ジェス・トムソン(本誌科学担当)
<調理済みで加工度の高いジャンクフードは手軽だが、大量摂取すれば鬱病のリスクは1.5倍にという研究結果も>
ツイてない日はポテトチップスをやけ食い──。そんな人は気を付けたほうがいい。スナック菓子やファストフードなど加工度の高い「超加工食品(UPF)」はおいしくて手軽だが高カロリーで、研究によれば鬱病のリスクを上昇させる恐れもあるという。
米マサチューセッツ総合病院の医師でハーバード大学医学大学院教授のアンドリュー・チャンらはUPFが鬱病のリスクの上昇に関係していることを突き止め、2023年9月20日付で米国医師会のオンラインジャーナル、JAMAネットワーク・オープンに発表した。
「食生活が鬱病のリスクに大きく影響することは先行研究で裏付けられてきたが、具体的に食生活のどの要素が関係するかを示すデータはほとんどない。そこで私たちは、UPFが鬱病のリスクに影響するか否かを評価する包括的調査を実施した」と、チャンは本誌に語る。
研究では03~17年、調査開始時点で42~62歳の女性3万1712人を対象に4年ごとに食生活についてのアンケート調査を実施。医師による診断と抗鬱剤常用の両方が条件の狭義の鬱病と、どちらか一方を条件とする広義の鬱病の2通りについて、食生活の複数の要素と比較した。
その結果、UPF摂取量が最も多いグループは最も少ないグループの1.5倍、鬱病になりやすかった。特に人工甘味料や人工甘味料入りの飲料などは鬱病のリスクを上昇させることが分かったという。
「動物についてはこれまでの研究で甘味料と鬱病の関係が示唆されてきた。私たちの研究は人間の場合も同じである可能性をいち早く示唆するものだ」とチャンは言う。「人工甘味料は気分に影響する脳内の神経伝達経路を作動させるのかもしれない」
動物の研究では、プリン体が神経伝達物質として作用していた。プリン体は一部の食品に含まれる天然成分で痛風の原因として知られる。
「人工甘味料が鬱病にどう関係しているかについては、さまざまな可能性が考えられる」と英ハートフォードシャー大学の栄養生化学者リチャード・ホフマンは言う。
「神経伝達物質としてのプリン体の役割に関する情報はあまりない。だがUPFを大量に摂取する人は栄養不足になりがちだ。つまりUPFの多い食生活では特定の栄養が不足し、その結果、鬱病の発症リスクが上昇していた。例えばビタミンB12や葉酸やオメガ3脂肪酸(EPAやDHAなど)の不足は全て鬱病のリスク上昇に関連する」ホフマンによれば、もう1つの可能性は炎症だ。UPFの少ない健康的な食生活は抗炎症作用が強く、鬱病のリスク低下と関連付けられてきた。
ストレス発散のために
こうした発見は、加工度が最小限の食品が実際に鬱病のリスクを低下させるという先行研究の結果を補完する。「野菜、果物、ナッツ類、シード類、豆類などが豊富な地中海式食生活は鬱病のリスクを下げることが分かっている」と、英アストンメディカルスクールのドゥエイン・メラー上級講師(エビデンスに基づく医療・栄養学)は言う。
イギリス在住の双子の姉妹エイミー・キングストンとナンシーは昨年、英キングス・カレッジ・ロンドンの実験に参加。2週間にわたって、カロリーは同じだがエイミーはUPFだけの食事を、ナンシーはUPFを一切含まない食事を続けた結果、エイミーのほうが空腹感・疲労感がはるかに強く、体重も増えた。
一部の専門家は、UPFと鬱病の相関関係は、鬱病患者が人工甘味料入り飲料などのUPFを好むせいではないかと示唆している。
「こうした飲料が鬱病のリスクを上昇させる可能性はあるが、逆に鬱病のせいで甘味料入りの飲料を好むようになる可能性のほうが高い。従って、これらの食品が気分の落ち込みや精神的不調のリスクを増すのか、それとも精神的不調が食品の選択に影響するのかは不明だ」とメラーは言う。
一方、チャンは次のように主張する。「私たちは対象者の食生活を鬱病発症の何年も前から追跡調査しているので、鬱病のせいで超加工食品を口にした結果、相関関係が示された可能性は低いと思う」
それでもUPFで一時的にストレス発散できるから食べるという人もいるだろう。
「実際、UPFはストレス発散のために摂取されがちで、一部はオルダス・ハクスリーのディストピア小説『すばらしい新世界』に出てくるソーマと同じではないかと思う。つまり副作用ゼロで強い幸福感をもたらすドラッグだ」とホフマンは言う。
チャンらも論文で自分たちの研究の限界に言及している。「対象は白人女性が中心だった。本人の自己申告のみなので判別ミスの可能性もある」
それでも、加工度の低い食品を選択するのが賢いとは言えそうだ。
<調理済みで加工度の高いジャンクフードは手軽だが、大量摂取すれば鬱病のリスクは1.5倍にという研究結果も>
ツイてない日はポテトチップスをやけ食い──。そんな人は気を付けたほうがいい。スナック菓子やファストフードなど加工度の高い「超加工食品(UPF)」はおいしくて手軽だが高カロリーで、研究によれば鬱病のリスクを上昇させる恐れもあるという。
米マサチューセッツ総合病院の医師でハーバード大学医学大学院教授のアンドリュー・チャンらはUPFが鬱病のリスクの上昇に関係していることを突き止め、2023年9月20日付で米国医師会のオンラインジャーナル、JAMAネットワーク・オープンに発表した。
「食生活が鬱病のリスクに大きく影響することは先行研究で裏付けられてきたが、具体的に食生活のどの要素が関係するかを示すデータはほとんどない。そこで私たちは、UPFが鬱病のリスクに影響するか否かを評価する包括的調査を実施した」と、チャンは本誌に語る。
研究では03~17年、調査開始時点で42~62歳の女性3万1712人を対象に4年ごとに食生活についてのアンケート調査を実施。医師による診断と抗鬱剤常用の両方が条件の狭義の鬱病と、どちらか一方を条件とする広義の鬱病の2通りについて、食生活の複数の要素と比較した。
その結果、UPF摂取量が最も多いグループは最も少ないグループの1.5倍、鬱病になりやすかった。特に人工甘味料や人工甘味料入りの飲料などは鬱病のリスクを上昇させることが分かったという。
「動物についてはこれまでの研究で甘味料と鬱病の関係が示唆されてきた。私たちの研究は人間の場合も同じである可能性をいち早く示唆するものだ」とチャンは言う。「人工甘味料は気分に影響する脳内の神経伝達経路を作動させるのかもしれない」
動物の研究では、プリン体が神経伝達物質として作用していた。プリン体は一部の食品に含まれる天然成分で痛風の原因として知られる。
「人工甘味料が鬱病にどう関係しているかについては、さまざまな可能性が考えられる」と英ハートフォードシャー大学の栄養生化学者リチャード・ホフマンは言う。
「神経伝達物質としてのプリン体の役割に関する情報はあまりない。だがUPFを大量に摂取する人は栄養不足になりがちだ。つまりUPFの多い食生活では特定の栄養が不足し、その結果、鬱病の発症リスクが上昇していた。例えばビタミンB12や葉酸やオメガ3脂肪酸(EPAやDHAなど)の不足は全て鬱病のリスク上昇に関連する」ホフマンによれば、もう1つの可能性は炎症だ。UPFの少ない健康的な食生活は抗炎症作用が強く、鬱病のリスク低下と関連付けられてきた。
ストレス発散のために
こうした発見は、加工度が最小限の食品が実際に鬱病のリスクを低下させるという先行研究の結果を補完する。「野菜、果物、ナッツ類、シード類、豆類などが豊富な地中海式食生活は鬱病のリスクを下げることが分かっている」と、英アストンメディカルスクールのドゥエイン・メラー上級講師(エビデンスに基づく医療・栄養学)は言う。
イギリス在住の双子の姉妹エイミー・キングストンとナンシーは昨年、英キングス・カレッジ・ロンドンの実験に参加。2週間にわたって、カロリーは同じだがエイミーはUPFだけの食事を、ナンシーはUPFを一切含まない食事を続けた結果、エイミーのほうが空腹感・疲労感がはるかに強く、体重も増えた。
一部の専門家は、UPFと鬱病の相関関係は、鬱病患者が人工甘味料入り飲料などのUPFを好むせいではないかと示唆している。
「こうした飲料が鬱病のリスクを上昇させる可能性はあるが、逆に鬱病のせいで甘味料入りの飲料を好むようになる可能性のほうが高い。従って、これらの食品が気分の落ち込みや精神的不調のリスクを増すのか、それとも精神的不調が食品の選択に影響するのかは不明だ」とメラーは言う。
一方、チャンは次のように主張する。「私たちは対象者の食生活を鬱病発症の何年も前から追跡調査しているので、鬱病のせいで超加工食品を口にした結果、相関関係が示された可能性は低いと思う」
それでもUPFで一時的にストレス発散できるから食べるという人もいるだろう。
「実際、UPFはストレス発散のために摂取されがちで、一部はオルダス・ハクスリーのディストピア小説『すばらしい新世界』に出てくるソーマと同じではないかと思う。つまり副作用ゼロで強い幸福感をもたらすドラッグだ」とホフマンは言う。
チャンらも論文で自分たちの研究の限界に言及している。「対象は白人女性が中心だった。本人の自己申告のみなので判別ミスの可能性もある」
それでも、加工度の低い食品を選択するのが賢いとは言えそうだ。