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「ハリスの当選確率60%」は本当か?驚異的な勢いの正体は

ニューズウィーク日本版 2024年8月30日 12時45分

サム・ポトリッキオ
<ハリス出馬で予想外の巻き返しに成功した10の理由と、今後は失速する可能性について徹底分析する>

私はこの3年間、大学の学生たちに大統領選についてさまざまな問いを発してきた。イエスかノーかの問いを投げかけて、選挙に関する予測をいろいろ尋ねてきたのだ。

学生たちの回答は、ほとんどの問いでイエスとノーに大きく二分されたが、ある問いではほぼ全員の答えが一致した。その問いとは、「カマラ・ハリスは次期大統領になるか」というものだ。その確率は限りなくゼロに近いと、大多数の学生は考えていた。

しかし、状況が変われば、当然に思えていたこともたちまち変わる。ジョー・バイデン大統領が選挙戦撤退を表明した後、ハリス副大統領は後継者としての滑り出しに成功し、8月20日には民主党大会で正式に党の大統領候補に指名された。ハリスの現時点での当選確率は60%程度に達している。

ハリスが持つ強みと弱み

どうして、ハリスはそれまで選挙戦で劣勢だった民主党に勢いを取り戻し、アメリカ初の女性大統領の座に近づいているのか。その背景には10の強みがある。

◇ ◇ ◇

1)今回の大統領選の特徴は、多くの有権者がバイデンにも、対抗馬であるドナルド・トランプ前大統領にも嫌悪感を抱いていたことだ。しかし、バイデンの撤退により、棄権したり、2大政党以外の候補者に投票したりするつもりでいた有権者に、ハリスという新しい選択肢が生まれた。

2)選挙の結果は、主として候補者間の比較で決まる。これまでは、肉体面でも認知機能の面でもバイデンより健康に見えることがトランプの最大の強みになっていた。しかし、20歳近く年下のハリスと争うことになり、トランプは突如として自身が高齢批判にさらされる側になった。

3)トランプをいら立たせる対立候補として、女性であり、移民の子供でもあるハリス以上の存在はおそらくいない。影響は既に見え始めている。トランプは、ハリスの選挙集会に詰めかける聴衆の人数が気になって仕方がないようだ。

4)大統領選ではたいてい、未来志向のメッセージを打ち出した候補者が勝つ。著述家のデービッド・ブルックスが指摘しているように、この面でのトランプとハリスの違いは、この夏の共和党大会と民主党大会にくっきりと表れている。

トランプを大統領候補に指名した共和党大会は怒りのメッセージであふれていたのに対し、民主党大会は「民主党の女性を信じよう」「一緒に勝利を収めよう」「再び歴史をつくろう」といった前向きのメッセージに満ちていた。

5)ハリスは目覚ましい成長力を発揮している。演説中の身ぶり手ぶりに始まり、個人的なストーリーの用い方に至るまで、数年前に比べると候補者として格段に成長した。

私の学生たちは、ハリスに成長の余地がほとんどないと見なして、大統領になる可能性をほぼゼロと判断していた。しかし、そうした評価は間違っていたようだ。

6)ハリスは自分の弱点を心得ていて、苦手なことを徹底して避けている。事実上の民主党大統領候補になって1カ月余りの間に、一度も記者会見を行っていない。準備なしで質問に回答するのが苦手なため、ボロを出しかねない局面を極端に制限しているのだ。

7)ハリスは、トランプに対抗する上で有効な主張ができている。バイデンはトランプを邪悪な脅威と位置付ける主張を展開したが、ハリスはトランプの「奇妙」さを強調し、嘲笑している。

トランプは半世紀近くアメリカのセレブであり続け、国民によく知られている存在だ。そのような人物の人格を否定することは容易でない。そこで、ハリスはトランプの人格ではなく、ブランドを攻撃している。人格に対する評価はそうそう変わらないが、ブランドへの評価は変わりやすい。

8)2008年の金融危機に端を発する大不況以降、アメリカ人の間には「変化」を求める思考が根強くある。ハリスはトランプに比べて未知の存在であり、年齢も若いので、現職の副大統領という立場にありながら、自身を変化の担い手と位置付けやすい。

9)バイデンは政策を訴える際、トランプの危険性を強調していた。それに対して、ハリスは有権者を中心に据えたメッセージを発し、大衆迎合的な経済政策を前面に押し出している。有権者を主役と位置付けているのだ。

10)アメリカの社会には、新しいリーダーやフレッシュなリーダーを欲する思いが鬱積している。その点に関して言えば、トランプは過去を体現する存在と言わざるを得ない。

選挙戦がバイデン対トランプという図式だったときは、バイデンがトランプの危険性を強調しても、有権者にあまり強い印象を与えられなかった。有権者は、現職大統領の健康問題を心配することにも辟易していたからだ。しかし、ハリスがトランプの対抗馬になったことで状況は一変した。

◇ ◇ ◇

ハリスはこのように数々の強みを持っているが、それらは全て、比較的未知の存在であることに基づくものだ。選挙まではまだ2カ月ある。有権者がハリスについて多くのことを知るにつれて、見方が変わってくるかもしれない。

実際、ハリスは4年前の大統領選に名乗りを上げたときも、民主党の候補者指名レースの序盤では最注目の候補者とみられていた。ところが、その後たちまち失速して、早々に身を引くことになった。

今はハリスが勢いに乗っているが、見過ごせないのは、この1カ月でトランプも支持率を1ポイント伸ばしていることだ。ワシントン・ポスト紙とABCテレビの世論調査では、トランプの支持率が43%から44%に上昇している。

それに、ハリスがバイデンよりも支持率を伸ばしたのは主として、民主党でも共和党でもない無所属で立候補していたロバート・ケネディJr.の支持者を奪った結果と見なせる。バイデンが撤退を表明してハリスが事実上の民主党大統領候補になって以降、民主党大統領候補の支持率は42%から47%に上昇し、ケネディの支持率は9%から5%に下落している。

8月23日、ケネディが選挙戦から撤退し、トランプを支持すると表明した。そうなると、本稿で論じたハリスの強みの多くが弱まりかねない。

では、誰が大統領選の勝者になるのか。私は現時点でまだ選挙結果にお金を賭ける気にはなれない。


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