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NewJeansの日本進出で再認識した「生みの親」ミン・ヒジンの目利きの力

ニューズウィーク日本版 2024年8月18日 17時30分

まつもとたくお
<「青い珊瑚礁」以外にも日本の音楽シーンをリサーチしていた──>

話題のK-POPガールズグループ・NewJeansが、6月26日・27日の2日間、初の単独来日公演『NewJeans Fan Meeting 'Bunnies Camp 2024 Tokyo Dome'』を東京ドームで開催したことは、多くのメディアで報道されたため、K-POPファンのみならずご記憶の方も多いだろう。

韓国デビューからわずか1年で米ビルボードのメインチャートのトップに輝き、日本でもすでにお茶の間レベルの人気を手に入れているグループ、しかも海外アーティスト史上最速での東京ドーム公演というトピックもあって、チケットはすぐにソールドアウト。行きたくても行けなかった人が相当な数にのぼったのは間違いない。

この公演は内容的にも注目すべきものが多かった。オープニングはNewJeansのサウンドメイクのキーマンであるアーティスト、250(イオゴン)が登場し、彼女たちのオリジナルソングのマッシュアップ(複数の曲の一部を抽出してひとつの曲になるようにミックスする手法)を披露。約20分のプレイは客席と舞台の一体化にひと役買っていたように思う。

本編となるNewJeansのステージのインパクトも強烈だった。日本語・英語・韓国語をミックスしたメンバーらのトークは通訳なし。サポートする司会者もいない。従来のファンミーティングの常識から大きく外れた進行は、K-POPファンはもちろん、主に洋楽・邦楽を聴く人にとっても新鮮だったはずだ。

サポートメンバー、曲のチョイスが音楽好きをうならせる

サポートメンバーや曲のチョイスも音楽好きをうならせている。バックバンドにはKing Gnuの新井和輝をはじめとする日本の実力者たちが参加。なかでもヒップホップチーム・SANABAGUN.(現在活動休止中)の大樋祐大と磯貝一樹という、知る人ぞ知る名プレイヤーを起用したセンスには驚くばかりである。K-POPアーティストの海外公演で現地のミュージシャンに演奏してもらうケースは少なからずあるものの、今回のように徹底したリサーチが想像できる人選はレアではないだろうか。

NewJeansの東京公演にバックバンドとして参加下ヒップホップチームSANABAGUN. SANABAGUN. / YouTube

選曲の妙といえば、やはりカバーソングである。特にメンバーのHANNIがソロで歌った「青い珊瑚礁」(1980年)は本公演のハイライトとなり、オリジナルバージョンを歌う松田聖子の再評価につながっている。
HANNIのカバーの影響で韓国の音楽配信サービスでも松田聖子の「青い珊瑚礁」はチャートを急上昇した。 KBS News / YouTube

「日本向けの公演だから日本の曲を」となるのは普通だが、NewJeansの生みの親・育ての親であるミン・ヒジンの場合はひと味違った。韓国でここ数年盛り上がっているニュートロ(懐かしいカルチャーを今の感覚で愛でる風潮)やトロット(日本の演歌や昭和歌謡に似たジャンル)が、日本でもスポットライトが当たっているのを彼女は知っていたのだろう。だからこのタイミングで「青い珊瑚礁」を取り上げれば、大きな反響があるはず----。本人はそう確信していたように思う。
「Seikoland~武道館ライブ '83」より Sony Music (Japan) / YouTube

日本語版でも個性派クリエーターを起用

こうしたミン・ヒジンの"目利きの力"は、以前から知られている。前述の250にサウンドプロデュースを依頼したのを手始めに、The Black Skirts(コムジョンチマ)やOohyo(ウヒョ)といった個性派を積極的に制作面で取り込んできた。有名・無名を問わず独自の感性があると思った人を起用する姿勢があったからこそ、NewJeansは短期間でオンリーワンの存在になったと言えよう。

日本進出にあたっても、その方向性は変わらなかった。今回の東京ドーム公演の演出やセットリストも彼女の目利きによるものだろうし、日本デビュー曲「Supernatural」と「Right Now」のサウンドメイクも同様だと思われる。なかでも後者の「Right Now」だが、個人的には作詞に「satomoka」の名前が入っていることに「さすが、ミン・ヒジン」と思わず膝を打った。
「Right Now」は作曲FRNK / Lolo Zouaï、作詞がGigi / Lolo Zouaï / satomokaとクレジットされている。 HYBE LABELS / YouTube

NewJeansにジャストフィットする「satomoka」の作風

「satomoka」の日本語表記は「さとうもか」。2015年末にミニアルバム『ザ・ワンダフル・ボヤージュ』で正式デビューを果たした日本の女性シンガーだ。アマチュア時代から彼女のソングライティングは注目を集めており、心の奥底にある感情をチャーミングかつストレートに綴った歌詞や、凝ったコード進行にもかかわらずポップに響くサウンドなどで着実にファンを増やしていった。

とはいえ、活動開始からしばらくの間は玄人受けする存在で、知名度と人気が一気に上がったのは彼女の楽曲「melt bitter」がTikTokで頻繁に使用されるようになった2022年あたり。しかもブレイクしたと言っても、日本中の誰もが知っているレベルではない。
2022年8月さとうもかは、TikTokとSpotifyが共同でアーティストを応援するプログラム「Buzz Tracker」に選ばれ、ブレイクした。 さとうもか / YouTube

ミン・ヒジンがそのようなアーティストに作詞を依頼したのは、ものめずらしさではなく、単にNewJeansの個性にジャストフィットする作風だったからだろう。「Right Now」における「さあ ⾒つけにいくだけよ」「もう待てない」「⾔いたいなら⾔ってよ」といった真っすぐな表現は、さとうもかの得意とするところだが、NewJeansの軽やかに前へと進んでいくイメージにもよく似合う。ちなみに彼女は「Bubble Gum」の日本語バージョンも手伝っており、ミン・ヒジンの信頼度がいかに高いかがよく分かる。
「Bubble Gum」日本語版は花王のCMソングとして現在もオンエアされている。 orison / YouTube

ここ最近のミン・ヒジンは親会社との問題などでいろいろな報道があった。しかしながら、基本的にはずっと音楽の世界で勝負してきた人であり、聴く側もクリエイティブな面だけで評価するべきだと思う。NewJeansの日本デビューにともなう一連の活動はひと段落したが、次の一手がどのようなものになるのか。とにかく今はそれだけを楽しみにしたい。

【動画】NewJeansのサウンドを創るクリエーター250

NewJeansの生みの親、ミン・ヒジンが起用した250は個性的なサウンドで音楽業界内でのファンも多い。

NewJeansのサウンドプロデューサー250(イオゴン)のサウンドクリエーション
NewJeansのファーストアルバム『New Jeans』収録曲「Hurt」は250が作曲で参加、自身で編曲を担当した。こちらはそれをさらに250がリミックスしたバージョン。ちなみにこの250(イオゴン)という変わった名前は本名のイ・ホヒョンから付けたものだという。 NewJeans / YouTube

ミン・ヒジンとの作業はf(x)から
梨泰院のクラブシーンで長年DJとして活動してきた250は、2015年11月、梨泰院で開かれたf(x)のカムバック展示会である「4Walls Exhibition」で「4Walls」公式リミックス2曲を公開した。このときからミン・ヒジンとの作業が始まったという。このMVは2016年BoAの「Pit-a-Pat」を原曲として発表されたリミックス。 
SMTOWN / YouTube

250のソロ曲はポンチャク
250自身としては2022年にアルバム「ポン」を発表、2023年の韓国大衆音楽賞で、最優秀エレクトロニックアルバム、最優秀エレクトロニックトラック、今年の音楽家、今年のアルバムを受賞。またこのときはNewJeansの1stアルバムでも最優秀K-POPアルバム、最優秀K-POPトラックを受賞している。 NewJeans / YouTube

キム・チャンワンも興味津々
韓国ではミュージシャンとして人気の高いキム・チャンワンのラジオ番組に250がゲスト出演したときのようす。 SBS Radio 에라오 / YouTube

 

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