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コロナ後遺症ここまで分かった...「感染時は軽度」が90%以上、倦怠感から心不全まで影響は200以上

ニューズウィーク日本版 2024年8月18日 17時15分

ジャド・アルアリ(セントルイス退役軍人医療施設の研究開発主任、セントルイス・ワシントン大学の臨床疫学者)
<今年前半に出た報告書や科学論文によって、この複雑な慢性疾患の解明が進んだ。かかる確率は以前より下がったが、何年にもわたり複数の身体機能に健康影響を引き起こす可能性もあり、決して油断はできない>

2020年以降、新型コロナウイルスの後遺症は世界中で大きな問題になっている。何百万人もの人々の健康や生活の質(QOL)に影響を与えただけでなく、労働生産性や労働力全体の低下をもたらし、経済に数十億ドルの損失をもたらしてきた。

コロナ後遺症は科学的にもかなり注目されており、これまでに2万4000本以上の論文が発表されている。人類史上、4年間でこれほどまでに集中的に研究が行われた健康状態は他に例を見ない。

SARS-CoV-2ウイルスへの感染によって引き起こされる、長期的な健康への影響の総称が新型コロナウイルス後遺症(long COVID)だ。

息切れなどの長期的な呼吸器症状から、衰弱性疲労やブレインフォグ(脳の霧。頭にモヤがかかったような状態になり、集中力や記憶力が低下するとされる)、さらには生涯にわたる影響として、心不全や糖尿病などの症状までが含まれる。

私は研究医として、パンデミックの初期からコロナ後遺症の研究に深く関わってきた。米上院でコロナ後遺症の専門家として証言し、多くの論文を発表した。2024年には、タイム誌の「健康分野において最も影響力のある100人」にも選ばれた。

2024年の前半に、コロナ後遺症に関する報告書や科学論文が次々と発表されたことで、この複雑な健康状態の解明が進んだ。コロナ感染後も数年間、さまざまな臓器に大きな被害を及ぼし得るそのメカニズムや、ウイルスが感染後も数カ月から数年にわたって体内に残り続け、免疫機能不全を引き起こす新たな根拠などが明らかになった。

ワクチン未接種者の後遺症リスクは接種者の2倍以上

私と共同研究者は2024年7月17日、医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に発表した論文で、パンデミックの過程でコロナ後遺症のリスクが低下したことを明らかにした。

コロナウイルスの原型が感染の主な原因であり、ワクチンがまだなかった2020年には、コロナに感染した成人の約10.4%が後遺症を発症した。

オミクロン系の変異株が優勢となった2022年初頭までには、その割合はワクチン未接種の成人で7.7%、ワクチン接種済みの成人で3.5%に低下した。ワクチン未接種者がコロナ後遺症を発症する確率は、ワクチン接種者の2倍以上だった。

コロナ後遺症の症例がデータにまだ反映されておらず、そのため2024年半ば現在の発症率について具体的な数字はまだ出せていないが、コロナ後遺症で診療所を訪れる新規患者の往来は2022年と同様のペースである。

後遺症の発症リスク低下は、主に2つの要因が関係している。ワクチンの普及、そしてウイルスの特性の変化である。これらにより、ウイルスが重度の急性感染を引き起こす可能性が低下したばかりでなく、慢性疾患を引き起こすほど長く、ウイルスが人体の中に残り続ける能力が下がった可能性がある。

しかし、発症リスクが低下しているとはいえ、3.5%というコロナ後遺症の発症率を見過ごすことはできない。新たに感染し、また何度も感染することで、コロナ後遺症の症例は増え続けている。後遺症に悩まされる人々は、すでに驚くほど膨大な数存在しているにもかかわらず、増加の一途を辿っているのだ。

パンデミックの最初の年には、世界で少なくとも6500万人がコロナ後遺症にかかったと推定されている。コロナ後遺症とは何なのか、そして、それが2023年を通して世界経済にどれほど影響を与えたのか、近々、最新の情報を他の主要な科学者たちと共に発表する予定だ。

認知障害、労作後倦怠感、消化器系疾患、代謝障害など200以上

なお、コロナ後遺症に関するあらゆる健康影響については、米学術機関の全米アカデミーズ(全米科学・工学・医学アカデミー)が2024年に入って詳細な報告書を出している。

これは、病気やケガなどで仕事ができなくなった人への支援給付金におけるコロナ後遺症の位置付けを明らかにするために、米社会保障局の委託を受けてまとめられた報告書だ。

この報告書では、コロナ後遺症は複雑な慢性疾患であり、複数の身体機能に200以上の健康影響を引き起こす可能性があると結論付けている。そこでは、次のような症状の発症や悪化が挙げられている。

・心臓病
・認知障害、脳卒中、自律神経障害(血圧、心拍数、体温などの体の重要な機能を調節する神経の障害)などの神経に関する症状
・労作後倦怠感(わずかな活動でも起きる深刻な疲労状態で、数時間、数日、数週間にわたって機能不全を引き起こすことが多いとされる)
・消化器系疾患
・腎臓病
・糖尿病や高脂血症(悪玉コレステロールの増加)などの代謝障害
・免疫機能障害

コロナ後遺症は、子供から高齢者まで、そして人種、民族、基礎疾患など健康状態にかかわらず、多くの人に影響を与える可能性がある。注目すべきは、コロナ後遺症にかかった人の90%以上が、コロナ感染時の症状は軽度であったということだ。

また、全米アカデミーズの報告書によると、コロナ後遺症は社会生活にもさまざまに影響を及ぼす。具体的には、感染後数カ月から数年にわたって身体的・認知的機能の低下を引き起こし、職場や学校への復帰や、QOL、日常生活の活動などへの悪影響が挙げられる。

米社会保障局は現在、慢性疲労や労作後倦怠感、認知障害、自律神経障害など、コロナ後遺症とされる多くの健康影響を支援給付金の対象となる障害として扱っていない。だがこれらの健康問題は、職場や学校などで社会生活を送る際、大きな影響を与えるかもしれないのだ。

感染が数年後に新たな問題を引き起こす謎の解明に向けて

さらに言えば、コロナに感染することで引き起こされる健康問題もまた、感染後何年にもわたって続くことがある。

2024年初頭に発表された大規模調査によると、ウイルス感染が軽度であった人でさえ、感染から3年目に新たな健康問題を経験していることが示された。

こうした発見は他の研究でも見られ、例えばウイルスは感染後も数カ月から数年にわたってさまざまな臓器系に潜むことや、感染が軽度であっても2~3年後まで免疫反応を示すことが示されている。これら一連の研究によって、コロナ感染がなぜ数年後に新たな健康問題を引き起こし得るのか、その謎が解明されるかもしれない。

コロナ後遺症の体への悪影響に関して、重要な進展も見られる。

アメリカとオランダで行われた2つの予備研究では、コロナ後遺症を持つ人から自己抗体(ウイルスや細菌に対してではなく、自分の体の組織や臓器に対して生成される抗体)を健康なマウスに移植すると、筋力低下や平衡感覚の悪化など、コロナ後遺症のような症状を発症することが示された。

ここから示唆されるのは、自己抗体の生成を引き起こすと考えられる免疫反応の異常がコロナ後遺症に関連している可能性があること、そしてその治療法として、自己抗体の除去が有望かもしれないということだ。

コロナは「風邪やインフルエンザと同等」ではない

ここまで見てきたように、コロナ感染にはさまざまなリスクがあり、それを裏付ける圧倒的な証拠もある。にもかかわらず、コロナはもはや人類にとって脅威ではない、というメッセージが広まっている。この主張を裏付ける実証的な証拠は存在しないが、一般認識として誤った情報が拡散している。

だがデータが示すのは、そうではない現実だ。

コロナの感染者数はインフルエンザの患者数を上回り、インフルエンザよりも入院や死亡に至る確率も高いと報告されている。それに加え、コロナは長期にわたる深刻な健康問題をも引き起こす可能性があるのだ。

コロナを単なる風邪とみなしたり、インフルエンザと同等とみなすことは、決して現実的な捉え方とは言えないだろう。

(翻訳:中川弘子)

Ziyad Al-Aly, Chief of Research and Development, VA St. Louis Health Care System. Clinical Epidemiologist, Washington University in St. Louis

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.



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