Infoseek 楽天

「ローカリズムをグローバルにという点で、Number_iにはめちゃくちゃ可能性を感じている」

ニューズウィーク日本版 2024年8月28日 14時40分

田澤映(ジャーナリスト)
<Number_iの「GOAT」や「INZM」の曲作りを担ったMONJOEが語る平野紫耀、神宮寺勇太、岸優太のバランスと可能性>

本誌8月13/20日号特集『世界に挑戦する日本エンタメ』に登場したNumber_i(平野紫耀、神宮寺勇太、岸優太)のデビュー曲「GOAT」の曲作りを担ったのは、ロックバンド「DATS」のボーカルのMONJOE(モンジョー)だ。

Number_iが9月23日に初のフルアルバム『No.I』(ナンバーワン)をリリースするのに先立ち、8月19日に先行配信を開始したリードトラック「INZM」(イナズマ)の作曲陣にも加わっている。作詞・作曲や楽曲プロデュース、DJなど多彩な活動を行うMONJOEに、Number_iとの楽曲作りや彼らの魅力についてジャーナリストの田澤映が聞いた。

◇ ◇ ◇

──どういった経緯で「GOAT」を提供することに?

アーティストの次回リリースのためにこういう楽曲を集めているといった、いわゆるコンペシートと呼ばれるものが、作家事務所やプロデューサーなどレコード会社に繋がりのあるところに定期的に回るんです。

実は今回の経緯もそれで、「とあるアーティストのデビュー曲」「世界で勝負できるヒップホップ」という内容のコンペシートがあり、そこにデモ楽曲を提出したのがきっかけです。

いくつか複数曲を提出した中から、平野くんが普段ダンスの練習で使っている曲に雰囲気が似ているからハマるかもしれない、という感じで1曲が選ばれました。

ただ楽曲のアレンジに関しては、初稿から大きく変わっています。というのも、完成した「GOAT」の形にたどり着くまでに、何回かNumber_i側から戻しがあったからです。

キャッチーな要素も楽曲の中に少しは入れないとファンの人たちが付いてこないのではという懸念が当初、僕ら制作チームにはあったので、何が最適解なのかを探りながら進んでいった記憶があります。

覚えやすい歌メロが入ったもの、ラップだけで攻めるもの、といろんなパターンがある中で、ラップだけで勝負したいというアーティスト本人たちの強い意志があり、それは僕らにとってもすごく意外なことでした。

──「GOAT」はODD Foot Worksのラッパー、Pecori(ペコリ)さんとFIVE NEW OLDのベーシスト、SHUN(シュン)さんとの共同クレジットですが、どういう役割分担なのでしょう。

トラックの部分に関しては、僕とSHUNさんでコライト(共同執筆)なんですが、セッションをしながら同時にいろいろと組み立てていった形です。ラップに関しては、僕がアーティスト時代にライブハウスで知り合った友達でもあるPecoriに依頼しました。

日本語、ラップと、ポップスと、世界的なヒップホップの流れを全部組み込んでバランスよく作るのは彼だろうというのが僕の中にあったので、彼が適任かと思ったんです。それでSHUNさんとも話し合って、Pecoriにぜひ入ってもらおうとなりました。

──メンバーからはどんなリアクションが?

ラップのフロー(譜割り)に関してなど、たくさんのリクエストをもらい、都度楽曲の改良を重ねました。例えば、デモ段階ではラップの口数がもっと多かったんですが、フック(サビ)をもっとシンプルなものにしたいというリクエストがあって、再構築した経緯があります。

彼らからたくさんの戻しがあり試行錯誤するなかで、一度会わないとまとまらないという話になり、納期ぎりぎりに都内のスタジオで集まったのが、初めて彼らに直接会ったタイミングでしたね。

僕もSHUNくんもPecoriもいて、そこでみんなが納得する形で曲が完成しました。そのときはずいぶん遅い時間までやりましたね。帰るとき、終電がなかったことは覚えています(笑)。

──「GOAT」はどんな反響があると予想していましたか。

正直、相当怖かったですね。まず今までの彼らのイメージとは全く違う曲だから、「(Number_iを)だめにしたやつ」みたいな感じで見られたらどうしよう、と。あとは、Number_iの新曲は誰がプロデュースするのかを予想してるネット記事を読んだりもして、「これを俺が出しちゃって大丈夫かな」といった心配みたいなものもあったんです。

でも、最高の曲に仕上げることしか考えていなかったし、それが出来た曲だったので、堂々としていればいいと自分自身を落ち着かせてました。

──アーティストとしての3人の魅力はどんなところにあると思いますか。

本当に3人ともバランスがいいなと思います。彼らはよく「天然キャラ」みたいな感じで言われるし、僕らもそういう面を感じるときもありますが、でもやっぱり本当にしっかりと考えているし、とにかく音楽に対してすごく真面目に取り組んでいるんです。

例えば平野くんでいうと、彼は「こういう絵が思い浮かぶんです」と音だけではなく、その先のビジュアルとか、どうブランディングしていくかみたいなところまで直感的なイメージを持っていて、それを彼なりの伝え方で伝えてくれます。僕らは、それをうまく言語化しようと頑張るみたいな、そんなコンビネーションです。

岸くんだったら、普段のコミュニケーションから「いまバラエティー番組に出てるの?」みたいなテンションですごく面白いんですけど、でもものすごく真面目な部分があって、1つ好きなものができたらそれにコツコツ打ち込んじゃう。スキルを含めて、音楽的な幅がとても広いと感じますね。

ジン(神宮寺)くんは、うまく2人の橋渡し役になっている印象がありますね。うまくバランスを保てているのはジンくんがいるおかげだな、と。どっちの話もうまく聞いてその上で自分の意見を言っている。

そのバランスがグループとしての魅力になっていて、それは音にも出ているんじゃないかなって思いますね。「GOAT」では平野くんがクールな声、岸くんがちょっとぶっ飛んだクレイジーな声。そしてジンくんが、ジンくんももちろんかっこいいんですけど、どちちも支えるようなポジション。音的にもすごくバランスがいいんですよ。

だからデモを聞いただけだったら、例えばPecoriの歌メロやラップだけだったら凡庸かなって思う曲だったとしても、あの3人がそれぞれ歌割りを決めて歌うとすごくいい曲になる、そういうマジックがあるんです。それは自分たちの強みとして、彼らも自覚していると思います。

それと、ボーイズグループ戦国時代の中で彼らしかやっていないことが1つあって。それは「お笑い」なんですよ。

たぶん今、「お笑い」のエッセンスがあるグループってほかにない。「BON」のミュージックビデオで(コントのように)タライが落ちてくる場面がありますが、お笑いという日本の文化的要素を表現できるのはNumber_iしかいないって思います。

──セカンドアルバムからプロデュース制を始めて、例えば平野さんは「BON」についてどういうことを伝えてきましたか。

まず、「盆栽」っていうテーマで曲を作りたいんです、っていうことからです。なぜかと聞いたら、最近植物が好きで盆栽に興味があって、と。盆栽は100年、何百年とかけてあの形になるもので、僕たちもファンに支えられて成長する、そういうことを表現したいという思いを伝えられたんですよね。

ただ、じゃあそのまま和の要素を入れよう、というのは安直な表現になりかねないので、そこをどういやらしくない形で表現するかが課題だよね、といったディスカッションをしました。

海外の人から見ても、日本の人から見てもクールなものにしなきゃいけないという使命感は、発注を受けたときからありました。

──今後のNumber_iはいろいろなジャンルを取り入れながら曲を作っていくことになりそう?

僕の理想としては、彼らには彼らにしかできないもの、日本発のオリジナルのものを生み出してほしい。

──これから日本がグローバルアーティストを輩出するのは可能だと思いますか。

可能だと思います。僕は小学生の頃、アメリカに住んでいたんですけど、友達はほぼ全員、遊戯王カードをやっていました。

海外にアニメファンはたくさんいて、大部分の人が『ポケモン』や『ワンピース』を見て育っている。それにのめり込んでしまう人はちょっとダサイやつみたいな感じで捉えられていたが、でも今はむしろちょっとナード(おたく)なやつがいけてるっていう風潮になっているんですよね。

日本のカルチャーに対する見方が「ダサい」じゃなくて、一番いけてるぐらいになっている。韓国に行ってもそう思いますし、先日スウェーデンに行ったときは、会うミュージシャン全員が日本のアニメを通っていて、「『ワンピース』の最新刊読んだ?」みたいな話をしている。「みんな日本のカルチャーが大好きなんだよ」って感じでした。

それに気付いていないのは、僕ら日本人なんじゃないかな。だからもっと自信を持てば、グローバルアーティストとして日の目を見るのは可能なのかな、むしろ今こそがいいタイミングなんじゃないかなと思いますね。

もちろんBTSやBLACKPINKが成し遂げたように、アメリカのスタイルでアメリカのマーケットを狙うのも面白かったと思う。アジア人がアメリカのスタイルでやってもうまくいかないというイメージを覆したのは、それだけですごいことだったと思います。

次は、ローカリズムをいかにグローバルまで成長させられるかが一つの見せどころになってくるんじゃないかなっていうのが、僕の読みですね。

その意味で、Number_iにはめちゃくちゃ可能性を感じています。

◇ ◇ ◇

MONJOE

SYUYA AOKI

LA生まれ東京育ちのプロデューサー/トラックメイカー。2022年にGLIM SPANKYやRyohu、新井和輝(King Gnu)、MELRAWらが参加したアルバム『We Others』をリリース。プロデューサーとしては、YouTubeのMVデイリーランキングで日本だけでなくグローバルでも1位を獲得したNumber_iの「GOAT」や「BON」をはじめ、SKY-HI×Nissy(西島隆弘)「SUPER IDOL」、BE:FIRST「Milli-Billi」「Grow Up」、AAAMYYY 「救世主」、K-POPグループのTIOT「Paradise」や DRIPPIN「MIRAI」などを手掛け、その手腕が高い評価を獲得。最近では韓国SMエンタテインメントのソングキャンプに参加するなど、国内外で活動の幅を広げている。ローリングストーン誌が気鋭アーティストを選定するグローバル連動企画「Future of Music」では「ジャンルや国籍の壁をぶち壊し、音楽シーンを活性化していく第一人者だろう」と評され、日本代表25組に選出。現在その唯一無二のエッジーさと革新性を伴うサウンド・プロダクションが各方面から注目を集めている。

Number_i - INZM (Official Music Video)

Number_i - GOAT (Official Music Video)


この記事の関連ニュース