木村正人
<近代的な設備を備えた大型ヨットをあっという間に沈没させる危険な気象現象「ウォータースパウト」とは?>
[ロンドン発]8月19日未明、イタリアのシチリア島沖で豪華ヨット「ベイジアン号」(全長56メートル)が竜巻に巻き込まれて沈没。乗客乗員22人のうち1人が死亡、6人が行方不明となった。「英国のビル・ゲイツ」と呼ばれる実業家マイク・リンチ氏も消息を絶った。
■【動画】不気味すぎる...フロリダの海上に現れた巨大な円柱「ウォータースパウト」の姿
行方不明者には米金融大手モルガン・スタンレー・インターナショナルのジョナサン・ブルーマー会長と妻のジュディさんも含まれている。
リンチ氏が仕事仲間のために企画したイベントで、リンチ氏の妻アンジェラ・バカレスさんは救出されたものの、18歳の娘ハンナさんは依然として見つかっていない。豪華ヨットの名はリンチ氏の博士論文に使われた「ベイズの定理」に由来する。
リンチ氏は英ソフトウェア会社オートノミーの共同設立者で、110億ドルで米ハイテク大手ヒューレット・パッカードに売却。2012年、88億ドルの評価減が発表され、法廷闘争が続いていた。リンチ氏は6月、米国で電信詐欺、証券詐欺、共謀すべてについて無罪判決を受けたばかり。
詐欺事件の共同被告も交通事故死
奇しくもベイジアン号が沈んだのと同じ日、詐欺事件の共同被告であるスティーブン・チェンバレン氏が8月17日にケンブリッジシャーでランニング中に車にはねられて死亡していたことが弁護士によって確認された。これも何かの因縁なのか。
イタリアのANSA通信によると、竜巻に巻き込まれた時、ベイジアン号はアンカーを下ろしていた。世界で最も高い72メートルものアルミニウム製マストが折れ、ヨットはバランスを失って沈没した。海や湖、河川の上で発生する「ウォータースパウト」が原因とみられる。
ウォータースパウトは熱帯・亜熱帯地域で最も観測されるが、条件が整えば他の地域でも発生する。積雲や積乱雲から水面に向かって空気と霧状の水滴の柱が渦を巻くように伸びる。多くの場合、発達中の積乱雲内で急速に回転する渦(メソサイクロン)から始まる。
ウォータースパウトはどのように発生するのか
水面付近の暖かく湿った空気と上空の冷たい空気の組み合わせによって引き起こされ、不安定性と空気の上昇をもたらす。暖かい空気が上昇すると、コリオリ(地表面上の流体の移動方向が少しずつ曲がっていく)効果やその他の局地的な風のパターンによって回転し始めることがある。
回転はより暖かく湿った空気が引き込まれるにつれて強まり、目に見える漏斗雲を形成する。漏斗雲は水面に向かって下向きに伸び、水面に触れると完全なウォータースパウトとなる。水しぶきの中の低気圧によって水面から水が吸い上げられる。
竜巻性ウォータースパウトの風速は秒速44メートル超
水しぶきが水を吸い上げているように見えるが、実際には漏斗の中に見える水のほとんどは結露によって形成された水滴である。暖かく湿った空気の供給が途絶えたり、陸地上空に移動したり、風向や風速の急変によって循環が乱れたりすると漏斗は狭くなり、やがて消滅する。
沈没現場近くのパレルモの日の出は午前6時26分。ウォータースパウトが発生した午前5時ごろの気温は摂氏25度だった。大きな破壊力を持つ竜巻性ウォータースパウトの風速は秒速44メートルを超えることもあり、ボートやヨットの航行には極めて危険である。
英紙フィナンシャル・タイムズ(8月19日)は「近代的な設備を整えた大型ヨットが衝突事故ではなく悪天候のためアッという間に沈没したことは、異常気象が頻発し、その強度が増すにつれ、海洋の安全性に対する懸念が高まっていることを浮き彫りにしている」と報じている。
スペイン・バレアレス諸島のイビサ島とフォルメンテラ島でも8月14日、最大で秒速28メートルの暴風雨が吹き荒れ、数十隻のヨットが嵐に巻き込まれ、一部は転覆し、岩に乗り上げた。原因は「ダーナ」と呼ばれる雷雨だった。異常気象の頻発と地球温暖化は決して無縁ではない。
<近代的な設備を備えた大型ヨットをあっという間に沈没させる危険な気象現象「ウォータースパウト」とは?>
[ロンドン発]8月19日未明、イタリアのシチリア島沖で豪華ヨット「ベイジアン号」(全長56メートル)が竜巻に巻き込まれて沈没。乗客乗員22人のうち1人が死亡、6人が行方不明となった。「英国のビル・ゲイツ」と呼ばれる実業家マイク・リンチ氏も消息を絶った。
■【動画】不気味すぎる...フロリダの海上に現れた巨大な円柱「ウォータースパウト」の姿
行方不明者には米金融大手モルガン・スタンレー・インターナショナルのジョナサン・ブルーマー会長と妻のジュディさんも含まれている。
リンチ氏が仕事仲間のために企画したイベントで、リンチ氏の妻アンジェラ・バカレスさんは救出されたものの、18歳の娘ハンナさんは依然として見つかっていない。豪華ヨットの名はリンチ氏の博士論文に使われた「ベイズの定理」に由来する。
リンチ氏は英ソフトウェア会社オートノミーの共同設立者で、110億ドルで米ハイテク大手ヒューレット・パッカードに売却。2012年、88億ドルの評価減が発表され、法廷闘争が続いていた。リンチ氏は6月、米国で電信詐欺、証券詐欺、共謀すべてについて無罪判決を受けたばかり。
詐欺事件の共同被告も交通事故死
奇しくもベイジアン号が沈んだのと同じ日、詐欺事件の共同被告であるスティーブン・チェンバレン氏が8月17日にケンブリッジシャーでランニング中に車にはねられて死亡していたことが弁護士によって確認された。これも何かの因縁なのか。
イタリアのANSA通信によると、竜巻に巻き込まれた時、ベイジアン号はアンカーを下ろしていた。世界で最も高い72メートルものアルミニウム製マストが折れ、ヨットはバランスを失って沈没した。海や湖、河川の上で発生する「ウォータースパウト」が原因とみられる。
ウォータースパウトは熱帯・亜熱帯地域で最も観測されるが、条件が整えば他の地域でも発生する。積雲や積乱雲から水面に向かって空気と霧状の水滴の柱が渦を巻くように伸びる。多くの場合、発達中の積乱雲内で急速に回転する渦(メソサイクロン)から始まる。
ウォータースパウトはどのように発生するのか
水面付近の暖かく湿った空気と上空の冷たい空気の組み合わせによって引き起こされ、不安定性と空気の上昇をもたらす。暖かい空気が上昇すると、コリオリ(地表面上の流体の移動方向が少しずつ曲がっていく)効果やその他の局地的な風のパターンによって回転し始めることがある。
回転はより暖かく湿った空気が引き込まれるにつれて強まり、目に見える漏斗雲を形成する。漏斗雲は水面に向かって下向きに伸び、水面に触れると完全なウォータースパウトとなる。水しぶきの中の低気圧によって水面から水が吸い上げられる。
竜巻性ウォータースパウトの風速は秒速44メートル超
水しぶきが水を吸い上げているように見えるが、実際には漏斗の中に見える水のほとんどは結露によって形成された水滴である。暖かく湿った空気の供給が途絶えたり、陸地上空に移動したり、風向や風速の急変によって循環が乱れたりすると漏斗は狭くなり、やがて消滅する。
沈没現場近くのパレルモの日の出は午前6時26分。ウォータースパウトが発生した午前5時ごろの気温は摂氏25度だった。大きな破壊力を持つ竜巻性ウォータースパウトの風速は秒速44メートルを超えることもあり、ボートやヨットの航行には極めて危険である。
英紙フィナンシャル・タイムズ(8月19日)は「近代的な設備を整えた大型ヨットが衝突事故ではなく悪天候のためアッという間に沈没したことは、異常気象が頻発し、その強度が増すにつれ、海洋の安全性に対する懸念が高まっていることを浮き彫りにしている」と報じている。
スペイン・バレアレス諸島のイビサ島とフォルメンテラ島でも8月14日、最大で秒速28メートルの暴風雨が吹き荒れ、数十隻のヨットが嵐に巻き込まれ、一部は転覆し、岩に乗り上げた。原因は「ダーナ」と呼ばれる雷雨だった。異常気象の頻発と地球温暖化は決して無縁ではない。