプの政治家に対して、同じような対応の仕方は無理だろう。ウィンウィンでも、単なる敵でもなく、記者が追及すべきことを追及できるように、取材の仕方などを変えることが必要だと思う。

つまり、一方的な発信に対抗する力(マスコミや、国民の関心・意識)のある環境ができると、政治家の本音が出て、問題点が可視化される。国民の知る権利を保障できるのは、まさにその環境だと思う。

西村カリン
KARYN NISHIMURA
1970年フランス生まれ。パリ第8大学で学び、ラジオ局などを経て1997年に来日。AFP通信東京特派員となり、現在はフリージャーナリストとして活動。著書に『フランス人記者、日本の学校に驚く』など。Twitter:@karyn_nishi


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