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株価乱高下でも平常心を保つヒント。損切りとパニック売りの違い、プロスペクト理論、参照点依存性...

ニューズウィーク日本版 2024年8月7日 10時45分

山下耕太郎 ※かぶまどより転載
<8月5日に4451円と過去最大の下落、6日には一転して3217円と過去最大の上昇を記録した日経平均。投資におけるメンタルの重要性を改めて知った人も多いかもしれない>

株式投資においては、ファンダメンタルズやテクニカル分析といった専門知識と同じくらい、メンタルのコンディションが重要です。どんなに知識が豊富で経験を十分に積んだ投資家でも、〇〇ショックといった暴落のときに冷静な判断ができずに市場から退出してしまうこともあるのです。

投資で失敗しないためには、「投資心理学」を学んでおくことも大切です。私は、平常心を保つために「瞑想(メディテーション)」を取り入れています。

プロスペクト理論とは

人には損失を避けようとする傾向があり、状況に応じて判断が変わる、という意思決定の理論を「プロスペクト理論」と言います。プロスペクト理論によれば、人は不確実な状況であっても「見込み」で期待を歪め、客観的な事実だけで合理的な意思決定をすることができなくなります。

プロスペクト理論は行動経済学の一部であり、心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって提唱されました。彼らの業績は行動経済学の基礎を築き、その功績から2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。

ナンピン買いの弊害

このプロスペクト理論の中心をなす考えが「損失回避性」です。これは、同じ金額でも損失の苦痛は利益の喜びの2倍になる、という考えです。

損失回避性の代表が「ナンピン買い」です。ナンピン買いとは、株価下落時に追加投資を行い、平均取得コストを下げることです。ナンピン買いによって、元の購入価格に戻った場合には利益を得ることができます。ナンピン買いは、相場全体が悪化している場合には効果的な手段となることもあります。

ただし、企業の業績悪化など個別の要因による株価下落の場合には、ナンピン買いを行ってもリスクを増大させるだけです。そうであったとしても、損失の苦痛を和らげるためにナンピン買いをしてしまう投資家が多いのです。

さらにナンピン買いでは、「参照点依存性」という心理的な要素も影響します。投資家は、絶対値ではなく購入価格(=参照点)からの変化に基づいて判断する傾向があるからです。本来ならば、企業の業績などをもとに株価が割安かどうかを判断すべきでしょう。

しかし、購入価格が参照点となって、その価格からの下落があれば「割安」と判断してナンピン買いを行ってしまう傾向があるのです。

(参考記事)株価はどこまで下がるのか? 「節目」がわかれば暴落だって怖くない!

損切りと狼狽売りの違い

初心者は損切り(ロスカット)が苦手だとよくいわれます。損失が出てもそのまま保有し、株価が戻るのを待つ傾向があるからです。しかし、損失を確定してでも売るべきタイミングを見極めることが投資判断の鍵です。だからこそ、初心者は損切りをためらわないようにアドバイスされるのです。

ただ、損切りはパニック売り(狼狽売り)とは異なることを理解することも重要です。冷静に考え、売るべきと判断したら、損失を恐れて保有し続けるべきではありません。

ただしこれは、株価が急落した場合に即座に売却すべきということではありません。全体的な市場の動向を考慮しながら判断する必要があります。

損切りとパニック売りを区別することは容易ではありません。市場全体が下落トレンドの場合は、パニック売りを避けて待つほうがいいですが、個別銘柄が大幅に下落した場合は損切りするほうがいいことが多いからです。

市場の感情は楽観的と悲観的の間で変動するため、冷静さを保ちながらじっくり待つことが重要です。一方で、個別銘柄が急落した場合は回復が速くないことが多いため、戻りを期待するのは難しくなるのです。

まずは、損切りラインを決めておくようにすることが大切です。損切りラインに達したら必ず注文を出す!と事前に決めておけば、パニック売りを避けられる確率は上がるでしょう。

平常心を保つための瞑想

パニック売りを避けるためには、きちんと損切りルールを決めておくことが大切です。ただ、それよりも重要なのは「決めたルール」をきちんと守ることです。パニック売りをしないためには平常心が大切で、そのために瞑想を取り入れる投資家が増えているのです。

代表がレイ・ダリオ氏です。世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツを設立したダリオ氏は、1日2回、20分ずつ瞑想をしているそうです。ダリオ氏が行っているのはTM瞑想というもので、ストレスや不安、うつ病を軽減させるという研究結果も出ています。

ダリオ氏が瞑想を実践していることは、ウォール街でも広く知られています。マーケットで取引が行われている時間帯でも、仕事を中断して瞑想することもあるそうです。そうすることでストレスが軽減され、リフレッシュした状態が1日続くと述べています。

瞑想を実践する投資家が増えているのは、心をリラックスさせることで新しいアイデアが出て、創造性が生まれることを期待できるからです。それとともに、マーケットの動きに一喜一憂することなく、冷静に取引できるようにもなります。

瞑想は、グーグルやアップルといった大手企業も導入しており、日本でもヤフーやメルカリといった企業での導入例も増えています。ストレス軽減や集中力向上といった効果が認められているので、冷静な取引をするために取り入れてみてはいかがでしょうか。

瞑想はちょっとハードルが高ければ、目を閉じて深呼吸するだけでも、だいぶ心は落ち着きます。とにかく常に冷静な状態で、落ち着いて投資判断を下すことが大切です。

(参考記事)株価急落で「狼狽売り」をしないために初心者が絶対にやるべきこと

[執筆者]
山下耕太郎(やました・こうたろう)
一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011  先物オプション奮闘日誌

※当記事は「かぶまど」の提供記事です





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