Infoseek 楽天

極右「ドイツのための選択肢」が地方選で「歴史的」勝利...東西の分断はドイツに何をもたらすのか?

ニューズウィーク日本版 2024年9月3日 18時52分

木村正人
<極右政党「ドイツのため選択肢」(AfD)が東部テューリンゲン州議会選で第1党、ザクセン州議会選で第2党に>

[ロンドン発]ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が東部テューリンゲン州とザクセン州の議会選でそれぞれ第1党、第2党になった。他政党はAfDとは距離を置いているため、政権樹立または政権入りする可能性は極めて低い。

テューリンゲン州(定数88)でAfdは32議席(得票率32.8%)でキリスト教民主同盟(CDU)の23議席(同23.6%)を抑え第1党。AfDがドイツの州議会選で第1党になるのは初。ザクセン州(定数120)では40議席(同30.6%)でCDUの41議席(同31.9%)に次ぐ第2党になった。

テューリンゲン州とザクセン州はドイツ再統一で産業構造が転換し、深刻な経済的混乱を経験した。

2013年に反ユーロ(欧州単一通貨)政党として設立されたAfDは2年後の欧州難民危機で大きく右傾化した。そのレトリックや政策が極右過激主義と結びついていることが不安をかきたてる。

「ホロコースト記念碑は『恥ずべき記念碑』」

ドイツの民主主義への脅威を監視する連邦憲法擁護庁(BfV)は昨年、AfDの青年団「ヤング・オルタナティヴ」を極右過激派組織と認定。ザクセン州とテューリンゲン州のAfD支部も極右過激派組織と認定されている。にもかかわらず州議会選で歴史的な大成功を収めたのはなぜか。

テューリンゲン州のビョルン・ヘッケAfD党首はナチス時代のレトリックを使い、極端な民族主義・極右的見解で物議を醸してきた。ベルリンのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)記念碑を「恥ずべき記念碑」と呼び、ナチスの過去を「180度逆転」させるよう提唱した。

ヘッケ氏はナチスの準軍事組織ナチスSA(突撃隊)のスローガン「ドイツのためにすべてを」を使用したとして何度も有罪判決を受け、罰金を科せられている。ドイツの裁判所はヘッケ氏を 「ファシスト 」と呼んでも名誉毀損に当たらないとの判決を下している。

ドイツ政治において極右過激主義は常態化した

極右過激派組織としてBfVの厳重な監視下に置かれる中、AfDは6月の欧州議会選(定数96)でも15議席(得票数15.9%)を獲得、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)の29議席(同30%)に次ぐ2位につけた。ドイツ政治において極右過激主義は常態化したと言える。

ヘッケ氏は「私たちは歴史的な結果を達成した。まだ若い党の歴史の中で初めてAfDは州議会で最強の勢力となった。私は大きな、大きな誇りと満足感で満たされている」と勝利宣言した。自党抜きの連立政権樹立は「テューリンゲン州にとって良いことではない」と警告した。

英紙ガーディアン(9月1日)は「極右AfDの成功が示す東西ドイツの分断」というフィリップ・オルターマン欧州文化担当編集者の分析を掲載した。「旧東独地域の有権者は自らの政治的アイデンティティーを主張している」(オルターマン氏)

旧東独と旧西独はますます離れている

「1989年11月にベルリンの壁が崩壊した後、かつての西ドイツ首相ヴィリー・ブラントは統一によって『共に属するものが共に成長する』と予言した。その有機的な癒し(筆者注:自然で無理のない統合)のイメージは35年経った今、なんと楽観的に聞こえるだろう」(同)

今回の歴史的な選挙結果は旧東独と旧西独がますます離れていくドイツの姿を描き出しているという。来年のドイツ連邦議会選に向けた世論調査でAfDの支持率は19%で、CDU/CSUの31%に次ぐ2位。AfDの支持者は旧東独地域に大きく偏っている。

首都ベルリンを囲むブランデンブルク州でも9月22日に州議会選が行われる。直近の世論調査ではAfDが24%と、連邦政府与党の社会民主党(SPD)の20%を引き離す。AfDの台頭は所得・雇用・生活水準における固定化した格差が原因なのか。

東独出身者が抱く社会的、政治的な喪失感の裏返し

この2年間、テスラやインテルなどのグローバル企業が東独地域に工場をつくったため、東部の州の経済は西部の州よりも急速に成長していると前出のオルターマン氏は指摘する。

東独出身の社会学者シュテフェン・マウ氏は近著『不平等な統一』で、再統一により東独はやがて西独に同化するという前提に異議を唱える。それは経済のグローバル化によって中国やロシアはやがて米欧の自由と民主主義のシステムに融合するという誤った前提とパラレルを成す。

再統一後も旧東独のメンタリティーやアイデンティティーは旧西独とは異なるままだとマウ氏は指摘する。

こうした文化や伝統の違いを上手く汲み取ったAfDは旧東独で成功を収めている。AfDの台頭は東独出身者が抱いている社会的、政治的な喪失感の裏返しでもあるのだ。


この記事の関連ニュース