コリン・ジョイス
<日本では住宅街でのクマやシカの出没が盛んにニュースになっているが、ロンドンなどイギリスの都会ではキツネが歩き回るのが当たり前に>
これは「新しいニュース」ではなく、おそらくそんなに重要でもないけれど、僕の生きてきた中で顕著な変化の1つだ――キツネが至る所にいるのだ。
僕が10代のとき、夜の街で何が起こっているのか、というのを映し出した1985年ごろのテレビ番組を見たのが記憶に残っている。
ロンドンで撮影された映像で、カメラがキツネの姿を捉えた。田舎にいる動物だと思っているから驚きでしょうが、実際は都会にもキツネがいるんですよ!との説明が流れた。このあり得なそうな光景をいつしか自分の目で見ることがあるのかな、と思ったことを僕は覚えている。
で、願いはかなった。実際、今の10代の若者に、キツネが夜の街をうろついているよなどと言えば、彼らはいったいどうしてそんな当たり前のことを言うのだろうと不思議に思うだろう。「雨は雲から発生するよ」「ピカッと光ったら雷が鳴るよ」......などと言うようなものだ。
現在、僕はロンドン西部の緑豊かな郊外トゥイッケナムに滞在しているが、キツネの状況は冗談みたいだ。周囲にはたくさんの緑地があり(公園や庭園、河辺など)、人もたくさんいる(つまり食べ物のごみなどもたくさん出る)。これはキツネにとって理想的だ。
日本の住宅街にもクマやシカが出没しているというニュースをよく目にする。キツネは、それのイギリスバージョンだ。
害獣ではないグレーゾーン
フェンスで区切られているために周囲の人間に邪魔されないからか、キツネは線路が好きなようだ。彼らは電車にひかれない技術に長けているみたいだし(車はまた別の問題だ)、キツネがいちばん出歩く可能性が高い夜の時間には電車は止まっている。
彼らはかなり厄介な存在で、庭を掘り起こしたり、糞をしたり、地面に巣を作る鳥を殺したりする。正式に害獣とされてはいないため、グレーゾーンに分類される。
つまり、地方自治体は数を管理したり駆除したりする義務がないため、どう対処するかは個人に委ねられている。また、「保護」されてもいないので、自宅敷地内にいるキツネを殺すことはできるが、都市部でそんなことをしている人は聞いたことがない。いずれにしても、全体の数には影響しないだろう。
彼らの存在は悪いことばかりではない。ウサギの個体数の増加を抑え、ネズミなどの害獣を殺すのに役立つ。
しかし、彼らはまた、多くの家禽や子羊を殺しているので、農家はキツネの数をコントロールしようと試みている。
許可を得ていない方策の1つは、犬を使った組織的なキツネ狩りで、これは2004年に禁止された。動物愛護活動家や、田舎の人たちからすれば「都会の左翼たち」に、残酷な手法だと判断されたためだ。だから他の駆除方法を見つけなければならなくなった(主に銃殺)。
そのため、キツネ狩りの禁止でキツネの数が爆発的に増加することはなかった。そして、都市部のキツネの急増(約5倍になった)は、1990年代初頭から始まった。
全体的なキツネの個体数は2018年のピークから減少しているようで、これはおそらく、新タイプである都市部のキツネの寿命がかなり短いことも一因だろう(車にはねられるし、ゴミ箱食は田舎のキツネの食事ほど健康的ではない)。
襲われた人の悲鳴みたいな鳴き声
僕はトゥイッケナムで、留守中の友人に代わって家に滞在しているのだが、毎晩帰り道でキツネとすれ違う。
トゥイッケナムで筆者が遭遇したキツネ COLIN JOYCE
夜になると、この世のものとは思えない悲鳴が聞こえてくる。
キツネの鳴き声は赤ちゃんが泣いているような声だという人もいるが、もしそうなら、邪悪なゴースト赤ちゃんだろう。初めて聞いた人はきっと、誰かが襲われて悲鳴を上げていると思うに違いない。
この家での僕の任務は主に、友人のネコの世話をすることと、正しい日にゴミ出しをすること。そして昨日、僕が深夜ごろにゴミ出しに行ったとき、ネコが家を飛び出して、あらゆるキツネがゴミ箱からごちそうを楽しむスペシャルな夜へと飛び出して行った。
この猫はいつもは夜間に家の中にいることが多いから、僕はちょっと心配になった。大人のネコはキツネから身を守ることができるというのが一般常識だし、キツネはネコよりもっと簡単な獲物を狙う習性がある。
それでも、数の増えすぎた都会のキツネが食べ物に飢えていたら......、キツネが群れで獲物を狩ることを覚えていたら......と、「もしもの事態」を考えて1時間も気をもんだ。
するとそのうち、ネコが家に戻ってきた扉の音が聞こえ、僕は血も凍るようなキツネたちの鳴き声を耳にしながら、安らいで眠りに落ちた。
<日本では住宅街でのクマやシカの出没が盛んにニュースになっているが、ロンドンなどイギリスの都会ではキツネが歩き回るのが当たり前に>
これは「新しいニュース」ではなく、おそらくそんなに重要でもないけれど、僕の生きてきた中で顕著な変化の1つだ――キツネが至る所にいるのだ。
僕が10代のとき、夜の街で何が起こっているのか、というのを映し出した1985年ごろのテレビ番組を見たのが記憶に残っている。
ロンドンで撮影された映像で、カメラがキツネの姿を捉えた。田舎にいる動物だと思っているから驚きでしょうが、実際は都会にもキツネがいるんですよ!との説明が流れた。このあり得なそうな光景をいつしか自分の目で見ることがあるのかな、と思ったことを僕は覚えている。
で、願いはかなった。実際、今の10代の若者に、キツネが夜の街をうろついているよなどと言えば、彼らはいったいどうしてそんな当たり前のことを言うのだろうと不思議に思うだろう。「雨は雲から発生するよ」「ピカッと光ったら雷が鳴るよ」......などと言うようなものだ。
現在、僕はロンドン西部の緑豊かな郊外トゥイッケナムに滞在しているが、キツネの状況は冗談みたいだ。周囲にはたくさんの緑地があり(公園や庭園、河辺など)、人もたくさんいる(つまり食べ物のごみなどもたくさん出る)。これはキツネにとって理想的だ。
日本の住宅街にもクマやシカが出没しているというニュースをよく目にする。キツネは、それのイギリスバージョンだ。
害獣ではないグレーゾーン
フェンスで区切られているために周囲の人間に邪魔されないからか、キツネは線路が好きなようだ。彼らは電車にひかれない技術に長けているみたいだし(車はまた別の問題だ)、キツネがいちばん出歩く可能性が高い夜の時間には電車は止まっている。
彼らはかなり厄介な存在で、庭を掘り起こしたり、糞をしたり、地面に巣を作る鳥を殺したりする。正式に害獣とされてはいないため、グレーゾーンに分類される。
つまり、地方自治体は数を管理したり駆除したりする義務がないため、どう対処するかは個人に委ねられている。また、「保護」されてもいないので、自宅敷地内にいるキツネを殺すことはできるが、都市部でそんなことをしている人は聞いたことがない。いずれにしても、全体の数には影響しないだろう。
彼らの存在は悪いことばかりではない。ウサギの個体数の増加を抑え、ネズミなどの害獣を殺すのに役立つ。
しかし、彼らはまた、多くの家禽や子羊を殺しているので、農家はキツネの数をコントロールしようと試みている。
許可を得ていない方策の1つは、犬を使った組織的なキツネ狩りで、これは2004年に禁止された。動物愛護活動家や、田舎の人たちからすれば「都会の左翼たち」に、残酷な手法だと判断されたためだ。だから他の駆除方法を見つけなければならなくなった(主に銃殺)。
そのため、キツネ狩りの禁止でキツネの数が爆発的に増加することはなかった。そして、都市部のキツネの急増(約5倍になった)は、1990年代初頭から始まった。
全体的なキツネの個体数は2018年のピークから減少しているようで、これはおそらく、新タイプである都市部のキツネの寿命がかなり短いことも一因だろう(車にはねられるし、ゴミ箱食は田舎のキツネの食事ほど健康的ではない)。
襲われた人の悲鳴みたいな鳴き声
僕はトゥイッケナムで、留守中の友人に代わって家に滞在しているのだが、毎晩帰り道でキツネとすれ違う。
トゥイッケナムで筆者が遭遇したキツネ COLIN JOYCE
夜になると、この世のものとは思えない悲鳴が聞こえてくる。
キツネの鳴き声は赤ちゃんが泣いているような声だという人もいるが、もしそうなら、邪悪なゴースト赤ちゃんだろう。初めて聞いた人はきっと、誰かが襲われて悲鳴を上げていると思うに違いない。
この家での僕の任務は主に、友人のネコの世話をすることと、正しい日にゴミ出しをすること。そして昨日、僕が深夜ごろにゴミ出しに行ったとき、ネコが家を飛び出して、あらゆるキツネがゴミ箱からごちそうを楽しむスペシャルな夜へと飛び出して行った。
この猫はいつもは夜間に家の中にいることが多いから、僕はちょっと心配になった。大人のネコはキツネから身を守ることができるというのが一般常識だし、キツネはネコよりもっと簡単な獲物を狙う習性がある。
それでも、数の増えすぎた都会のキツネが食べ物に飢えていたら......、キツネが群れで獲物を狩ることを覚えていたら......と、「もしもの事態」を考えて1時間も気をもんだ。
するとそのうち、ネコが家に戻ってきた扉の音が聞こえ、僕は血も凍るようなキツネたちの鳴き声を耳にしながら、安らいで眠りに落ちた。