コリン・ジョイス
<14年ぶりに返り咲いた労働党政権は、あんなに人種やマイノリティーの問題を重視するのに近年例のないほど白人だらけ。おまけに比較的好調な英経済をひたすらこき下ろしている>
イギリスの労働党政権を直接体験するのは、僕にとって興味深い。僕は(労働党の)ブレアとブラウンの政権時代(1997~2010年)には国外に住んでいたし、その前の労働党政権時代は1979年の総選挙前までで、その年は僕はまだ9歳だった(当時、人々が「マギー」ことマーガレット・サッチャーをそれほど好きそうでもないのに、それでも彼女の党に投票すると言っているので、つまり労働党のほうが不人気だったのだろう、というのをなんとなく覚えている)。
今回の労働党政権で僕が最初に注目したのは、僕にとってはそれほど重要ではないが、労働党の政治信条にとっては明らかに重要であるはずのこと――閣僚メンバーが非常に「白い」のだ。
僕は人の肌の色よりも、その人の性格や能力、(政治家の場合は)政策のほうがはるかに興味がある。でも「多様性」はイギリスの左派の中心的原則であり、イギリス社会の至る所でもそんな雰囲気になっている。例えばテレビ番組で「有色人種」やその他のマイノリティーの出演者が少なければ、怒りと非難を浴びるだろう。
ところが労働党のウェブサイトで見たところ、党幹部に居並ぶのは22人の白人、1人の黒人、2人のアジア人(インド系とパキスタン系)という面々。これは、イギリス史上で最も人種的に多様な内閣だった、退陣前の保守党政権とは対照的だ。
リズ・トラス首相在任時の短い期間中も、首相以外のトップ3つの役職(財務相、内相、外相)は非白人だった。トラスの後継を務めたリシ・スナク首相はヒンドゥー教徒のインド系だった。そして今、彼の後任として保守党党首の座を狙う候補6人のうち3人が非白人だ。
抑圧された人々のために戦っているから問題なし?
でも、それは昔ながらのナンセンスに逆戻りのように思える。つまり、黒人・その他マイノリティーでありながら右派であるのは「れっきとした」黒人・その他マイノリティーではない、なぜなら同じバックグラウンドの仲間が当然考えていること(人種差別は今のイギリスで深刻な問題になっている、とか、「白人の特権」を終わりにしなければならない、とか)を「承認済み」の政治的立場として受け入れようとしないから、というわけだ。一方で、労働党は抑圧された人々のために善戦しているのだから、ほぼ白人で埋まった労働党政権は別に問題ではない、と。
第2に注目したいのは、財務相に就任したレイチェル・リーブスが、これまでイギリス経済をおとしめるような発言に多くのエネルギーを費やしてきているということだ。彼女は何度も何度も、破滅的なイギリス財政を引き継ぐことになったと繰り返し発言している。
彼女のシンパの1人であるコラムニストのポリー・トインビーは、前財務相の功績を「意図的な破壊行為で、国に対する反逆行為」などと例えている。
明らかに、リーブスがこんな態度を取っているのには2つの理由がある。
その1、新政府が今後できることに対する国民の期待値を下げ(こんなひどい状態からスタートするのだから!)、増税への道を切り開くため(だってほかに選択肢はないのだから)。
だがもっと重要なのは、
その2、 無謀な保守党がイギリス経済を破壊し、労働党が現在それを救済している、という物語を作り上げることだ。
これは、復讐行為である。どういうことかというと、労働党は、2010年に政権を奪われた時に保守党から同じことをされた、と受け止めているのだ。
労働党政権時代の金融危機後にイギリスの財政は悪化したが、労働党はこれは自分たちの責任ではなく、世界的な経済危機のせいだと考えていた。その修復のために、国家債務は急増した。労働党にしてみれば、債務増加は労働党政権が浪費を続けた結果だ、などというのは保守党が吹聴する作り話だというわけだ。
失業率も少なくインフレ率も落ち着いてきたのに
実際、労働党政権が2010年に下野する際に財務相を務めていたリーアム・バーン大蔵首席政務次官が、後任に向けて「残念ながらもうお金がありません」と書いたメモを(冗談で)残したことで、こんな雰囲気を醸成する戦犯になってしまった。
そのメモは、史上最悪のジョークと評されている。これのせいで、保守党の長期にわたる緊縮財政と、それによる公共福祉水準の低下が「正当化」されてしまったと非難する人もいる。
前保守党政権に対してリーブスが攻撃姿勢を見せることの問題点は、投資家の信頼を損なうリスクを冒して党派政治を行っているように見えることだ。
イギリスはG7の中で最も急速に経済成長しているし、失業率は非常に低く、インフレ率は目標の2%に戻し、ポンドが1ポンド=1ドルにまで下落するのは「時間の問題だ」とまで言われていた頃から劇的に持ち直し(現在は1ポンド=1ドルよりは1.3ドルに近付いている)、住宅ローン金利は低下し、住宅価格の伸びは回復し、これらすべてが消費を促進し、経済成長を後押しし......という状況だ。にもかかわらずリーブスは、世界に向けて、イギリス経済が瀕死の状態だと訴えたがっているかのようだ。
<14年ぶりに返り咲いた労働党政権は、あんなに人種やマイノリティーの問題を重視するのに近年例のないほど白人だらけ。おまけに比較的好調な英経済をひたすらこき下ろしている>
イギリスの労働党政権を直接体験するのは、僕にとって興味深い。僕は(労働党の)ブレアとブラウンの政権時代(1997~2010年)には国外に住んでいたし、その前の労働党政権時代は1979年の総選挙前までで、その年は僕はまだ9歳だった(当時、人々が「マギー」ことマーガレット・サッチャーをそれほど好きそうでもないのに、それでも彼女の党に投票すると言っているので、つまり労働党のほうが不人気だったのだろう、というのをなんとなく覚えている)。
今回の労働党政権で僕が最初に注目したのは、僕にとってはそれほど重要ではないが、労働党の政治信条にとっては明らかに重要であるはずのこと――閣僚メンバーが非常に「白い」のだ。
僕は人の肌の色よりも、その人の性格や能力、(政治家の場合は)政策のほうがはるかに興味がある。でも「多様性」はイギリスの左派の中心的原則であり、イギリス社会の至る所でもそんな雰囲気になっている。例えばテレビ番組で「有色人種」やその他のマイノリティーの出演者が少なければ、怒りと非難を浴びるだろう。
ところが労働党のウェブサイトで見たところ、党幹部に居並ぶのは22人の白人、1人の黒人、2人のアジア人(インド系とパキスタン系)という面々。これは、イギリス史上で最も人種的に多様な内閣だった、退陣前の保守党政権とは対照的だ。
リズ・トラス首相在任時の短い期間中も、首相以外のトップ3つの役職(財務相、内相、外相)は非白人だった。トラスの後継を務めたリシ・スナク首相はヒンドゥー教徒のインド系だった。そして今、彼の後任として保守党党首の座を狙う候補6人のうち3人が非白人だ。
抑圧された人々のために戦っているから問題なし?
でも、それは昔ながらのナンセンスに逆戻りのように思える。つまり、黒人・その他マイノリティーでありながら右派であるのは「れっきとした」黒人・その他マイノリティーではない、なぜなら同じバックグラウンドの仲間が当然考えていること(人種差別は今のイギリスで深刻な問題になっている、とか、「白人の特権」を終わりにしなければならない、とか)を「承認済み」の政治的立場として受け入れようとしないから、というわけだ。一方で、労働党は抑圧された人々のために善戦しているのだから、ほぼ白人で埋まった労働党政権は別に問題ではない、と。
第2に注目したいのは、財務相に就任したレイチェル・リーブスが、これまでイギリス経済をおとしめるような発言に多くのエネルギーを費やしてきているということだ。彼女は何度も何度も、破滅的なイギリス財政を引き継ぐことになったと繰り返し発言している。
彼女のシンパの1人であるコラムニストのポリー・トインビーは、前財務相の功績を「意図的な破壊行為で、国に対する反逆行為」などと例えている。
明らかに、リーブスがこんな態度を取っているのには2つの理由がある。
その1、新政府が今後できることに対する国民の期待値を下げ(こんなひどい状態からスタートするのだから!)、増税への道を切り開くため(だってほかに選択肢はないのだから)。
だがもっと重要なのは、
その2、 無謀な保守党がイギリス経済を破壊し、労働党が現在それを救済している、という物語を作り上げることだ。
これは、復讐行為である。どういうことかというと、労働党は、2010年に政権を奪われた時に保守党から同じことをされた、と受け止めているのだ。
労働党政権時代の金融危機後にイギリスの財政は悪化したが、労働党はこれは自分たちの責任ではなく、世界的な経済危機のせいだと考えていた。その修復のために、国家債務は急増した。労働党にしてみれば、債務増加は労働党政権が浪費を続けた結果だ、などというのは保守党が吹聴する作り話だというわけだ。
失業率も少なくインフレ率も落ち着いてきたのに
実際、労働党政権が2010年に下野する際に財務相を務めていたリーアム・バーン大蔵首席政務次官が、後任に向けて「残念ながらもうお金がありません」と書いたメモを(冗談で)残したことで、こんな雰囲気を醸成する戦犯になってしまった。
そのメモは、史上最悪のジョークと評されている。これのせいで、保守党の長期にわたる緊縮財政と、それによる公共福祉水準の低下が「正当化」されてしまったと非難する人もいる。
前保守党政権に対してリーブスが攻撃姿勢を見せることの問題点は、投資家の信頼を損なうリスクを冒して党派政治を行っているように見えることだ。
イギリスはG7の中で最も急速に経済成長しているし、失業率は非常に低く、インフレ率は目標の2%に戻し、ポンドが1ポンド=1ドルにまで下落するのは「時間の問題だ」とまで言われていた頃から劇的に持ち直し(現在は1ポンド=1ドルよりは1.3ドルに近付いている)、住宅ローン金利は低下し、住宅価格の伸びは回復し、これらすべてが消費を促進し、経済成長を後押しし......という状況だ。にもかかわらずリーブスは、世界に向けて、イギリス経済が瀕死の状態だと訴えたがっているかのようだ。