マリー・ボラン
<イーロン・マスクとブラジル当局の数カ月にわたる緊張状態の末、ブラジル全域で「禁止」されることになったX(旧ツイッター)。各国で規制が進むが、停止命令を出す国は出てくるのか──>
ブラジルの最高裁判所は8月30日、ソーシャルメディアのX(旧ツイッター)に対し、同国内でのサービスを即時停止するよう命じた。こうした禁止措置が他の国、とりわけアメリカと欧州でも取られる可能性はあるのだろうか。
ブラジル最高裁は電気通信事業を規制する政府機関に対して、2億1200万人が住むブラジル全域でXをシャットダウンするよう命じた。Xが裁判所命令違反を繰り返し、ヘイトスピーチと偽情報を拡散させたことを理由として挙げている。
停止命令は8月31日に実施されたが、その日に至るまでの数カ月間、Xを所有するイーロン・マスクとブラジル当局の間では、コンテンツモデレーション(投稿コンテンツの監視・排除)の取り組みを巡って緊張が高まっていた。
ブラジル最高裁は停止命令解除の条件として、Xがすべての法規定に従うこと、未払い分の罰金を支払うこと、ブラジルでの法定代理人を任命することを挙げた。
ブラジル国内でXにアクセスした人はすべて、VPN接続であっても1日当たり5万レアル(約130万円)の罰金が科せられる可能性がある。本誌はXにメールでコメントを求めている。
「自由の国」アメリカではどうなるか?
一方、アメリカでは合衆国憲法修正第1条で言論の自由が強力に保護されている。とはいえ、ソーシャルメディア運営企業だからといって、規制を完全に免れられるわけではない。
例えば、Xは2023年9月、ソーシャルメディア・プラットフォームに対するコンテンツモデレーション取り組みの公開を義務付けたカリフォルニア州法が、言論の自由を侵害するとして訴訟を起こしたが、同年12月に訴えを退けられた。
カリフォルニア州法は、相応の年間売上高があるソーシャルメディア運営企業に対し、コンテンツモデレーションへの取り組みを詳細に記した報告書を半期ごとに提出するよう義務付けている。
報告書には、好ましくない投稿数とそれらに講じた措置について、データを明記しなければならない。カリフォルニア州連邦地方裁判所判事ウィリアム・シャブは、Xが同法を凍結するよう求めた訴えを退け、次のように述べた。
「報告義務は、ソーシャルメディア運営企業にかなりのコンプライアンス負担を強いるように思われるが、合衆国憲法修正第1条の文脈においては、この報告義務が不当である、あるいは過度の負担になるとは考えられない」
ただし、部分的であろうとなかろうと、ソーシャルメディアがブロックされる可能性がまったくないとは言えない。
「アメリカに関しては、ひとつの州が他州へのサービス提供を非合法化する試みは不可能ではない。こうした状況は、複数州で禁止されたポルノサイトなどですでに起こっている(ただし、こうした州の動きを裁判所が支持するかについては、さまざまなケースがある)」
アイルランドの大学、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(UCD)サザーランド法科大学院のT・J・マッキンタイア准教授は、本誌に対してそう語った。
「しかしながら、こうした禁止措置はサイトが自らユーザーの位置を特定し、そうした州にいるユーザーからのアクセスを拒否するかたちで実施されることが多い。合衆国憲法修正第1条の下では、インターネットプロバイダーに対して、そうしたサイトへのアクセスをブロックするよう義務付けることはきわめて困難だ。それに、X(旧ツイッター)などの一般向けソーシャルメディアサイトに対し、アメリカの裁判所がそうした命令を下すことは考えられない」とマッキンタイアは話す。
EU高官は「X禁止もあり得る」と警告
欧州では、ソーシャルメディア・プラットフォームに対する規制が厳しさを増している。欧州連合(EU)は2022年11月、デジタルサービス法(DSA)を施行した。
この法律は、オンラインプラットフォームに対して、コンテンツモデレーションとユーザーの安全性について厳格なルールを定めている。
EU上級代表サンドロ・ゴジ(仏マクロン大統領率いる政党「再生」所属で欧州議会選区から選出)は8月、Xがデジタルサービス法を順守しなければ、欧州で禁止される可能性があると警告した。
コンプライアンス違反の場合は巨額の罰金が科され、欧州運営業者によるブロックもあり得ると、ゴジは述べている。
デジタルサービス法は、欧州のオンライン仲介サービス事業者すべてに適用されている。また、欧州で暮らす4億5000万人の10%以上にサービスを提供している、「非常に大規模なオンラインプラットフォーム(VLOP)」に対しては、いっそう厳格なルールが設定されている。
VLOPには具体的な義務が課されており、違法コンテンツの拡散や社会的危害などの全体的リスクを緩和しなければならない。
マッキンタイアが本誌に説明したところによると、EUにはデジタルサービス法に限らず、ほかの種類の違法コンテンツに関連した規則もある。
「例えばアイルランドでは、国内でのサービス提供許可を得ていない海外の賭博サイトをブロックする法律が定められている。ウクライナ侵攻を受けた制裁措置の一環として、ロシア国営メディアのサイトもブロック対象だ」
ブラジルにおけるXのサービス停止措置、EU高官からの警告、コンテンツモデレーションの取り組みについて公開を定めたカリフォルニア州法。これらを踏まえれば、各政府がソーシャルメディア・プラットフォームをいっそう厳しく規制する流れが強まっていることは明らかだ。
偽情報やヘイトスピーチ、そして、世論に対する大手テックの大きすぎる影響力に対する懸念から生まれたこのような変化は、まだ始まったばかりなのかもしれない。
(翻訳:ガリレオ)
<イーロン・マスクとブラジル当局の数カ月にわたる緊張状態の末、ブラジル全域で「禁止」されることになったX(旧ツイッター)。各国で規制が進むが、停止命令を出す国は出てくるのか──>
ブラジルの最高裁判所は8月30日、ソーシャルメディアのX(旧ツイッター)に対し、同国内でのサービスを即時停止するよう命じた。こうした禁止措置が他の国、とりわけアメリカと欧州でも取られる可能性はあるのだろうか。
ブラジル最高裁は電気通信事業を規制する政府機関に対して、2億1200万人が住むブラジル全域でXをシャットダウンするよう命じた。Xが裁判所命令違反を繰り返し、ヘイトスピーチと偽情報を拡散させたことを理由として挙げている。
停止命令は8月31日に実施されたが、その日に至るまでの数カ月間、Xを所有するイーロン・マスクとブラジル当局の間では、コンテンツモデレーション(投稿コンテンツの監視・排除)の取り組みを巡って緊張が高まっていた。
ブラジル最高裁は停止命令解除の条件として、Xがすべての法規定に従うこと、未払い分の罰金を支払うこと、ブラジルでの法定代理人を任命することを挙げた。
ブラジル国内でXにアクセスした人はすべて、VPN接続であっても1日当たり5万レアル(約130万円)の罰金が科せられる可能性がある。本誌はXにメールでコメントを求めている。
「自由の国」アメリカではどうなるか?
一方、アメリカでは合衆国憲法修正第1条で言論の自由が強力に保護されている。とはいえ、ソーシャルメディア運営企業だからといって、規制を完全に免れられるわけではない。
例えば、Xは2023年9月、ソーシャルメディア・プラットフォームに対するコンテンツモデレーション取り組みの公開を義務付けたカリフォルニア州法が、言論の自由を侵害するとして訴訟を起こしたが、同年12月に訴えを退けられた。
カリフォルニア州法は、相応の年間売上高があるソーシャルメディア運営企業に対し、コンテンツモデレーションへの取り組みを詳細に記した報告書を半期ごとに提出するよう義務付けている。
報告書には、好ましくない投稿数とそれらに講じた措置について、データを明記しなければならない。カリフォルニア州連邦地方裁判所判事ウィリアム・シャブは、Xが同法を凍結するよう求めた訴えを退け、次のように述べた。
「報告義務は、ソーシャルメディア運営企業にかなりのコンプライアンス負担を強いるように思われるが、合衆国憲法修正第1条の文脈においては、この報告義務が不当である、あるいは過度の負担になるとは考えられない」
ただし、部分的であろうとなかろうと、ソーシャルメディアがブロックされる可能性がまったくないとは言えない。
「アメリカに関しては、ひとつの州が他州へのサービス提供を非合法化する試みは不可能ではない。こうした状況は、複数州で禁止されたポルノサイトなどですでに起こっている(ただし、こうした州の動きを裁判所が支持するかについては、さまざまなケースがある)」
アイルランドの大学、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(UCD)サザーランド法科大学院のT・J・マッキンタイア准教授は、本誌に対してそう語った。
「しかしながら、こうした禁止措置はサイトが自らユーザーの位置を特定し、そうした州にいるユーザーからのアクセスを拒否するかたちで実施されることが多い。合衆国憲法修正第1条の下では、インターネットプロバイダーに対して、そうしたサイトへのアクセスをブロックするよう義務付けることはきわめて困難だ。それに、X(旧ツイッター)などの一般向けソーシャルメディアサイトに対し、アメリカの裁判所がそうした命令を下すことは考えられない」とマッキンタイアは話す。
EU高官は「X禁止もあり得る」と警告
欧州では、ソーシャルメディア・プラットフォームに対する規制が厳しさを増している。欧州連合(EU)は2022年11月、デジタルサービス法(DSA)を施行した。
この法律は、オンラインプラットフォームに対して、コンテンツモデレーションとユーザーの安全性について厳格なルールを定めている。
EU上級代表サンドロ・ゴジ(仏マクロン大統領率いる政党「再生」所属で欧州議会選区から選出)は8月、Xがデジタルサービス法を順守しなければ、欧州で禁止される可能性があると警告した。
コンプライアンス違反の場合は巨額の罰金が科され、欧州運営業者によるブロックもあり得ると、ゴジは述べている。
デジタルサービス法は、欧州のオンライン仲介サービス事業者すべてに適用されている。また、欧州で暮らす4億5000万人の10%以上にサービスを提供している、「非常に大規模なオンラインプラットフォーム(VLOP)」に対しては、いっそう厳格なルールが設定されている。
VLOPには具体的な義務が課されており、違法コンテンツの拡散や社会的危害などの全体的リスクを緩和しなければならない。
マッキンタイアが本誌に説明したところによると、EUにはデジタルサービス法に限らず、ほかの種類の違法コンテンツに関連した規則もある。
「例えばアイルランドでは、国内でのサービス提供許可を得ていない海外の賭博サイトをブロックする法律が定められている。ウクライナ侵攻を受けた制裁措置の一環として、ロシア国営メディアのサイトもブロック対象だ」
ブラジルにおけるXのサービス停止措置、EU高官からの警告、コンテンツモデレーションの取り組みについて公開を定めたカリフォルニア州法。これらを踏まえれば、各政府がソーシャルメディア・プラットフォームをいっそう厳しく規制する流れが強まっていることは明らかだ。
偽情報やヘイトスピーチ、そして、世論に対する大手テックの大きすぎる影響力に対する懸念から生まれたこのような変化は、まだ始まったばかりなのかもしれない。
(翻訳:ガリレオ)