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東京のバリアフリーは世界トップクラス......あの点が改善されればさらに素晴らしくなる

ニューズウィーク日本版 2024年9月12日 10時58分

西村カリン(ジャーナリスト)
<パラリンピックが開催されたパリは、実は身体の不自由な人に優しくない街。パリと違って東京はあらゆる面でバリアフリーが進んでいるが......>

パリでのパラリンピック開催がきっかけで、いかにパリが身体の不自由な人にとって優しくない大都市であるかが改めて話題になった。エレベーターが整備されている市内の地下鉄や電車の駅はなんと14%にすぎない。あるのは主に新線の新駅だ。

東京では真逆だ。調べてみたら、東京都にある756駅の98%はバリアフリールート(駅出入口からホームまで段差なく移動できる経路)が整備されている。エレベーターはもちろんだが、最近は転落防止のためのホームドアも次々と整備されている。

東京のほうがこんなに進んでいるのは、たぶん1990年代からのバリアフリーなどに関する法整備に加えて、建物の建て替えやリフォームが多いから。パリの場合、障害者のモビリティー(可動性)への意識が低いことと同時に、建物の構造的にも難しい。100年前に設計された駅にはエレベーターを設置する場所がないし、工事をしたら崩壊してもおかしくない。

多くの外国人と同じように、私も日本で初めて駅員が電車のドアの前に車椅子のためのスロープ板を広げるのを見た際、驚いたしすごいと思った。日本のサービスの完璧さを象徴するものだ。

フランスに行った日本人がいつも困るのは「公衆トイレがない」ことだ。万が一あったとしても汚いし、故障中だったり治安が悪かったりして使えないことも多い。日本はトイレの整備の面でも完璧だ。どこに行ってもあるし、しかも最近は「多目的トイレ」も多い。身体の不自由な人々だけでなく、赤ちゃんを連れている親にも使いやすい。地下鉄の駅でもおむつを簡単に交換できる。日本人からすると当たり前のことだろうが、パリの地下鉄のトイレで赤ちゃんのおむつを交換するのはほぼ考えられないことだ。

東京のタクシーもすごく良くなったと思う。ユニバーサルデザインのタクシーは、子供からお年寄りまでとても乗りやすい。パリではずっと前から高級なドイツ車のタクシーが多いが、どちらかというと乗るのも降りるのも大変だ。車椅子なら、絶対に乗れないだろう。

東京では視覚障害者誘導用の点字ブロックが駅だけでなく駅周辺、公共施設や商店街などでも一般的だ。その面で、日本はトップクラスだと言える。私は最近、フランス・インター(ラジオ・フランスの総合ラジオ局)の番組で視覚障害者の記者と対談したが、私が東京でのバリアフリーとユニバーサルデザインの推進について説明したら、「羨ましい」と彼女は言っていた。

ただ、点字ブロックなどほとんどないパリでどう生活できるのかと彼女に聞いたら、少し驚いた答えが返ってきた。複数の障害者が主人公である話題の映画『Un p'tit truc en plus(ちょっとしたプラスアルファのこと)』(アールタス監督)やパラリンピックについての報道のおかげで、最近は障害者に対する社会の目が変わったという。駅やお店、公共施設で障害者に優しい態度を示す人々が増えてきた。

「以前は嫌な顔をされたり、『大変だ、障害者が来た。どうしよう』みたいな対応が普通だったが、今はすぐに案内やお手伝いをしてくれる」と、彼女は説明した。街の不便さはあるが、人の心が優しくなった。

東京では逆に、設備がいいので障害者の自立モビリティーが可能になっている半面、社会の目はいまだに厳しいのではないかと思う。若者がスマートフォンの画面ばかり見ていてお年寄りや身体の不自由な人に優先席を譲らない、車椅子の人が困っていても無視される、そういった場面はまだ多い。既に素晴らしいハード面があるのだから、ぜひソフト面(社会の優しさ)も改善してほしい。

西村カリン
KARYN NISHIMURA
1970年フランス生まれ。パリ第8大学で学び、ラジオ局などを経て1997年に来日。AFP通信東京特派員となり、現在はフリージャーナリストとして活動。著書に『フランス人記者、日本の学校に驚く』など。Twitter:@karyn_nishi

『Un p'tit truc en plus(ちょっとしたプラスアルファのこと)』予告編



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