コリン・ジョイス
<誤情報をきっかけに広がった極右による反移民暴動だが、イギリス世論は暴動や人種ヘイトを非難しながらも無秩序な移民急増にも反対している>
イギリス各地で7月末に広がった極右による暴動から、ある程度の時間が経過した。暴動は犯罪で止めなければならず、加害者は法によって罰せられるべきだ、という当初の(まっとうな)反応から、より踏み込んだ洞察ができそうだ。
第1に、実際のところイギリスで、暴動はそれほど珍しくない。並べてランク付けだってできる。だから今回の暴動は2011年の大規模暴動以来「最悪」と位置付けられる。
2020年のBLM(黒人の命も大事)抗議運動の騒動よりも「深刻」で広範に拡大した。さらに7月中旬に中部リーズで起こった暴動(極右暴動とは無関係で、おそらく国外ではニュースになっていないだろう)も「かすませて」しまった。
1981年、1985年、1990年、2001年も暴動が頻発した。言い換えれば、残念ながら暴動はイギリスという国を語る一部だ。「法を順守するイングランドで暴動だって?」というよりも「またイングランドで暴動か?今度は何があった?」という感じなのだ。
第2に、暴動が起こると、当初の衝撃はしばしば「この種のことは遅かれ早かれ起こるに決まっていた」という事後評価に変わっていくもの。そして、こんな事態が発生した場所はある程度予測可能だったという認識が広がる。
今回の場合は、白人労働者階級と多くの非白人が近接して暮らす、比較的貧しい都市で起こりがちな反移民暴動だった。一定のパターンが当てはまるということは、これらが多文化共生の幸せなコミュニティーではないことが事前にある程度分かっていたという事実を示している。
公的発表が信じられない理由
第3に、「誤情報」が一つの引き金となったことは間違いない。7月29日、北西部サウスポートで3人の少女が刃物で殺害され、複数人が負傷する事件が発生したが、これはシリア人(従ってイスラム教徒)の亡命申請者が犯人だとの噂が流れた。実際には、容疑者はルワンダ移民の2世(従ってほぼ間違いなくイスラム教徒でない)だった。
だが人々は、公式の発表を信用しない時には無責任なソーシャルメディアの情報を信じる傾向がある。公的情報の信頼性を疑ってかかるのは極右だけではない。警察や関係当局は、可能ならば社会的問題から論点をずらすような説明を持ち出したがると、人々が考えてしまうのもやむを得ない。
この手の事件では、初期の段階では「おそらくテロの意図はない」と発表され、次いで別の理由が持ち上がり(「精神疾患の病歴があった」というのはよくある説明だ)、わが国に強い憎悪を抱いているかもしれないマイノリティーの手で犯罪が起こったという事実を覆い隠すかのように、容疑者は「地元カーディフ生まれ」とか「帰化した英国市民」などと強調されるのがお決まりのパターンだ。
ジャーナリストのダグラス・マレーの言葉を借りれば、当局はまるで、「大衆」と「事実」の間に入って仲裁するのが仕事だと思っているようだ。
もちろん、残虐行為がどう見てもテロ攻撃である場合は、そうした説明も成り立たない。たとえば2017年のマンチェスター・アリーナでの爆発テロ事件や、2021年の議員殺害事件、ロンドン路上で英兵士が首を切られて殺害された2013年の事件、2017年のロンドン橋での襲撃事件、「イギリス版9・11」である2005年のロンドン地下鉄・バス同時爆破テロ、2020年の南部レディングの公園での刺殺事件......。これらは全て、移民(亡命申請が認められた人から英国生まれ・育ちの2世に至るまで)の手による犯行だった。
だから、「サウスポートの事件がシリア難民の犯行だと考えている暴徒は間違い」だというのは正しいが、だからといって「移民とテロとの間に関係は何もない」とはならないのだ。
第4に、今回の暴動は、移民の一層の増加を望むごくごく一部のイギリス人にとっては恩恵となった。今や「見ろ、これこそ移民反対派の素顔だ」と言えるようになったからだ。「人種差別の悪党としか言えないじゃないか」と。
この主張は、大多数のイギリス人が暴動に愕然とし、人種ヘイトを非難し、それでも同時に大量の無秩序な移民受け入れには反対している、という事実を無視している。
人々が大規模で急速な人口動態の変化に懸念を抱くのはもっともなことで、世論調査ではイギリス人の過半数が移民の増加ペースが急激すぎると感じている。移民は2022年と2023年だけでイギリス人口に130万人を上乗せした(ブリストルとレスターを合わせた人口に匹敵)。これは、移民純増を年間10万以下に抑えるとの目標を掲げて2010年に政権復帰した保守党政権下で起こった出来事なのだ。
イギリスは、これほど急激な人口増加に対処できるほどの住宅や学校、医療を賄えない。システムに負荷がかかっている。
女性器切除や名誉殺人...以前は存在しなかった問題が
大量の移民はイギリス社会をさまざまな形で変えていて、プラスの場合もあればマイナスのものもある。例えば面白いレストランが増えたり移民が労働力不足を補って経済を活性化させたりしている。一方で、女性器切除とか「名誉殺人」とか、子供の遺伝的欠陥にもつながるいとこ同士の結婚といった、以前のイギリスには存在しなかった問題も発生している。
移民賛成を唱える少数派の立場は明確だ。多様性は本質的に良いことで、社会を豊かにするし、僕たちはそれを受け入れるべきだ、と。今回の暴動は、問題が移民にあるのではなく、むしろ移民抑制を唱える政治家たちによって移民への敵意が「あおられた」せい。代わりにイギリス人は、国境を開放して移民を「大歓迎」すべきだ。政府やメディアの仕事は、望んでいないことを望むように国民を説得すること。移民を望まない人々が、本当は望むべきなのだと気付いたときに、イギリスの移民問題は見事解決するだろう、というのが彼らの言い分だ。
<誤情報をきっかけに広がった極右による反移民暴動だが、イギリス世論は暴動や人種ヘイトを非難しながらも無秩序な移民急増にも反対している>
イギリス各地で7月末に広がった極右による暴動から、ある程度の時間が経過した。暴動は犯罪で止めなければならず、加害者は法によって罰せられるべきだ、という当初の(まっとうな)反応から、より踏み込んだ洞察ができそうだ。
第1に、実際のところイギリスで、暴動はそれほど珍しくない。並べてランク付けだってできる。だから今回の暴動は2011年の大規模暴動以来「最悪」と位置付けられる。
2020年のBLM(黒人の命も大事)抗議運動の騒動よりも「深刻」で広範に拡大した。さらに7月中旬に中部リーズで起こった暴動(極右暴動とは無関係で、おそらく国外ではニュースになっていないだろう)も「かすませて」しまった。
1981年、1985年、1990年、2001年も暴動が頻発した。言い換えれば、残念ながら暴動はイギリスという国を語る一部だ。「法を順守するイングランドで暴動だって?」というよりも「またイングランドで暴動か?今度は何があった?」という感じなのだ。
第2に、暴動が起こると、当初の衝撃はしばしば「この種のことは遅かれ早かれ起こるに決まっていた」という事後評価に変わっていくもの。そして、こんな事態が発生した場所はある程度予測可能だったという認識が広がる。
今回の場合は、白人労働者階級と多くの非白人が近接して暮らす、比較的貧しい都市で起こりがちな反移民暴動だった。一定のパターンが当てはまるということは、これらが多文化共生の幸せなコミュニティーではないことが事前にある程度分かっていたという事実を示している。
公的発表が信じられない理由
第3に、「誤情報」が一つの引き金となったことは間違いない。7月29日、北西部サウスポートで3人の少女が刃物で殺害され、複数人が負傷する事件が発生したが、これはシリア人(従ってイスラム教徒)の亡命申請者が犯人だとの噂が流れた。実際には、容疑者はルワンダ移民の2世(従ってほぼ間違いなくイスラム教徒でない)だった。
だが人々は、公式の発表を信用しない時には無責任なソーシャルメディアの情報を信じる傾向がある。公的情報の信頼性を疑ってかかるのは極右だけではない。警察や関係当局は、可能ならば社会的問題から論点をずらすような説明を持ち出したがると、人々が考えてしまうのもやむを得ない。
この手の事件では、初期の段階では「おそらくテロの意図はない」と発表され、次いで別の理由が持ち上がり(「精神疾患の病歴があった」というのはよくある説明だ)、わが国に強い憎悪を抱いているかもしれないマイノリティーの手で犯罪が起こったという事実を覆い隠すかのように、容疑者は「地元カーディフ生まれ」とか「帰化した英国市民」などと強調されるのがお決まりのパターンだ。
ジャーナリストのダグラス・マレーの言葉を借りれば、当局はまるで、「大衆」と「事実」の間に入って仲裁するのが仕事だと思っているようだ。
もちろん、残虐行為がどう見てもテロ攻撃である場合は、そうした説明も成り立たない。たとえば2017年のマンチェスター・アリーナでの爆発テロ事件や、2021年の議員殺害事件、ロンドン路上で英兵士が首を切られて殺害された2013年の事件、2017年のロンドン橋での襲撃事件、「イギリス版9・11」である2005年のロンドン地下鉄・バス同時爆破テロ、2020年の南部レディングの公園での刺殺事件......。これらは全て、移民(亡命申請が認められた人から英国生まれ・育ちの2世に至るまで)の手による犯行だった。
だから、「サウスポートの事件がシリア難民の犯行だと考えている暴徒は間違い」だというのは正しいが、だからといって「移民とテロとの間に関係は何もない」とはならないのだ。
第4に、今回の暴動は、移民の一層の増加を望むごくごく一部のイギリス人にとっては恩恵となった。今や「見ろ、これこそ移民反対派の素顔だ」と言えるようになったからだ。「人種差別の悪党としか言えないじゃないか」と。
この主張は、大多数のイギリス人が暴動に愕然とし、人種ヘイトを非難し、それでも同時に大量の無秩序な移民受け入れには反対している、という事実を無視している。
人々が大規模で急速な人口動態の変化に懸念を抱くのはもっともなことで、世論調査ではイギリス人の過半数が移民の増加ペースが急激すぎると感じている。移民は2022年と2023年だけでイギリス人口に130万人を上乗せした(ブリストルとレスターを合わせた人口に匹敵)。これは、移民純増を年間10万以下に抑えるとの目標を掲げて2010年に政権復帰した保守党政権下で起こった出来事なのだ。
イギリスは、これほど急激な人口増加に対処できるほどの住宅や学校、医療を賄えない。システムに負荷がかかっている。
女性器切除や名誉殺人...以前は存在しなかった問題が
大量の移民はイギリス社会をさまざまな形で変えていて、プラスの場合もあればマイナスのものもある。例えば面白いレストランが増えたり移民が労働力不足を補って経済を活性化させたりしている。一方で、女性器切除とか「名誉殺人」とか、子供の遺伝的欠陥にもつながるいとこ同士の結婚といった、以前のイギリスには存在しなかった問題も発生している。
移民賛成を唱える少数派の立場は明確だ。多様性は本質的に良いことで、社会を豊かにするし、僕たちはそれを受け入れるべきだ、と。今回の暴動は、問題が移民にあるのではなく、むしろ移民抑制を唱える政治家たちによって移民への敵意が「あおられた」せい。代わりにイギリス人は、国境を開放して移民を「大歓迎」すべきだ。政府やメディアの仕事は、望んでいないことを望むように国民を説得すること。移民を望まない人々が、本当は望むべきなのだと気付いたときに、イギリスの移民問題は見事解決するだろう、というのが彼らの言い分だ。