Infoseek 楽天

「カブール陥落」から3年...英国最後の駐アフガン大使はその時、何を考えたか

ニューズウィーク日本版 2024年8月29日 21時0分

木村正人
<21年8月、崩れ落ちるようにアフガニスタンから撤退した米国と同盟国の軍隊。当時の駐アフガン英大使がその時を語る>

[ロンドン発]米欧諸国が崩れ落ちるようにアフガニスタンから撤退してから3年になる。イスラム原理主義武装勢力タリバンが支配権を掌握する中、英国政府は11日間で1万5000人以上のアフガニスタン人と英国人をカブール国際空港から空路、脱出させた。

■【動画】閲覧注意:命懸けで離陸する米軍機に取り付き、落下したアフガンの男たち

首都カブールは2021年8月15日、陥落した。英国最後の駐アフガニスタン大使ローリー・ブリストウ氏(現ケンブリッジ大学ヒューズ・ホール校長)は近著『カブール:ファイナル・コール アフガニスタン撤退の内幕 2021年8月』で私たちが学ぶべき教訓について記している。

事態が急変する前、ブリストウ氏はアフガンのアシュラフ・ガニ大統領(国外脱出)といかに共和国を存続させるかについて協議していた。

物事がうまくいかない時にどう対処するか。成功と失敗は何を意味するのか。「この2つの間にある境界線は非常に微妙だ」とブリストウ氏はいう。

「政策と戦略の大失敗、それ以上のものだった。アフガンの人々、アフガンに安定と安全をもたらそうと20年にわたる作戦に携わってきたすべての人々にとっての人間的悲劇だった。何が起きたのか、なぜ起こったのかを理解する必要がある」(ケンブリッジ大学のホームページより)

「最も困難で危険な状況だった」

「私たちの誰もが直面したことのない最も困難で危険な状況だった」とブリストウ氏は振り返る。

空港のコントロールを維持し、避難を管理するために必要な部隊と支援は到着しつつあった。数千、数万の絶望的な人々がフェンスを乗り越え、滑走路を横切り、ターミナルを占拠し、離陸しようとする飛行機にしがみついていた。空中で振り落とされて命を落とした人もいる。

阿鼻叫喚のカオスが繰り広げられた。米欧諸国のために働き、タリバンが支配するアフガンに留まれば命が危険にさらされるアフガンの人々を避難させなければならない。避難が終わる直前、空港のゲートで爆弾テロが起きた。米兵13人と約170人のアフガン市民が死亡した。

アフガンの国家と軍隊は米国と同盟国の軍のプレゼンスに依存していた。米軍が撤退する条件が整えられていなかったため、米国と同盟国の軍が撤退すると体制はたちまちのうちに崩壊した。8月14~30日の短期間に米欧諸国はカブール国際空港から計12万3000人以上を脱出させた。

致命的な問題を抱えていたトランプとタリバンの協定

「私たちは01年の米同時多発テロの後、アフガンに軍隊を送り込んだ。20年の間に国際テロ組織アルカイダを打ち負かし、タリバンを倒し、近代的な民主主義国家を建設しようとした。その過程で457人の英兵士を失った。数え切れないアフガンの人々が死に、私たちは失敗した」

ドナルド・トランプ米大統領(当時)とタリバンの協定は米軍主導の軍隊が撤退するスケジュールを設定したものの、タリバンに対してアフガン政府への軍事作戦を中止することや和平交渉に真剣に取り組む条件を設けなかったという致命的な問題を抱えていた。

しかし、米国と同盟国は大惨事になることが明らかであったにもかかわらず、撤退を強行した。政治や軍事の専門家が事前に警告を発していたにもかかわらずだ。ブリストウ氏によると、避難を手伝うボランティアを募集したところ、定員を上回るボランティアが集まった。

「これまで一緒に働いてきた人たちについて考える時、思い浮かぶ言葉は明確な目的、誠実さ、正直さ、謙虚さ、勇気だ。何をするかというだけでなく、どうするか、この質問に正解はない。一人ひとりが、何が良くて何が良くないと思うのか、自分なりの言葉を持っているはずだ」

ブリストウ氏は、人はそれぞれ生きていく上での価値観を持っているという。

「緊急事態の準備は何カ月も、場合によっては何年も前からしておくべきだ。チームの作り方、周囲の能力の高め方、メンバー間の信頼関係の築き方に先行投資する必要がある。強い前向きな文化があれば、どんなことでも達成できる。そうでなければ失敗する」と語る。

外交とは何のためにあるのか

ブリストウ氏の外交官時代にイラクとアフガンという2つの大きな軍事介入が行われた。対テロ戦争という大義を掲げながら、そのどちらも大失敗し、英国はこれからも、その結果を直視していくことになる。

ブリストウ氏はケンブリッジ大学のホームページに外交と避難作戦に携わった人々について次のように記している。

「外交とは何のためにあるのか。短い答えは『実行可能な政治的解決策を見つけること』だが、実行するのは難しい。何を望んでいるのか、それを得るために何を支払う用意があるのか、何を妥協する用意があるのかを明らかにする必要がある。これが外交交渉の基本だ」

アフガン外交は政治の間で破綻した。「避難支援のためにカブールに行った人々は重い代償を払った。しかし最も重要なのは、彼らはなぜそうするのかを知っていたことだ。何をすべきかを知っていて、それを自ら進んでやったのだ」。大失敗の中に人間の輝きがあった。

「私が学んだのは、人は信じられないようなことができるということだ。避難させられる人数はせいぜい5000人と見積もっていた。しかし実際には1万5000人以上の人々に安全と新しい人生のチャンスをもたらすことができた」とブリストウ氏は無名の英雄たちを称えている。


この記事の関連ニュース