加谷珪一
<自民党総裁選で国民が最も関心を寄せるテーマは「経済」。さらに解散総選挙も近いとされる今、争点になると考えられる経済政策について考える>
自民党総裁選の政策論争が本格化している。メディアでは裏金問題が連日報道されており、政治資金の扱いが一般世論に近いとされる党員票の行方を左右する。一方、朝日新聞の世論調査では、総裁選で議論してほしいテーマとして経済が1位、社会保障が2位となっており、投票日が近づくにつれて、経済政策の重要性が高まってくるだろう。
今年4月に賃上げが行われたこともあり、昨年と比較すると家計の状況は一服しつつある。だが、為替の状況次第では再び値上げラッシュとなる可能性もあり、金融政策の行方が国民生活を左右する。
日本銀行は7月の金融政策決定会合において突如、追加利上げを発表し、市場は大混乱となった。このまま正常化が進めば、円安は相当程度、是正される一方、金利上昇の弊害も顕著となるので、政府・日銀は慎重な舵取りが求められる。
ちなみに8月に金融政策決定会合はなく、次は9月19日・20日の開催予定だが、総裁選直前であり、大きな動きはないとみる関係者が多い。
そうなると俄然、注目されるのは10月30日・31日の会合である。本来、日銀には高い独立性が求められ、政局に左右されてはいけないはずだが、それはあくまでタテマエである。
10月の会合の結果は、次期首相が誰になるのかで大きく変わるだろう。各候補者が金融政策の正常化、言い換えればアベノミクスの継続もしくは終了についてどう考えているのか着目する必要がある。
緩和政策を継続するならリスクについて説明する必要が
金融正常化を進めれば日銀の財務体質は安定し、過度な円安も防げる一方、住宅ローンの返済や企業の利払い負担増加など景気への逆風が懸念される。こうしたマイナス面を受け入れた上で、金融市場の安定化と円安阻止を優先するのが正常化推進論者のスタンスと考えてよいだろう。
これに対して一部の候補者は、金融正常化は急がず、低い金利を維持すべきと主張している。緩和的政策を継続すれば、景気が底割れする可能性は低くなるものの、再び円安が進み、物価上昇により生活困窮が進むリスクが排除できない。
国民生活が苦しくなった場合、財政出動を行うというのがこれまでの定番だったが、インフレ下で財政出動を行うとインフレがさらに悪化してしまうのは経済学の基本原理である。景気対策を主張する候補者は、このジレンマをどう克服するのか説明する必要がある。
社会保障政策については、来年1月の通常国会で年金制度改正が予定されており、年金制度についてどう考えるのかは、候補者を評価する重要なポイントとなるだろう。
年金の減額や増税の是非なども注目のテーマに
政府は現在、現役世代の負担を減らすため、高齢者の年金を毎年減額する年金減額制度(マクロ経済スライド)を発動している。このまま若年層の負担軽減と高齢者の年金減額を続けるのか、高齢者の年金減額をやめるのか、その場合、財源はどうするのかといったあたりが争点となりそうだ。
岸田政権が断念した金融所得課税の強化や、防衛費増額や子育て支援策実施に伴う増税停止を主張する候補者もおり、税負担もテーマとなるかもしれない。
次期総裁が誰になるにせよ、衆議院の解散が近いというのはほぼ一致した見方であり、早ければ年内にも選挙が行われる。総裁選での争点はそのまま総選挙の争点になると考えてよい。
<自民党総裁選で国民が最も関心を寄せるテーマは「経済」。さらに解散総選挙も近いとされる今、争点になると考えられる経済政策について考える>
自民党総裁選の政策論争が本格化している。メディアでは裏金問題が連日報道されており、政治資金の扱いが一般世論に近いとされる党員票の行方を左右する。一方、朝日新聞の世論調査では、総裁選で議論してほしいテーマとして経済が1位、社会保障が2位となっており、投票日が近づくにつれて、経済政策の重要性が高まってくるだろう。
今年4月に賃上げが行われたこともあり、昨年と比較すると家計の状況は一服しつつある。だが、為替の状況次第では再び値上げラッシュとなる可能性もあり、金融政策の行方が国民生活を左右する。
日本銀行は7月の金融政策決定会合において突如、追加利上げを発表し、市場は大混乱となった。このまま正常化が進めば、円安は相当程度、是正される一方、金利上昇の弊害も顕著となるので、政府・日銀は慎重な舵取りが求められる。
ちなみに8月に金融政策決定会合はなく、次は9月19日・20日の開催予定だが、総裁選直前であり、大きな動きはないとみる関係者が多い。
そうなると俄然、注目されるのは10月30日・31日の会合である。本来、日銀には高い独立性が求められ、政局に左右されてはいけないはずだが、それはあくまでタテマエである。
10月の会合の結果は、次期首相が誰になるのかで大きく変わるだろう。各候補者が金融政策の正常化、言い換えればアベノミクスの継続もしくは終了についてどう考えているのか着目する必要がある。
緩和政策を継続するならリスクについて説明する必要が
金融正常化を進めれば日銀の財務体質は安定し、過度な円安も防げる一方、住宅ローンの返済や企業の利払い負担増加など景気への逆風が懸念される。こうしたマイナス面を受け入れた上で、金融市場の安定化と円安阻止を優先するのが正常化推進論者のスタンスと考えてよいだろう。
これに対して一部の候補者は、金融正常化は急がず、低い金利を維持すべきと主張している。緩和的政策を継続すれば、景気が底割れする可能性は低くなるものの、再び円安が進み、物価上昇により生活困窮が進むリスクが排除できない。
国民生活が苦しくなった場合、財政出動を行うというのがこれまでの定番だったが、インフレ下で財政出動を行うとインフレがさらに悪化してしまうのは経済学の基本原理である。景気対策を主張する候補者は、このジレンマをどう克服するのか説明する必要がある。
社会保障政策については、来年1月の通常国会で年金制度改正が予定されており、年金制度についてどう考えるのかは、候補者を評価する重要なポイントとなるだろう。
年金の減額や増税の是非なども注目のテーマに
政府は現在、現役世代の負担を減らすため、高齢者の年金を毎年減額する年金減額制度(マクロ経済スライド)を発動している。このまま若年層の負担軽減と高齢者の年金減額を続けるのか、高齢者の年金減額をやめるのか、その場合、財源はどうするのかといったあたりが争点となりそうだ。
岸田政権が断念した金融所得課税の強化や、防衛費増額や子育て支援策実施に伴う増税停止を主張する候補者もおり、税負担もテーマとなるかもしれない。
次期総裁が誰になるにせよ、衆議院の解散が近いというのはほぼ一致した見方であり、早ければ年内にも選挙が行われる。総裁選での争点はそのまま総選挙の争点になると考えてよい。