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スクールバスの未来はEVにあり...「EVは儲からない」を覆すブルーバードの快進撃

ニューズウィーク日本版 2024年8月21日 17時20分

ジェフ・ヤング
<「EVは儲からない」という懐疑論を蹴散らし、株価爆上がりの自動車メーカー・ブルーバード。スクールバスにEVが向いている理由とは>

電気自動車(EV)メーカーにとって、この1年は厳しいものだった。EVの販売台数は総じて増加傾向にあるものの、EV大手のテスラも新興のリビアン・オートモーティブも株価下落を受けて、人員削減を発表した。

その一方で、絶好調のメーカーがある。米ジョージア州に本社を置くブルーバードだ。同社は長年、黄色いスクールバスを全米の学校に供給してきたが、近年はそのEV化を進め、株価は今年に入り100%超の上昇を見せている。

1927年の創業から間もなく100年を迎えるブルーバードは、本誌の「アメリカで最も信頼できる企業」と「世界で最も信頼できる企業」にランキングされる優良企業だ。その主力製品であるスクールバスの外観は長年ほとんど変わっていないが、生産体制や細かな部分ではさまざまな変更を加えてきた。

例えば、EVスクールバスの生産能力を拡大するとともに、最近では座席に3点式シートベルトを完備したり、運転席にエアバッグを完備する(どちらも業界初)など安全措措置の強化を発表した。

また、ブルーバードの従業員は2023年、投票により組合への加入を決定。現在、約2000人の従業員のうち約1500人がUSW(全米鉄鋼労働組合)に加入している。今年5月には、組合と会社側は大幅な賃上げと福利厚生の拡充で合意した。

企業経営の常識では、安全機能の強化や賃上げはコスト増大を意味し、先行きに不透明感のあるEV市場に参入するに当たり、競争力を低下させる措置と受け止められがちだ。だが、ブルーバードはこうした懐疑論をものともせず、全米トップの業績を誇るEVメーカーに成長した。

「ブルーバードは、EV事業は依然として利益になることを示した」と、ブリトン・スミス社長は胸を張る。「しかもそれを、販売する全てのバスで実現している」

スミスによると、ブルーバードは年間5000台のEVを生産できる新工場と、トラック市場向けのEVシャーシラインを新設することにより、EV事業を一段と拡大する計画だ。今夏中に、2000台目のEVスクールバスを納車する。

ブルーバードのEVシフトは、米政府が進めるクリーンカー(走行時に二酸化炭素等の排ガスを出さない車)の普及推進策の恩恵を大いに受けていることでも全米の注目を集めてきた。

21年にジョー・バイデン大統領が署名して成立した超党派のインフラ投資法は、5年間で総額1兆ドルを支出して、全米の老朽化したインフラを刷新しようというもの。これを受け、環境保護局(EPA)は計50億ドルを交付して、既存のスクールバスをEVスクールバスに切り替える「クリーンスクールバス・プログラム」を立ち上げた。

ブルーバードのEVバス充電スタンド。同社の年間生産台数の約1割がEV BLUE BIRD

このプログラムを利用することにより、ブルーバードの22年の売上高は約2億ドル増えたという。さらに今年7月には、EVの生産能力拡張計画にエネルギー省から約800万ドルの助成が決まった。

本誌ジェフ・ヤングが、スミス社長に話を聞いた。

◇ ◇ ◇

──ブルーバードがEVを生産するようになったきっかけは何だったのか。

ブルーバードがEVシフトを始めたのは1994年のことだ。地元ジョージア州でアトランタ夏季五輪が開催された96年に試作車を製造した。当時、われわれは小回りの利く小型スクールバスを生産していて、テクノロジーによる差別化が必要だと痛感した。

90年代にEVが成長トレンドにあることに気付き、2018年に初の商用EVを発売しているから、EVの分野では決して新参者ではない。EVはブルーバードを差別化し、顧客が探し求める車を提供するチャンスを与えてくれた。

政府の資金的なサポートもあり、スクールバスをEVに切り替える学区が増えるなか、われわれがそのニーズに真っ先に応えられることをとてもうれしく思っている。

──ブルーバードの生産車両の何割くらいがEVなのか。

現在、全米で約50万台のスクールバスが運用されているが、EVの割合は2%以下で、93%以上がディーゼル車だ。従って、スクールバスのEV化には極めて大きなビジネスチャンスがある。

ブルーバードでは年間生産台数の約9%がEVだ。プロパンガス車などのクリーンカーも生産しており、ディーゼルのような伝統的なエンジン車は着実に減っている。

──EVスクールバスを導入した学区からの評判は?

まず、ブルーバードのEVスクールバスは非常に信頼できる、毎日のように通りを走っていて、実のところ一部の従来型の内燃エンジンのバスに比べて性能もいい、という反応が返ってきている。

次に、バスの運転手たちはトルク(回転力)の大きさに満足している。積載量(乗客定員)が非常に大きく、生徒たちで満席の状態での加速もかなりいい。EVスクールバスの静けさも運転手たちに好評だ。静かなことは騒音公害という点で非常に重要なのはもちろん、静かだからバスの車内や車外で起きていることが全て運転手に聞こえる。安全で快適で静かなバスというのは1つの付加価値だ。

さらに、EV化はスクールバスにうってつけだという意見だ。スクールバスは朝と午後に50~60キロくらいの短いルートを回って、夕方には同じ場所に戻る。だから夜のうちに充電して翌朝生徒たちを乗せて学校まで運ぶ準備をするのにぴったりだ。

ブルーバードのEV工場。成功の見返りは従業員にも行き渡っているとスミスは言う BLUE BIRD

私たち大人のほとんどはディーゼルエンジンのスクールバスに乗っていたので、後部座席に座ると排ガスの臭いがした。朝、スクールバスが来るのを待っている間も排ガスを吸い込んでいた。EVならスクールバスが走行する都心部や人口密集地域から排ガスをなくすことができる。生徒たちもEVバスをとても気に入っている。バスに乗ると未来に向かっている気分がするらしい。

──バイデン政権はEVを奨励し支援してきた。EVをめぐるブルーバードの経営判断において、政府の政策はどんな役割を果たしてきたのか。

言うまでもなく、ブルーバードはEVスクールバスという分野をリードすることを目指していて、どんな政策決定であれEVへのシフトに役立つ。バイデン政権は22年8月に施行されたインフレ抑制法を通じて、EVやプロパンガスなどを燃料とするクリーンなスクールバスを導入する場合の助成金として(22~26年度の5年間で)50億ドルを提供しており、おかげでそれらのテクノロジーの採用が急増している。

当社のバスを購入する申込件数も学区の数も飛躍的に増えている。既にアメリカ41州とカナダ4州にわが社のEVスクールバスを配備しているが、助成金は全米でEVスクールバスへの関心を高めるのに大いに役立っている。

──EVバスとディーゼルバスとでは学区の負担額に大体どのくらい差が出るのか。

EVのほうがはるかに高額だ。ディーゼルのスクールバスの購入費は1学区当たり大体15万ドル前後だが、EVバスははるかに高くて35万ドルくらいする。

もちろん、購入費用は助成金で相殺できる。だが運行にかかる費用はEVバスのほうがディーゼルのバスに比べてかなり安い。ディーゼルバスは1マイル当たり0.79ドル(1キロ当たり約0.5ドル)かかるのに対し、EVバスなら約0.19ドル(1キロ当たり約0.1ドル)で済む。バスの寿命が来るまでに大幅なコスト削減ができるわけだ。

──この1年はブルーバードにとってまさに変化の年だった。昨年5月には従業員の投票によって組合加入が決定したが、どうしてそうなったのか。その結果、職場はどう変わったか。

南部では労組結成の機運が高まっていて、当社の従業員は全員一致で労組結成を支持した。今年5月に組合側と契約を結んだが、いい交渉ができて誰もが結果に満足していると思う。

従業員全員を対象に大幅な賃上げ、利益分配、(確定拠出型年金)401kへのマッチング拠出(従業員の拠出額に応じて企業が一定割合を上乗せする)を実現することができた。おかげで当社がジョージア州中部で社員の福利厚生面での競争力を向上させるのに大いに役立ち、会社がうまくいけば従業員にもプラスになるようになっている。成功の見返りが従業員にも行き渡っている。

──人件費にまつわる従来の常識には反しているようだ。世間一般には労組は売り上げや株価に響くとされているが、実際はそうなっていない。EV化と自動車業界の現状から、どんなことが学べるか。

私たちはさまざまな規範を打破していると思う。EVメーカーは儲からないというこれまでの常識は明らかに間違っている。わが社は非常にうまくいっている。良好な労使関係は従業員にとっても企業全体にとってもプラスになる。

安全面でもシートベルトは高価すぎるというこれまでの常識を打破し、全米の学区にとって手の届くレベルにすることを目指している。

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