冷泉彰彦
<米大手ITはいずれもAI搭載モデルを主力商品として売り込んでいる>
パリ五輪が開会し、連日熱戦が繰り広げられています。アメリカの場合は、例によって日本の地上波にあたる3大ネットワークのNBCが独占中継権を持っています。NBCでは、ニュース枠も含めて事実上一日中ブチ抜きで五輪中継を続けています。ただ、競技数が多いこともあり、1チャンネルでは収まらないわけで、系列のUSAなど複数の局でも中継をしています。加えて全競技のネット配信もされています。
アメリカの場合はこのネット配信は広告付きです。30秒とか1分といった長めのコマーシャルを視聴すると中継に切り替わり、長い中継の場合は途中でも広告の追加の視聴が入ってくるというシステムです。ところで、今回も巨額のマネーが動いているアメリカの五輪放映におけるコマーシャルですが、今年の場合は圧倒的にAI関係の広告が目につきます。
例えばグーグルは、「ジェミニ」という大規模な言語モデルAIサービス。メタはフェイスブックやインスタグラムと連携した「メタAI」。マイクロソフトは365と連携した「コパイロット」というネーミングを売り込んでいます。広告の訴求としては、どれも似たりよったりで、簡単な箇条書きの要点を入力すると立派なレターを返してくるとか、簡単な企画書のメモを入力するとプレゼンが仕上がるといった具合です。知的活動の生産性向上ツールとしての具体的なイメージを広めようという広告の意図は明らかで、とにかくAIを万人に向けて売り込んでいこうというわけです。
AIが知的職業を圧迫する?
AIということでは、現在のアメリカの株式市場もAI関連の銘柄が株価を牽引しています。特に目立っているNVIDIAの場合は、以前はコンピュータの動画性能に関わるビジュアルメモリ、つまりゲーム関連の半導体を製造していたのですが、一時期はその半導体が暗号資産のマイニングに使われることで人気が高まりました。そして現在はAIに利用されるということで成長が期待されています。同じく半導体のAMDなども同様でAI時代の到来を見越した期待が集まっているのです。
AI、特に現在一気に実用化が進んでいる大規模な言語データによる対話型の知的ツールに関しては、勿論アメリカでも問題点は指摘されています。特に、高校生以下の生徒たちが宿題の答えを安易にAIから得てしまう問題は深刻です。中でも、算数の問題をイメージとして入力すると、解法と解答を返してくるサービスは低学年から乱用されており、放置すると広範な学力崩壊を招きかねないという声が上がっています。
また脚本家(日本で言う放送作家を含む)組合が、番組台本制作にあたってAIを使用させないためにストライキを行うなど、AIが知的職業を圧迫する危険性は広く認識されるようになりました。ですが、その一方で事務的なコミュニケーションにおいては、AIの利用はどんどん進んでいます。営業文書、請求書、求人求職の際のやり取りなどでは、儀礼的な「送り状」は衰退しているものの、大切な内容はレターにすることは多いわけです。
英語でも、ビジネス文書について「感じの良さ」「内容の正確さ」「利害が対立した際に突っ込まれない防衛的な表現」に気を配りながらレターを書くというのは面倒な作業です。それを、かなりの精度で下書きしてくれるAIは既に多くの社会人の心強い味方になっています。この勢いでAIが普及すれば、法律や会計などの文書作成業務などでどんどん人力がAIに置き換わると言われていますが、もうこのような動きは実際に始まっているのです。
仮にこの勢いで英語圏でAIの実用化が加速し、知的労働における生産性が向上するようですと、独立言語圏の日本は生産性において更に遅れを取る可能性があります。加えて、硬直した著作権への考え方を反映した規制など、日本ではAIの利点を活かすための知恵を加速するよりも、AIのデメリットを懸念する動きが目立ちます。
AIの成否を左右するのは何よりもデータの量です。日本語のデータ蓄積は英語圏と比較して1桁以上少なく推移するかもしれず、これに規制が乗っかるようですと、純日本語のAIというのは、英語版にどんどん置いていかれるのは間違いありません。そうであっても、英語版が加速度的に充実してゆくのであれば、日本語との翻訳ツールに資源を集中していって、英語のデータを活かすということは可能だと思います。
問題は、そうした日英、英日の自動翻訳についても既にシリコンバレー勢力がどんどん実用化を進めているということです。少なくともこの分野、つまり自国の言語である日本語と英語との翻訳ツールだけは、日本国内に精度が高く使い勝手の良いサービスを立ち上げて、これ以上の国富の流出を避けることを考えるべきと思います。
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パリ五輪が開会し、連日熱戦が繰り広げられています。アメリカの場合は、例によって日本の地上波にあたる3大ネットワークのNBCが独占中継権を持っています。NBCでは、ニュース枠も含めて事実上一日中ブチ抜きで五輪中継を続けています。ただ、競技数が多いこともあり、1チャンネルでは収まらないわけで、系列のUSAなど複数の局でも中継をしています。加えて全競技のネット配信もされています。
アメリカの場合はこのネット配信は広告付きです。30秒とか1分といった長めのコマーシャルを視聴すると中継に切り替わり、長い中継の場合は途中でも広告の追加の視聴が入ってくるというシステムです。ところで、今回も巨額のマネーが動いているアメリカの五輪放映におけるコマーシャルですが、今年の場合は圧倒的にAI関係の広告が目につきます。
例えばグーグルは、「ジェミニ」という大規模な言語モデルAIサービス。メタはフェイスブックやインスタグラムと連携した「メタAI」。マイクロソフトは365と連携した「コパイロット」というネーミングを売り込んでいます。広告の訴求としては、どれも似たりよったりで、簡単な箇条書きの要点を入力すると立派なレターを返してくるとか、簡単な企画書のメモを入力するとプレゼンが仕上がるといった具合です。知的活動の生産性向上ツールとしての具体的なイメージを広めようという広告の意図は明らかで、とにかくAIを万人に向けて売り込んでいこうというわけです。
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AIということでは、現在のアメリカの株式市場もAI関連の銘柄が株価を牽引しています。特に目立っているNVIDIAの場合は、以前はコンピュータの動画性能に関わるビジュアルメモリ、つまりゲーム関連の半導体を製造していたのですが、一時期はその半導体が暗号資産のマイニングに使われることで人気が高まりました。そして現在はAIに利用されるということで成長が期待されています。同じく半導体のAMDなども同様でAI時代の到来を見越した期待が集まっているのです。
AI、特に現在一気に実用化が進んでいる大規模な言語データによる対話型の知的ツールに関しては、勿論アメリカでも問題点は指摘されています。特に、高校生以下の生徒たちが宿題の答えを安易にAIから得てしまう問題は深刻です。中でも、算数の問題をイメージとして入力すると、解法と解答を返してくるサービスは低学年から乱用されており、放置すると広範な学力崩壊を招きかねないという声が上がっています。
また脚本家(日本で言う放送作家を含む)組合が、番組台本制作にあたってAIを使用させないためにストライキを行うなど、AIが知的職業を圧迫する危険性は広く認識されるようになりました。ですが、その一方で事務的なコミュニケーションにおいては、AIの利用はどんどん進んでいます。営業文書、請求書、求人求職の際のやり取りなどでは、儀礼的な「送り状」は衰退しているものの、大切な内容はレターにすることは多いわけです。
英語でも、ビジネス文書について「感じの良さ」「内容の正確さ」「利害が対立した際に突っ込まれない防衛的な表現」に気を配りながらレターを書くというのは面倒な作業です。それを、かなりの精度で下書きしてくれるAIは既に多くの社会人の心強い味方になっています。この勢いでAIが普及すれば、法律や会計などの文書作成業務などでどんどん人力がAIに置き換わると言われていますが、もうこのような動きは実際に始まっているのです。
仮にこの勢いで英語圏でAIの実用化が加速し、知的労働における生産性が向上するようですと、独立言語圏の日本は生産性において更に遅れを取る可能性があります。加えて、硬直した著作権への考え方を反映した規制など、日本ではAIの利点を活かすための知恵を加速するよりも、AIのデメリットを懸念する動きが目立ちます。
AIの成否を左右するのは何よりもデータの量です。日本語のデータ蓄積は英語圏と比較して1桁以上少なく推移するかもしれず、これに規制が乗っかるようですと、純日本語のAIというのは、英語版にどんどん置いていかれるのは間違いありません。そうであっても、英語版が加速度的に充実してゆくのであれば、日本語との翻訳ツールに資源を集中していって、英語のデータを活かすということは可能だと思います。
問題は、そうした日英、英日の自動翻訳についても既にシリコンバレー勢力がどんどん実用化を進めているということです。少なくともこの分野、つまり自国の言語である日本語と英語との翻訳ツールだけは、日本国内に精度が高く使い勝手の良いサービスを立ち上げて、これ以上の国富の流出を避けることを考えるべきと思います。
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