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史上最大の「株価急落」を、日銀はなぜ許した? 「根本的な原因」を読み解く

ニューズウィーク日本版 2024年8月22日 17時38分

加谷珪一
<日経平均株価が史上最大の下げ幅を記録したが、そこに至る株高の流れをつくったのも、下落の引き金を引いたのも日銀だった>

日経平均株価が史上最大の下げ幅を記録するなど、株式市場が動揺している。ここ1~2年の株価上昇はまさに急ピッチと呼べるものだったが、その動きは完全に為替(円安)に連動している。値動きの大半は為替で説明が付くものであり、今後の推移も為替次第ということになる。

日本において本格的な株価上昇が始まったのは2023年からで、年初における日経平均株価は2万6000円台前半だった。6月以降は3万5000円をうかがう展開となり、24年1月には3万5000円を突破。3月にはとうとう4万円の大台に乗せた。その後、株価は4万2000円台まで進んだものの、7月中旬以降、相場の様相は一変し、現在に至っている。

この間、日経平均株価と為替の動きを重ねてみるとピッタリ連動していることが分かる。23年の年初に1ドル=130円前後だった為替相場は一気に円安が進み、一時は1ドル=160円を突破。日経平均株価も4万2000円を超え、最高値を付けている。

その後、為替は急激に円高に戻し、株価も歩調を合わせ一気に下落した。両者の相関係数は約0.9と極めて高い相関関係を示しており、一連の株価の動きはほとんどが為替要因と判断できる。

円安で拡大する日本企業の「見かけ上」の業績

為替が円安になれば、日本企業における見かけ上の業績は自動的に拡大する。多くの日本企業はグローバルに活動しており、基本的にビジネスはドルベースと考えたほうがよい。

日本企業が1ドルの商品を販売した場合、為替が1ドル=100円の時は日本円ベースでの売上高は100円だが、為替が1ドル=150円まで下落すると、ドルベースでは何も変わらないものの、日本円ベースでの売上高は150円と1.5倍に拡大する。

日本の株式市場における株価は、日本円ベースでの企業業績で形成されるので、ドルベースでは同じであっても、円安になれば株価は上がり、円高になれば下がっていくのが自然だ。

円安で見かけ上の業績が拡大し、株価が上昇したものの、急激な円高で一気に株価が戻した流れであり、円高の原因をつくったのは言うまでもなく日本銀行である。

日銀は24年7月31日に開いた金融政策決定会合において、政策金利を0.25%程度に引き上げる追加利上げを決定した。もともと日銀は秋の金融政策決定会合でゼロ金利を解除し、本格的な利上げは来年以降という見解を示していた。今回の金融政策決定会合は、国債の買い入れ減額が主な焦点であり、追加利上げは行われないとの見方が大半だった。

日銀はなぜ追加利上げを前倒ししたのか?

ところが、日銀は自ら提示したシナリオを変更し、追加利上げに踏み切ったことから市場は大混乱となった。為替市場では急激に円高が進み、前代未聞の株価下落を招いてしまった。

ではなぜ日銀は正常化を前倒しする決断を下したのだろうか。植田和男総裁はマクロ的環境が整ったと説明しているが、その説明をそのまま受け取る人は少数派だろう。

9月の自民党総裁選を控え、岸田政権は円安とそれに伴う物価高に神経質になっていた。政権幹部からは日銀に強く利上げを求める発言が相次ぎ、日銀はこうした政府の要請を考慮した可能性が高い。

政府からの要請を受け入れた結果、株価が下落したのであれば、今回の下落は回避できたものだったと言えるかもしれない。

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