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植田総裁は失政を繰り返すのか?

ニューズウィーク日本版 2024年8月6日 13時50分

村上尚己
<8月5日に日本株市場は歴史的な急落となった。最近の日本株急落は、政策当局者による人災の側面が大きいと筆者は考えている......>

8月5日に日本株市場(TOPIX)は歴史的な急落(-12.2%)となり、年初からの上昇を一気に吐き出してしまった。7月初旬まで史上最高値更新が続いていたが、僅か1か月で株式市場は様変わりした。2024年から日本株への投資を始めた多くの投資家が損失を被っている状況にある。株式市場において下落するリスクは常にあるが、最近の日本株急落は、政策当局者による人災の側面が大きいと筆者は考えている。

日本の通貨介入によって、22年以来の円安基調が転換した

7月9日当コラムでは、当時まで1ドル160円台までの円安が続いていたことを、「うれしい誤算」と位置付けた上で、日銀の政策姿勢が揺るがなければ「構造的な円安」が続く可能性を指摘した。ただ、植田総裁、岸田政権にそこまで期待するのは難しい、との考えでコラムを終えた。

このコラムをリリースした直後の7月11、12日に、まず通貨当局が再び大規模な円買い介入を行い、ドル円は1ドル157円付近まで円高ドル安に動いた。円安が続き日本の株高が支えられているのだが、一方で日本経済が23年半ばから全く成長していない中で、円高誘導政策は妥当とは言い難い。経済メディアが煽る「円安は深刻な問題」という空気に押されて、明確な根拠がないままに不必要な通貨高誘導策が行われたと言える。

結果的に、日本の通貨介入によって、22年以来の円安基調が転換したということになりそうだ。自ら円安という追い風を止める対応を行ったのだから、岸田政権の経済成長を重視する政策が変わった、と考えるのが自然である。経済成長と2%インフレの安定は、大幅な円安によって実現していたのであり、それ故日経平均株価は4万円台の史上最高値を更新する上昇が続いていた。ただ、マクロ安定化政策の土台が変われば、日本株の上昇も止まる。

さらに、日本銀行が追加利上げに踏み出した

岸田政権による円高誘導政策に続き、7月31日に日本銀行が追加利上げに踏み出し政策金利を0.25%に引き上げた。同時に事前の予告通りに国債購入減額も発表され、金利・量の双方において引締め政策が強まったことになる。先述したとおり、個人消費の停滞で日本経済は過去1年全く成長しておらず、インフレと賃上げの好循環が滞り、そして米国基準のコアベースのインフレ率は2%を下回る伸びまで低下している。こうした中で、日銀が追加利上げを急ぐ正当性はほとんど見当たらない。

就任直後から引締め政策に対して慎重にみえた植田総裁は、性急な利上げに踏み出さないのだろう、と筆者は期待を込めて予想していた。ただ残念ながら、利上げに反対する審議委員メンバーの反対を軽視して、植田総裁らは追加利上げに動いた。この判断を筆者は理解できないのだが、邪推ではあるが、岸田政権が円高誘導に踏み出したことをうけて、自己保身の為に植田総裁は引締め政策を強めたのではなかろうか。

植田総裁は、デフレの番人として失敗を繰り返しつつある

冒頭で紹介したが、植田総裁に大きな期待は難しい、との筆者の判断はどうやら正しかったようである。「和製バーナンキ」として黒田総裁の後継者として政策姿勢が保たれるのではないか、との筆者の期待はほぼ潰えてしまったと感じている。速水総裁時代の2000年8月の日銀のゼロ金利解除は歴史的な失敗として後世に残っているが、当時審議委員だった植田総裁は、デフレの番人として失敗を繰り返しつつあるのかもしれない。日本株下落・円高が反転するには、日本銀行の政策修正が必要だと筆者は考えている。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)


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