サム・ポトリッキオ
<選挙の立候補者たちが花粉症を政策課題として十分に重んじていない現状は不可解と言うほかない>
写真判定レベルの大接戦が予想される11月のアメリカ大統領選では、一見すると極めて些細な要素が勝敗を左右しかねない。直近の2回の大統領選でカギを握ったのは、一部の激戦州の10万人に満たない有権者の投票行動だった。その点を考えると、「花粉症との戦い」を公約に掲げる候補者が登場してもいいはずだ。
実はアメリカでも、有権者の4人に1人がこの厄介なアレルギー症状に苦しんでいる。しかも、気候変動の影響により、患者の数は増加の一途をたどると、大半の科学者は確信している。花粉症シーズンは春~夏で、大統領選の投票日とは重ならないが、この症状に苦しんでいる人たちにとっては、税制や外交、犯罪対策といった定番の政治課題よりはるかaに深刻な問題に感じられても不思議でない。
アメリカでは、カンザス州ウィチタが花粉症患者にとって最悪な場所であり、バージニア州バージニアビーチ、サウスカロライナ州グリーンビル、テキサス州ダラス、オクラホマ州オクラホマシティー、バージニア州リッチモンドなどが続く。
無視できない花粉症格差
国を問わず、21世紀の政治における重要テーマの1つは格差だ。実は、花粉症をめぐっても格差が存在している。
私はドイツの大学でも教えているのだが、ドイツでは花粉症患者の割合がアメリカよりかなり小さく、成人の10人に1人程度にとどまっている。この割合は、アメリカでは前述のように4人に1人、イギリスでは3人に1人。日本では4~5割くらいだ。一方、私が暮らしていたロシアでは、20人に1人にすぎない。
日本では、花粉症シーズンの最盛期には労働者の生産性の低下により1日当たり10億ドルを優に上回る経済損失が生じていて、1年間の医療費支出も25億ドル以上に上るという。世界中の国々で、花粉症患者の数は増え続けていて、今後もさらに増加すると予測されている。2050年には、ヨーロッパの人口の半分近くが深刻なアレルギー症状に苦しむようになるという推計もある。
花粉症によるダメージを大きく増幅させているのが大気汚染と気候変動だ。この2つの要素は、空気中に飛散する花粉の量を増やす上に、花粉によるアレルギー反応を強める可能性があるのだ。
この点に関して見落とせないのは、大気汚染と気候変動の影響が都市部でとりわけ大きいことだ。都市と地方の政治的断絶が深まっている時代には、花粉症問題の影響をどれくらい受けるかが政党によって大きく変わってくる可能性もある。
ただし、大きな流れとしては全ての地域で花粉の飛散量が大幅に増えることが予測されている。アメリカでは今後60~80年間に、北東部・中西部で1平方メートル当たりの花粉量が2億6530万個から3億790万個へ、南東部で2億4610万個から3億4360万個へ、西部・南西部で3億2260万個から4億4440万個へ、太平洋岸北西部で4億1820万個から5億2760万個へ増える見通しだ。
世界でどこよりも花粉症に苦しめられている日本の読者にはご理解いただけると思うが、選挙の立候補者たちが花粉症を政策課題として十分に重んじていない現状は不可解と言うほかない。なにしろ、花粉症には政治的に重要な問題がことごとく関係している。人々が日々の生活の妨げになるような深刻な苦痛を味わっていて、(花粉症患者という)新しい社会集団が劇的に増加しつつあり、地域間の分断も生まれている。
花粉症との戦いを選挙公約として訴える最初の政治家は、この問題を初めて取り上げるスピーチの最中に自らも鼻をぐずぐずさせる花粉症患者かもしれない。
<選挙の立候補者たちが花粉症を政策課題として十分に重んじていない現状は不可解と言うほかない>
写真判定レベルの大接戦が予想される11月のアメリカ大統領選では、一見すると極めて些細な要素が勝敗を左右しかねない。直近の2回の大統領選でカギを握ったのは、一部の激戦州の10万人に満たない有権者の投票行動だった。その点を考えると、「花粉症との戦い」を公約に掲げる候補者が登場してもいいはずだ。
実はアメリカでも、有権者の4人に1人がこの厄介なアレルギー症状に苦しんでいる。しかも、気候変動の影響により、患者の数は増加の一途をたどると、大半の科学者は確信している。花粉症シーズンは春~夏で、大統領選の投票日とは重ならないが、この症状に苦しんでいる人たちにとっては、税制や外交、犯罪対策といった定番の政治課題よりはるかaに深刻な問題に感じられても不思議でない。
アメリカでは、カンザス州ウィチタが花粉症患者にとって最悪な場所であり、バージニア州バージニアビーチ、サウスカロライナ州グリーンビル、テキサス州ダラス、オクラホマ州オクラホマシティー、バージニア州リッチモンドなどが続く。
無視できない花粉症格差
国を問わず、21世紀の政治における重要テーマの1つは格差だ。実は、花粉症をめぐっても格差が存在している。
私はドイツの大学でも教えているのだが、ドイツでは花粉症患者の割合がアメリカよりかなり小さく、成人の10人に1人程度にとどまっている。この割合は、アメリカでは前述のように4人に1人、イギリスでは3人に1人。日本では4~5割くらいだ。一方、私が暮らしていたロシアでは、20人に1人にすぎない。
日本では、花粉症シーズンの最盛期には労働者の生産性の低下により1日当たり10億ドルを優に上回る経済損失が生じていて、1年間の医療費支出も25億ドル以上に上るという。世界中の国々で、花粉症患者の数は増え続けていて、今後もさらに増加すると予測されている。2050年には、ヨーロッパの人口の半分近くが深刻なアレルギー症状に苦しむようになるという推計もある。
花粉症によるダメージを大きく増幅させているのが大気汚染と気候変動だ。この2つの要素は、空気中に飛散する花粉の量を増やす上に、花粉によるアレルギー反応を強める可能性があるのだ。
この点に関して見落とせないのは、大気汚染と気候変動の影響が都市部でとりわけ大きいことだ。都市と地方の政治的断絶が深まっている時代には、花粉症問題の影響をどれくらい受けるかが政党によって大きく変わってくる可能性もある。
ただし、大きな流れとしては全ての地域で花粉の飛散量が大幅に増えることが予測されている。アメリカでは今後60~80年間に、北東部・中西部で1平方メートル当たりの花粉量が2億6530万個から3億790万個へ、南東部で2億4610万個から3億4360万個へ、西部・南西部で3億2260万個から4億4440万個へ、太平洋岸北西部で4億1820万個から5億2760万個へ増える見通しだ。
世界でどこよりも花粉症に苦しめられている日本の読者にはご理解いただけると思うが、選挙の立候補者たちが花粉症を政策課題として十分に重んじていない現状は不可解と言うほかない。なにしろ、花粉症には政治的に重要な問題がことごとく関係している。人々が日々の生活の妨げになるような深刻な苦痛を味わっていて、(花粉症患者という)新しい社会集団が劇的に増加しつつあり、地域間の分断も生まれている。
花粉症との戦いを選挙公約として訴える最初の政治家は、この問題を初めて取り上げるスピーチの最中に自らも鼻をぐずぐずさせる花粉症患者かもしれない。