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【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元で7ゴール見られてお得」日本に大敗した中国ファンの本音は...

ニューズウィーク日本版 2024年9月6日 14時20分

高口康太(ジャーナリスト)
<日本代表が圧勝したW杯最終予選をスタジアムの「中国代表応援席」で観戦。日本をお手本にした中国サッカーの惨状に、サポーターたちはどう思った?>

「自由がないと、サッカーは強くならないんだろうね」

9月5日、埼玉スタジアム2002で、サッカー・ワールドカップ26アジア最終予選、日本代表対中国代表の一戦が行われた。結果は7対0で日本代表が圧勝、W杯出場に向けて最高のスタートを切った。

私もこの試合を現地で観戦してきた。しかも、中国代表の応援席で。

これには理由がある。以前、野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でも韓国対中国の試合を中国側応援席で観戦したのだが、これがすこぶる面白かった。

野球のルールをわからない中国人たちが頭に疑問符を浮かべながら一生懸命応援する姿を見たり、中国代表の内野守備がダメダメであることを見抜いた韓国がバントヒットを決めまくる姿に「弱い者イジメはやめろ!」とブーイングを飛ばしたりという体験は貴重だった。

今度はサッカーに行こうぜ、と友人のルポライター、安田峰俊さんにお誘いを受けたので10年ぶりぐらいにサッカー観戦をした次第だ。

中国代表応援席は満員だった 写真:高口康太

ネットではブーイング、現地サポーターは「あきらめずに応援」

中国代表応援席は満員で、キックオフぎりぎりに入場した私は席が見つけられないほど。この試合のために中国からやってきたサポーターも相当数いたようだ。

ただ、試合が始まると、日本代表の猛攻が続き、中国が攻めるシーンはほとんど見られない。守って守ってセットプレーで得点、がゲームプランだと中国メディアは報じていたが、ここまでズタズタにされるのは想定外だったろう。前半だけで日本代表が2得点。ハーフタイムにはあきらめて帰宅する中国人サポーターが続出、後半に入り3点目、4点目が決まるとスタンドはがらがらに。

それでも中国本土からやってきた、コアな中国人サポーターは最後まで残って応援していた。試合後にサポーターのリーダーからは「あきらめずに応援しよう」との暖かいメッセージ。残っていたサポーターで中国国歌を歌って帰路に就いた。

■泣きながら「踢人」ならできるやろ... 応援席の様子を伝える動画

とはいえ、現場のサポーターの穏やかさに反して、ネットではブーイングの嵐。直接的に叩くのではなく、あきらめの境地に達した自虐ジョークが目立つ。

「試合放棄だと0対3での負け扱いになるんだよね。だったら......」
「CCTV(中国中央電視台)の無料中継がなかった理由がわかったわ」
「有料放送で見たが、10元(約200円)で7ゴールも見られたのでお得」
「日本のゴールキーパー、どんな顔していた? 見る機会がなかったわ」
「中国代表は警察に通報すべき。日本代表が一方的に殴ってきて、こちらは一切手出しをしてない。裁判沙汰になればこっちの勝ちだ!」

「三笘は...、久保は...」元サッカーメディアのAさんが漏らした言葉

試合場で知り合ったAさんもその一人だ。「中国代表は根性ゼロや」「崩壊した」と嘆きが止まらない。

彼は結婚したばかりで、新婚旅行を兼ねて試合を見に来たという。中国で代表戦を見に行くと、良い席は1人数万円になるという。日本に来れば、同じぐらいの金額で試合も見られて旅行も楽しめるとやってきた。

もっとも、奥さんはサッカーにはまったく関心がなさそうだった。漢服(中国の伝統衣装)マニアで、京都、奈良の古都で写真を撮るのが楽しみだという。試合会場にも仙女のような衣装でやってきていた。

サッカーに興味ゼロの奥さんを一切気にすることなく、Aさんは「三笘はやばい選手だ。あのドリブルは...(以下略)。久保はスペインで活躍している選手で抜群にテクニックが...(以下略)。日本代表相手に1点入れられれば御の字だが、日本を完封するのは至難の業。では中国代表はどう戦うべきか、まず...(以下略)」と熱くサッカートーク。この新婚旅行中にケンカが起きることは必至だろう。

さて、このAさんはメディア関係者で、かつてはサッカーメディアでも働いていたという。その彼がぽろっと話したのが冒頭の言葉、「自由がないと、サッカーは強くならないんだろうね」だ。

習近平総書記のサッカー好きは有名な話で、「中国代表がワールドカップに出場すること、中国がワールドカップを開催すること、そして、いつの日かワールドカップで優勝すること、これが私の望みだ」とも発言したこともある。

というわけで、総書記の夢をかなえるべく、国をあげてのサッカー強化がはじまったのだが、お手本となったのが日本だった。

習近平総書記「サッカー改革発展総体ソリューション」の結末

五輪のメダル数だけ見れば、中国は立派なスポーツ大国。ソ連や東ドイツで確立した、有望な若者を幼い頃から徹底的に鍛え上げる社会主義流強化策で成功を納めてきた。

だが、サッカーやバスケットボールなど世界に愛好家が多い人気球技の成績はいまいち。こうした種目で強くなるためには競技人口そのものを増やす必要があると提唱された。そこで模範とされたのが日本の部活動だ。

かくして2015年に「中国サッカー改革発展総体ソリューション」なる法律が公布され、「サッカー特色学校」という制度が導入されることとなった。この指定を受けた学校は、日本の部活動よろしく学校でサッカーに取り組むという内容だ。

2025年までに5万校が指定されるという壮大な計画である。総書記の言うことは絶対、この習近平パワーで一気に中国代表は強化されると喜んだ中国人サッカーファンも少なくなかった。

が、あれから9年、中国代表は強化されるどころか弱体化する一方である。かつては禁じ手としていた外国籍から中国籍に国籍を変えた帰化選手も解禁したのだが、まったく結果は伴っていない。

結局は外見だけマネしてもダメ、自由がないという国の根幹がサッカーに反映されているのではないかとAさんは話していた。

この見解が正しいのか間違っているのかはともかくとして、「総書記パワーで中国サッカー強化」、このプランはほぼ失敗したのではないか。前述のサッカー特色学校も、今年5月発表で5734校にとどまっている。2015年の制度導入初期からほぼ増えていない。つまり、「2025年までに5万校」の目標達成は困難だろう。

経済も外交もうまくいかず、趣味のサッカーまでも失敗。習近平総書記も大変だ。

[執筆]
高口康太(たかぐち・こうた)
ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版新書)、『プロトタイプシティ』(共著、KADOKAWA、2021年大平正芳記念賞特別賞受賞)、『中国「コロナ封じ」の虚実』、『中国S級B級論――発展途上と最先端が混在する国』(編著、さくら舎)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)など。

■中国代表応援席の様子を伝える動画

pic.twitter.com/oFGj70Jeyi— 李老师不是你老师 (@whyyoutouzhele) September 5, 2024

中国代表応援席には、20世紀中国軍の軍服を着た男性が登場し、ハンドマイクでこう呼び掛けていた。「中国共産党中央宣伝部は次の3つの言葉を伝えています。完成できない任務があるなんて信じるな! 克服できない困難があるなんて信じるな! 倒せない敵がいるなんて信じるな」

pic.twitter.com/5pCye68MUw— 李老师不是你老师 (@whyyoutouzhele) September 5, 2024

試合後、ショックを受けた中国人サポーターが泣きながら絞り出した言葉。「闘志がなさすぎるで。踢不過(サッカーで勝てない)でも、踢人(人を蹴る)ならできるやろ。あいつら、あんなに欧州組が多いんだから、怪我は恐いはずだって。あんなにのびのびプレーさせたら、あかんって」



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