木村正人
<最悪のシナリオでは「26年度には8割以上の大学が赤字となり、4分の3近くが資金繰りに行き詰まる」との指摘も>
[ロンドン発]留学生の3人に1人が利用するオンライン・プラットフォーム、Enrolyによると、英国の大学への入学予約は昨年8月に比べ35%も減少している。英紙フィナンシャル・タイムズ(8月14日)が伝えている。留学生頼みの英国の大学経営は危機に直面する恐れがある。
それによると、1年前に比べ減ったのはナイジェリア65%減、ガーナ53%減、インド44%減、スリランカ41%減、バングラデシュ34%減。一方、増えたのはネパール37%増、ケニア42%増。5月時点では1年前との比較で57%も減少していた。
移民に寛容な労働党政権の誕生で少しは改善に向かっているようだ。
欧州連合(EU)離脱を主導した保守党政権のおかげで、英国で学ぶEU圏の留学生は2019年度の約14万3000人から21年度には約2万3000人に急減。留学ビザの要件が厳しくなった上、大学授業料が「外国人枠」になってハネ上がり、学生ローンも使えなくなったためだ。
長州五傑は1人1年1000両
歓迎されるならまだしも、露骨に嫌な顔をされてまで馬鹿高い授業料を払って英国にやってくる留学生はいない。「円弱」日本からの修士留学生に尋ねると、授業料と生活費を合わせて1年に1000万円はかかるそうだ。新時代を開いた長州五傑の1人1年1000両という話を思い出す。
移民を減らすため保守党は陰険な本性をさらけ出した。留学生による扶養家族の帯同は制限され、修了後2~3年間は英国で働けるビザの廃止・縮小が懸念されていた。ブリジット・フィリップソン教育相は「留学生を歓迎したい」と前保守党政権の後ろ向きレトリックを批判する。
高等教育の監督機関、学生局は5月「高等教育セクターの財政への圧力が高まっている。学生の増加について楽観的に考えすぎないよう」大学に注意喚起する報告書を出している。学生局は再建プログラムを担当する企業に最高400万ポンド(約7億5600万円)の契約を募っている。
高等教育機関が直面する財政的課題は大きくなる
英国の高等教育機関は22~26年度にかけ留学生35%、英国人学生24%の入学者増を見込む。しかし学部学生の入学申請や留学ビザの最新データによると、今年、留学生数の大幅な減少を含め、全体的に入学者数は減っている。
22年度の財務状況は悪化した。26年度以降は改善を見込むものの、追加収入の多くは英国人学生と留学生の増加が織り込まれている。留学生を大幅に増加させることができるかどうかは不透明であるため、高等教育機関が直面する実際の財政的課題は大きくなる。
学生局の報告書は高等教育機関が直面する5つの主要リスクを挙げている。
(1)英国人の学部学生からの実質的な収入の継続的な減少と、運営費に対するインフレと経済的圧力
(2)出願が好調に伸びてきたにもかかわらず、英国人学生、特に留学生の出願が最近明らかに減少している
(3)留学生の授業料収入に依存した財政モデル。特に1カ国からの留学生頼みになっている大学は危うい
(4)必要な校舎の維持・新築にかかる費用と、ネットゼロ達成に向けたコミットメントの一環として二酸化炭素排出量を削減するために必要な多額の投資費用
(5)学生や教職員の生活費の問題は学生募集と在学中に学生が必要とするサポートの両面で課題となる
楽観主義バイアスからの脱却が急務
学生局のスーザン・ラップワース最高責任者は「多くの大学は財務管理を徹底している。しかし大学セクター全体の状況はますます厳しくなっている。倒産の重大なリスクを避けるため、資金調達モデルを大幅に変更しなければならない大学が増えている」と警鐘を鳴らす。
「成長できる大学もあるだろう。しかし全体が成長しない場合、26年度には3分の2近くの大学が赤字に転落、4割は年度末に資金繰りに窮する。最悪シナリオでは8割以上が赤字となり、4分の3近くが資金繰りに行き詰まる」と楽観主義バイアスからの脱却を呼びかける。
1997年まで英国とEU域内の学生の授業料は無償だった。98年から年間1000ポンドに有償化され、2006年に上限3000ポンド、12年にさらに9000ポンドと3倍に引き上げられた(17年から9250ポンド)。「外国人枠」の留学生の授業料は馬鹿高い。
一般的に1万~3万8000ポンドで、医学分野では5万8600ポンドに達することも。経営学修士(MBA)は2万~4万5000ポンドが相場。これだけ払わされて家族帯同や修了後の就労ビザで嫌がらせをされてはかなわない。さらに英国では反移民暴動が吹き荒れる。
留学生頼みのハイリスク・ハイリターンの英国流大学経営モデルはグローバリゼーションの逆回転で重大な転機を迎えている。
<最悪のシナリオでは「26年度には8割以上の大学が赤字となり、4分の3近くが資金繰りに行き詰まる」との指摘も>
[ロンドン発]留学生の3人に1人が利用するオンライン・プラットフォーム、Enrolyによると、英国の大学への入学予約は昨年8月に比べ35%も減少している。英紙フィナンシャル・タイムズ(8月14日)が伝えている。留学生頼みの英国の大学経営は危機に直面する恐れがある。
それによると、1年前に比べ減ったのはナイジェリア65%減、ガーナ53%減、インド44%減、スリランカ41%減、バングラデシュ34%減。一方、増えたのはネパール37%増、ケニア42%増。5月時点では1年前との比較で57%も減少していた。
移民に寛容な労働党政権の誕生で少しは改善に向かっているようだ。
欧州連合(EU)離脱を主導した保守党政権のおかげで、英国で学ぶEU圏の留学生は2019年度の約14万3000人から21年度には約2万3000人に急減。留学ビザの要件が厳しくなった上、大学授業料が「外国人枠」になってハネ上がり、学生ローンも使えなくなったためだ。
長州五傑は1人1年1000両
歓迎されるならまだしも、露骨に嫌な顔をされてまで馬鹿高い授業料を払って英国にやってくる留学生はいない。「円弱」日本からの修士留学生に尋ねると、授業料と生活費を合わせて1年に1000万円はかかるそうだ。新時代を開いた長州五傑の1人1年1000両という話を思い出す。
移民を減らすため保守党は陰険な本性をさらけ出した。留学生による扶養家族の帯同は制限され、修了後2~3年間は英国で働けるビザの廃止・縮小が懸念されていた。ブリジット・フィリップソン教育相は「留学生を歓迎したい」と前保守党政権の後ろ向きレトリックを批判する。
高等教育の監督機関、学生局は5月「高等教育セクターの財政への圧力が高まっている。学生の増加について楽観的に考えすぎないよう」大学に注意喚起する報告書を出している。学生局は再建プログラムを担当する企業に最高400万ポンド(約7億5600万円)の契約を募っている。
高等教育機関が直面する財政的課題は大きくなる
英国の高等教育機関は22~26年度にかけ留学生35%、英国人学生24%の入学者増を見込む。しかし学部学生の入学申請や留学ビザの最新データによると、今年、留学生数の大幅な減少を含め、全体的に入学者数は減っている。
22年度の財務状況は悪化した。26年度以降は改善を見込むものの、追加収入の多くは英国人学生と留学生の増加が織り込まれている。留学生を大幅に増加させることができるかどうかは不透明であるため、高等教育機関が直面する実際の財政的課題は大きくなる。
学生局の報告書は高等教育機関が直面する5つの主要リスクを挙げている。
(1)英国人の学部学生からの実質的な収入の継続的な減少と、運営費に対するインフレと経済的圧力
(2)出願が好調に伸びてきたにもかかわらず、英国人学生、特に留学生の出願が最近明らかに減少している
(3)留学生の授業料収入に依存した財政モデル。特に1カ国からの留学生頼みになっている大学は危うい
(4)必要な校舎の維持・新築にかかる費用と、ネットゼロ達成に向けたコミットメントの一環として二酸化炭素排出量を削減するために必要な多額の投資費用
(5)学生や教職員の生活費の問題は学生募集と在学中に学生が必要とするサポートの両面で課題となる
楽観主義バイアスからの脱却が急務
学生局のスーザン・ラップワース最高責任者は「多くの大学は財務管理を徹底している。しかし大学セクター全体の状況はますます厳しくなっている。倒産の重大なリスクを避けるため、資金調達モデルを大幅に変更しなければならない大学が増えている」と警鐘を鳴らす。
「成長できる大学もあるだろう。しかし全体が成長しない場合、26年度には3分の2近くの大学が赤字に転落、4割は年度末に資金繰りに窮する。最悪シナリオでは8割以上が赤字となり、4分の3近くが資金繰りに行き詰まる」と楽観主義バイアスからの脱却を呼びかける。
1997年まで英国とEU域内の学生の授業料は無償だった。98年から年間1000ポンドに有償化され、2006年に上限3000ポンド、12年にさらに9000ポンドと3倍に引き上げられた(17年から9250ポンド)。「外国人枠」の留学生の授業料は馬鹿高い。
一般的に1万~3万8000ポンドで、医学分野では5万8600ポンドに達することも。経営学修士(MBA)は2万~4万5000ポンドが相場。これだけ払わされて家族帯同や修了後の就労ビザで嫌がらせをされてはかなわない。さらに英国では反移民暴動が吹き荒れる。
留学生頼みのハイリスク・ハイリターンの英国流大学経営モデルはグローバリゼーションの逆回転で重大な転機を迎えている。