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「仕事のせいで本が読めない」のは普通? 話題書が指摘する「現代人の働き方の問題点」

ニューズウィーク日本版 2024年8月30日 17時38分

flier編集部
<現代人が「本を読めない」最大の原因は、時間がないことではない。私たちの怠惰さゆえでもない。話題の書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』から理由を探る>

各所で話題となり、発売1週間で累計発行部数10万部を突破した『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆、集英社)。大手Web書店では1,000近くのレビューが集まり(2024年8月時点)、その他にも多くの感想記事や紹介記事が発表されている。「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」は、それだけ多くの人をドキッとさせ、答えを探したくさせる問いなのだろう。

今回は、読書家が集まる本の要約サービス「flier(フライヤー)」編集部が、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』に込められたメッセージを解説するとともに、本書と合わせて読んでほしい本を3冊挙げる。

 

◇ ◇ ◇

SNSや動画を見る時間はあるのに、本は読めない現代人

働きながらたくさんの本を読めている......現代においてそんな人はほとんどいないだろう。

その理由を問われると、おそらく多くの人は「時間がないから」と答えるはずだ。だが、本当に「時間がない」のだろうか?

すべてのSNSを一通り見て回る時間はあるのに?
自分の業界のニュースをチェックする時間はあるのに?
飲み会をハシゴする時間はあるのに?

つまり、私たちが本を読めない最大の原因は、時間がないことではない。私たちの怠惰さゆえでもない。日本社会の構造が「そうなっている」だけなのだ。

「いや、そもそも本が読めない働き方が普通とされている社会って、おかしくない!?」

──『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の冒頭において、著者の文芸評論家・三宅香帆さんはこう提起している。

私たちが「働いていると本が読めなくなる」本当の理由

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』では、明治以降の読書史と労働史を紐解きながら、「働いていると本が読めなくなる」と理由を探っていく。

その答えをひと言でいうと「インターネットなどによって手軽に得られる『情報』に対して、読書によって得られる『知識』にはノイズ(偶然性)が含まれるから」だ。

多忙なビジネスパーソンは、仕事や生活にすぐ役立つ「情報」を収集するだけで精一杯になっている。私たちは知りたい「情報」をインターネットで検索し、最短ルートで回答を得る。

一方、本には「ノイズ」、つまり今の自分に関係のない「知識」が多く含まれているため、すぐ役立つ「情報」を得たいときにはやや遠回りだ。現代の多忙なビジネスパーソンには、そのような「ノイズ」を楽しむ余裕などない。

実際、本の要約を提供する当メディアでも、コミュニケーション術や時短テクニック、投資の基本など、仕事や生活にすぐ役立つ「情報」が得られる(と表紙をパッと見てわかる)ビジネス書や実用書が人気を集める傾向にある。

来週、重要なプレゼンがあるとする。そんなとき、自分のプレゼンスキルをすぐ向上させてくれそうな本は読める。一方、小説やエッセイ、人文書には手が伸びづらい──。これが現代日本を生きるビジネスパーソンのリアルな姿だろう。

働きながら本が読める社会をつくるには?

本書の結論として、三宅さんは、「全身全霊」信仰をやめ、半身で働くことを提案している。最終章の記述を引用したい。

サラリーマンが徹夜して無理をして資料を仕上げたことを、称揚すること。
お母さんが日々自分を犠牲にして子育てしていることを、称揚すること。
高校球児が恋愛せずに日焼け止めも塗らずに野球したことを、称揚すること。
アイドルが恋人もつくらず常にファンのことだけを考えて仕事したことを、称揚すること。
クリエイターがストイックに生活全部を投げうって作品をつくることを、称揚すること。
──そういった、日本に溢れている、「全身全霊」を信仰する社会を、やめるべきではないだろうか?
半身こそ理想だ、とみんなで言っていきませんか。

常に、誰もが「全身全霊」が求められる社会からは抜け出そう。そして「仕事と両立させたい、仕事以外の時間」を楽しむ余裕を生み出そう。これが三宅さんからのメッセージだ。

 

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』とセットで読みたい3冊

最後に、「半身で働く」を実践するにあたってのおすすめ書籍を3冊紹介したい。ぜひ『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』とあわせて読んでもらえたらと思う。

『Joy at Work ジョイ・アット・ワーク』(近藤麻理恵/スコット・ソネンシェイン著、河出書房新社)

『人生がときめく片づけの魔法』の「こんまり」こと近藤麻理恵さんが「ときめく働き方」を教えてくれる一冊。

「ときめくかどうか」という観点は、「全身全霊を傾けるべき仕事か、それとも半身でかかわるべき仕事か」を見極める材料となるだろう。「仕事も人生も、自分の決断の積み重ねでできている」というフレーズは多くのビジネスパーソンに刺さるに違いない。

『限りある時間の使い方』(オリバー・バークマン、かんき出版)

80歳まで生きるとして、あなたの人生はたったの4000週間しかない──。本書はこの衝撃的な指摘からはじまる。

たった4000週間しかない貴重な人生を、あなたは何に使いたいだろう? 全身全霊をかけて仕事を頑張ってきた人に、ぜひ読んでほしい一冊だ。

『人生をガラリと変える「帰宅後ルーティン」』(リュ・ハンビン、文響社)

仕事を半身でさばけるようになって時間に余裕ができたら、あなたは何がしたいだろう?

本書は、獣医師として活躍しながらインフルエンサーとしても活動する著者が、誰もがわくわくするような「帰宅後ルーティン」を提案してくれる。本書を読めば「仕事は半身で終わらせて、『帰宅後ルーティン』のための時間を捻出しよう」と思うはずだ。

以上、話題の『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』に込められたメッセージと、本書とセットで読みたい3冊を紹介した。自分の人生の時間を大切にしたいなら、「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」という問いに向き合う時間を捻出してみてはどうだろう。

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flier編集部

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