猿渡由紀(ロサンゼルス在住映画ジャーナリスト) for WOMAN
<『37セカンズ』で長編映画監督デビュー後、Maxのドラマ『TOKYO VICE』やネットフリックスの『BEEF/ビーフ~逆上~』でも監督を務めるHIKARI。多彩な挑戦を続ける彼女が「日本の若者」に送るアドバイスは──(インタビュー)>
『ザ・ホエール』で華やかにキャリアを復活させたブレンダン・フレイザーの次の出演作は? アカデミー賞主演男優賞受賞でハリウッド中の注目を集めるなか、彼が選んだのは日本人女性のHIKARIが監督と脚本を手がけ、日本で撮影する『レンタル・ファミリー』だった。
「本当に嬉しかったです」と、HIKARIは快活に笑う。
「2022年末に、BAFTA(英映画・テレビ芸術アカデミー)向けの試写で『ザ・ホエール』を見たんです。上映後にQ&Aがあったんですが、ブレンダンはコロナにかかっちゃったらしくリモートでの参加になり、大画面に彼の顔が映し出されて。その時に『この人だ!』と思った。アジアでロケというと難色を示す俳優さんもいるなか、『問題ない』と言ってくれて、『よし!』と思ったら契約に2カ月かかり、俳優のストライキが始まってしまい、結局1年が無駄になりました。でも、80本も来たという脚本の中からこれを選んでくれたんですからね。奇跡です」
大阪出身、本名は宮崎光代。
「ミツヨという名前は、日本人以外の人にとってすごく発音しにくいんです。宮崎という名字も、『宮﨑駿の娘さんですか』と言われたりするし(笑)。それに言霊のエネルギーみたいなものがあると思うんですよね。光というのはポジティブな言葉じゃないですか。私が光ですと名乗り、相手が私を光と呼んでくれることで、自分にも相手にもエネルギーが降りてくるならばと。実際、名前を変えてから2週間くらいでいろいろなことが立て続けに起こりました」
アメリカには、交換留学生として高校生の時に渡った。「英語を話せれば何億人もの人たちと友達になれる」というポスターを見たのがきっかけ。留学先はユタ州で、その後進学した南ユタ州立大学では、芝居やダンスに夢中になった。
「最初はニューヨークに行きたかったけれど、ユタ州からはロサンゼルスのほうが近いのでこっちに。20代はミュージックビデオやテレビ、お芝居のオーディションを受けて過ごしました。一時期たくさん仕事が来て、コマーシャルやジョージ・マイケルのミュージックビデオに出たりもしたんですが、20代後半で急にオーディションの数が一気に減って、これはまずい、どうしようかと」
それまでも合間にカメラマンの仕事をこなしていたことから、南カリフォルニア大学(USC)のフィルムスクールに入学することを決意。
「何度か仕事をした監督がカメラのオペレートもする方で、彼みたいになりたいという思いもありました。映画作りなんて全然知らなかったし、まずはカメラマンを目指そうと。もちろん監督もやってみたいから、両方学ぶためUSCに行こうと思いました」
3話の監督を担当した『BEEF』も高い評価を得た ANDREW COOPER/NETFLIX
次作も新たなジャンルへ
長編映画監督デビュー作は、19年の『37セカンズ』。舞台は東京で、主人公ユマは障害があり、車椅子で生活する20代前半の女性。
漫画を描くのが得意なユマは、アダルトコミックの編集部に作品を持ち込むが、自身に体験がないことをすぐに見抜かれてしまう。そこから冒険に出た彼女は、新たな人たちと出会い、少しずつ自分を見つけていく。主演はオーディションで発見した、実際に障害がある佳山明。
「アメリカは障害がある人たちにそう悲観的ではないけれど、日本にはおもてなしの文化があり、優しい人たちがいる一方で、自分の知らない世界には立ち入らない、分からない人は助けないという雰囲気があるじゃないですか。これは世界に通じる話だけれど、日本に対するメッセージとも考え、日本で撮影しようと思ったんです。でも難しかったですよ。アイドル(を主役にする)ならお金を出すとも言われましたが、それは絶対にやりたくなかった。オーディションの結果、良い人が見つからなかったら女優さんを探すとしても、しっかりお芝居ができる人しかこの役は難しいですし。幸い明ちゃんに出会え、NHKがテレビ放映権を買ってくれることに。脚本で主人公は下半身不随の女性でしたが、明ちゃんは脳性麻痺なので書き直しました」
この映画は19年のベルリン国際映画祭で、パノラマ部門の観客賞を受賞した。その後、アンセル・エルゴート、渡辺謙が出演するMaxのドラマ『TOKYO VICE』で2話を監督。
第1話を含む3話の監督をオファーされた23年のネットフリックスドラマ『BEEF/ビーフ~逆上~』も、エミー賞を含む多数のアワードで複数部門を制覇するなど高い評価を受けた。
『TOKYO VICE』は犯罪スリラー、『BEEF』はコメディーとまるで違うタイプの作品だ。『レンタル・ファミリー』の次は、これまた新たなジャンルの作品が決まっている。
「1つは、私自身がユタ州に高校留学した時の体験にインスピレーションを得た『Made in Utah』というテレビシリーズ。これはドラマディー(笑いの要素もあるドラマ)ですね。もう1つは『Dan and Sam』というタイトルの長編映画。幽霊が関係するラブストーリーで、いま脚本を書いてもらっているところ。やってみたいことは、本当にいっぱいあります。やったことがないからやってみたいという、好奇心かな。それに、いろんな人といろんな環境で仕事をしていくことで、監督として学べることもあるだろうと思うし」
円安、賃金安が続き、海外に目を向ける日本の若者も多い。国際的に活躍する彼女が彼らに送るアドバイスは──。
「まずは選挙に行きましょう。自分たちの将来を変えるために。その上で海外に出たいなら、具体的に何がしたくて、なぜその国が良いのかを考えて。今はワーキングホリデー制度が充実していて、昔よりもいろいろな国に行けます。ワーホリでイギリスやカナダの映画の現場に入れるかも。世界を見て、その結果、やはり日本がいいなと思えば帰ってくればいい。1年なんて、人生では一瞬ですからね」
<『37セカンズ』で長編映画監督デビュー後、Maxのドラマ『TOKYO VICE』やネットフリックスの『BEEF/ビーフ~逆上~』でも監督を務めるHIKARI。多彩な挑戦を続ける彼女が「日本の若者」に送るアドバイスは──(インタビュー)>
『ザ・ホエール』で華やかにキャリアを復活させたブレンダン・フレイザーの次の出演作は? アカデミー賞主演男優賞受賞でハリウッド中の注目を集めるなか、彼が選んだのは日本人女性のHIKARIが監督と脚本を手がけ、日本で撮影する『レンタル・ファミリー』だった。
「本当に嬉しかったです」と、HIKARIは快活に笑う。
「2022年末に、BAFTA(英映画・テレビ芸術アカデミー)向けの試写で『ザ・ホエール』を見たんです。上映後にQ&Aがあったんですが、ブレンダンはコロナにかかっちゃったらしくリモートでの参加になり、大画面に彼の顔が映し出されて。その時に『この人だ!』と思った。アジアでロケというと難色を示す俳優さんもいるなか、『問題ない』と言ってくれて、『よし!』と思ったら契約に2カ月かかり、俳優のストライキが始まってしまい、結局1年が無駄になりました。でも、80本も来たという脚本の中からこれを選んでくれたんですからね。奇跡です」
大阪出身、本名は宮崎光代。
「ミツヨという名前は、日本人以外の人にとってすごく発音しにくいんです。宮崎という名字も、『宮﨑駿の娘さんですか』と言われたりするし(笑)。それに言霊のエネルギーみたいなものがあると思うんですよね。光というのはポジティブな言葉じゃないですか。私が光ですと名乗り、相手が私を光と呼んでくれることで、自分にも相手にもエネルギーが降りてくるならばと。実際、名前を変えてから2週間くらいでいろいろなことが立て続けに起こりました」
アメリカには、交換留学生として高校生の時に渡った。「英語を話せれば何億人もの人たちと友達になれる」というポスターを見たのがきっかけ。留学先はユタ州で、その後進学した南ユタ州立大学では、芝居やダンスに夢中になった。
「最初はニューヨークに行きたかったけれど、ユタ州からはロサンゼルスのほうが近いのでこっちに。20代はミュージックビデオやテレビ、お芝居のオーディションを受けて過ごしました。一時期たくさん仕事が来て、コマーシャルやジョージ・マイケルのミュージックビデオに出たりもしたんですが、20代後半で急にオーディションの数が一気に減って、これはまずい、どうしようかと」
それまでも合間にカメラマンの仕事をこなしていたことから、南カリフォルニア大学(USC)のフィルムスクールに入学することを決意。
「何度か仕事をした監督がカメラのオペレートもする方で、彼みたいになりたいという思いもありました。映画作りなんて全然知らなかったし、まずはカメラマンを目指そうと。もちろん監督もやってみたいから、両方学ぶためUSCに行こうと思いました」
3話の監督を担当した『BEEF』も高い評価を得た ANDREW COOPER/NETFLIX
次作も新たなジャンルへ
長編映画監督デビュー作は、19年の『37セカンズ』。舞台は東京で、主人公ユマは障害があり、車椅子で生活する20代前半の女性。
漫画を描くのが得意なユマは、アダルトコミックの編集部に作品を持ち込むが、自身に体験がないことをすぐに見抜かれてしまう。そこから冒険に出た彼女は、新たな人たちと出会い、少しずつ自分を見つけていく。主演はオーディションで発見した、実際に障害がある佳山明。
「アメリカは障害がある人たちにそう悲観的ではないけれど、日本にはおもてなしの文化があり、優しい人たちがいる一方で、自分の知らない世界には立ち入らない、分からない人は助けないという雰囲気があるじゃないですか。これは世界に通じる話だけれど、日本に対するメッセージとも考え、日本で撮影しようと思ったんです。でも難しかったですよ。アイドル(を主役にする)ならお金を出すとも言われましたが、それは絶対にやりたくなかった。オーディションの結果、良い人が見つからなかったら女優さんを探すとしても、しっかりお芝居ができる人しかこの役は難しいですし。幸い明ちゃんに出会え、NHKがテレビ放映権を買ってくれることに。脚本で主人公は下半身不随の女性でしたが、明ちゃんは脳性麻痺なので書き直しました」
この映画は19年のベルリン国際映画祭で、パノラマ部門の観客賞を受賞した。その後、アンセル・エルゴート、渡辺謙が出演するMaxのドラマ『TOKYO VICE』で2話を監督。
第1話を含む3話の監督をオファーされた23年のネットフリックスドラマ『BEEF/ビーフ~逆上~』も、エミー賞を含む多数のアワードで複数部門を制覇するなど高い評価を受けた。
『TOKYO VICE』は犯罪スリラー、『BEEF』はコメディーとまるで違うタイプの作品だ。『レンタル・ファミリー』の次は、これまた新たなジャンルの作品が決まっている。
「1つは、私自身がユタ州に高校留学した時の体験にインスピレーションを得た『Made in Utah』というテレビシリーズ。これはドラマディー(笑いの要素もあるドラマ)ですね。もう1つは『Dan and Sam』というタイトルの長編映画。幽霊が関係するラブストーリーで、いま脚本を書いてもらっているところ。やってみたいことは、本当にいっぱいあります。やったことがないからやってみたいという、好奇心かな。それに、いろんな人といろんな環境で仕事をしていくことで、監督として学べることもあるだろうと思うし」
円安、賃金安が続き、海外に目を向ける日本の若者も多い。国際的に活躍する彼女が彼らに送るアドバイスは──。
「まずは選挙に行きましょう。自分たちの将来を変えるために。その上で海外に出たいなら、具体的に何がしたくて、なぜその国が良いのかを考えて。今はワーキングホリデー制度が充実していて、昔よりもいろいろな国に行けます。ワーホリでイギリスやカナダの映画の現場に入れるかも。世界を見て、その結果、やはり日本がいいなと思えば帰ってくればいい。1年なんて、人生では一瞬ですからね」