佐々木和義
<年に1度の大型連休を控え韓国の医療は危機的状況に陥っているが──>
医療混乱が続いている韓国の尹錫悦大統領が、秋夕(チュソク)連休を控えた9月2日、医療対策に万全を期すよう指示を出した。秋夕は旧歴8月15日とその前後に祖先を祀り、墓参りなどをする韓国国民にとってもっとも重要な祝日で、今年は9月14日から18日まで5連休となっている。この時期は多くの企業が休業となり、病院でも外来は休診となることから救命救急センターを訪れる患者が増えると予想されている。
今年2月6日、韓国政府が医師不足対策として大学医学部の定員を現行の3058人から5058人に増やす方針を発表すると、医師会は猛反発、ストライキを実施し、研修医が集団で辞職した。約1万3000人の研修医が全国221の病院で指導教授のもと医療に従事していたが、4分の3に相当する9900人が退職届を提出し、最終的に7600人余が医療現場を離れた。
研修医は専攻医指導病院で1年間のインターンと3〜4年のレジデントを経て専門医資格を取得する。労働6割、研修4割といわれている研修医は指導病院にとって欠かせない人材だ。
ビッグ5と呼ばれるソウルの5大病院をみるとソウル大学病院は全医師の46.2%を研修医が占めており、セブランス病院も40.2パーセント、サムスンソウル病院は38.0パーセント、ソウル峨山(アサン)病院は34.5パーセント、ソウル聖母病院は33.8パーセントが研修医だ。彼らの大量離脱でそれまで研修医が補助を担っていた手術や入院患者の受け入れに支障をきたすようになった。
研修医不足で、緊急患者がたらい回しに
医師不足に陥った大規模病院は新患の受け入れを制限。すると中小規模の病院へと患者が殺到、自力で病院を探すことを断念した軽症患者が救急車を呼ぶなど混乱が広がった。
医療混乱が広まって半年近く経った8月4日、ソウル近郊の京畿道高陽市で熱性のけいれんを起こした2歳4カ月の女児が11の病院から「治療できる医師がいない」として受け入れを拒否され、救急通報から1時間5分後に40キロ離れた仁川市の仁荷大学病院に搬送されたが、1カ月経った9月4日現在、意識が回復していないという。8月9日に地下鉄1号線九老駅で怪我を負った作業員は16時間に亘って病院のたらい回しにあっている。
秋夕に向け軍医を病院へ派遣したが......
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秋夕に向け軍医を病院へ派遣したが......
韓国保健福祉部は、軍医官と公衆保健医を公立病院や民間病院に派遣してきたが、秋夕前後に250人を救命救急センターに派遣することにした。公衆保健医は兵役に代えて公衆衛生にあたる医師免許保持者である。
同部は9月4日、軍医官15人を運営に支障が出ている救命救急センターに派遣し、9日以降、235人の軍医官と公衆保健医を緊急度の高い医療機関に派遣すると明らかにした。
ところがだ。軍医官や公衆保健医の評判はお世辞にも良いとはいえない。ソウル大学病院が行ったアンケート調査で、軍医が「役立った」と答えた教授は30.9パーセントにとどまる一方、31.8%が「役に立たない」と回答した。未回答者は軍医等が派遣されなかった科目の教授で、派遣を受けた教授の半数以上が「軍医は役に立たない」と回答したのである。「軍医らを救急室に配置すれば、患者未収容がなくなるか」という質問にも教授らは「彼らは重症患者の診療に参加して、責任を負わなければならない状況となることを恐れている」と回答した。
軍医官3人が派遣された梨花女子大学木洞病院は、救急室勤務は適していないとして帰るよう通知した。江原大学病院では派遣された5人のうち実際に勤務できたのは1人だけだった。保険福祉部が派遣する250人の軍医官と公衆保健医には救急医学の専門医が8人いるが、その専門医でさえ役に立たないという。救急専門医が2人派遣された世宗忠南大学病院は、軍医は診療できないと判断している。
漁夫の利を得たのは......
一方で辞職した研修医たちは就職難に直面している。兵役未了者は公衆衛生医を目指すが、服務期間は3月からで、志願者が多いと翌年以降に延ばされる。軍服務が終わった研修医や女性専攻医は一般医として勤務できるが、離脱研修医の急増で給与水準が下がっている。
専門医資格を得た後、専攻医指導病院に残って勤務するフェローの給与は700万ウォン、中小病院で週5日勤務する契約医師は1200万ウォンから2000万ウォンが一般的だが、離脱研修医は300〜400万ウォンでも仕事がないという。
患者と病院、離脱研修医のいずれも良い結果を生まないなか、この状況を歓迎する医療機関もある。美容整形外科と療養型病院だ。ソウルのある美容整形外科が月400万ウォンで求人を出したところ応募が殺到したという。手術は任せられないが看護師並みの給与で医師を採用できるとして「営業拡大」を図る動きもある。
療養型病院は「専門医資格がなければ昼に勤務できる病院が少ないため、夜間の当直を一般医に任せているが、確保が難しい状況だった」といい、「離脱研修医は恵みのようだ」と歓迎する。一般医は専門医と比べて勤務先が限られるうえ、給与水準も低いが、離脱研修医に対する目は冷ややかで、政府も手を差し伸べる考えはないようだ。
【動画】小児救急病院11カ所が受け入れ拒否、母親の悲鳴
小児救急室を運営するある病院は小児科医はいたが「小児神経科」担当医がいないという理由で、受け入れを拒否したという
KBS News / YouTube
<年に1度の大型連休を控え韓国の医療は危機的状況に陥っているが──>
医療混乱が続いている韓国の尹錫悦大統領が、秋夕(チュソク)連休を控えた9月2日、医療対策に万全を期すよう指示を出した。秋夕は旧歴8月15日とその前後に祖先を祀り、墓参りなどをする韓国国民にとってもっとも重要な祝日で、今年は9月14日から18日まで5連休となっている。この時期は多くの企業が休業となり、病院でも外来は休診となることから救命救急センターを訪れる患者が増えると予想されている。
今年2月6日、韓国政府が医師不足対策として大学医学部の定員を現行の3058人から5058人に増やす方針を発表すると、医師会は猛反発、ストライキを実施し、研修医が集団で辞職した。約1万3000人の研修医が全国221の病院で指導教授のもと医療に従事していたが、4分の3に相当する9900人が退職届を提出し、最終的に7600人余が医療現場を離れた。
研修医は専攻医指導病院で1年間のインターンと3〜4年のレジデントを経て専門医資格を取得する。労働6割、研修4割といわれている研修医は指導病院にとって欠かせない人材だ。
ビッグ5と呼ばれるソウルの5大病院をみるとソウル大学病院は全医師の46.2%を研修医が占めており、セブランス病院も40.2パーセント、サムスンソウル病院は38.0パーセント、ソウル峨山(アサン)病院は34.5パーセント、ソウル聖母病院は33.8パーセントが研修医だ。彼らの大量離脱でそれまで研修医が補助を担っていた手術や入院患者の受け入れに支障をきたすようになった。
研修医不足で、緊急患者がたらい回しに
医師不足に陥った大規模病院は新患の受け入れを制限。すると中小規模の病院へと患者が殺到、自力で病院を探すことを断念した軽症患者が救急車を呼ぶなど混乱が広がった。
医療混乱が広まって半年近く経った8月4日、ソウル近郊の京畿道高陽市で熱性のけいれんを起こした2歳4カ月の女児が11の病院から「治療できる医師がいない」として受け入れを拒否され、救急通報から1時間5分後に40キロ離れた仁川市の仁荷大学病院に搬送されたが、1カ月経った9月4日現在、意識が回復していないという。8月9日に地下鉄1号線九老駅で怪我を負った作業員は16時間に亘って病院のたらい回しにあっている。
秋夕に向け軍医を病院へ派遣したが......
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秋夕に向け軍医を病院へ派遣したが......
韓国保健福祉部は、軍医官と公衆保健医を公立病院や民間病院に派遣してきたが、秋夕前後に250人を救命救急センターに派遣することにした。公衆保健医は兵役に代えて公衆衛生にあたる医師免許保持者である。
同部は9月4日、軍医官15人を運営に支障が出ている救命救急センターに派遣し、9日以降、235人の軍医官と公衆保健医を緊急度の高い医療機関に派遣すると明らかにした。
ところがだ。軍医官や公衆保健医の評判はお世辞にも良いとはいえない。ソウル大学病院が行ったアンケート調査で、軍医が「役立った」と答えた教授は30.9パーセントにとどまる一方、31.8%が「役に立たない」と回答した。未回答者は軍医等が派遣されなかった科目の教授で、派遣を受けた教授の半数以上が「軍医は役に立たない」と回答したのである。「軍医らを救急室に配置すれば、患者未収容がなくなるか」という質問にも教授らは「彼らは重症患者の診療に参加して、責任を負わなければならない状況となることを恐れている」と回答した。
軍医官3人が派遣された梨花女子大学木洞病院は、救急室勤務は適していないとして帰るよう通知した。江原大学病院では派遣された5人のうち実際に勤務できたのは1人だけだった。保険福祉部が派遣する250人の軍医官と公衆保健医には救急医学の専門医が8人いるが、その専門医でさえ役に立たないという。救急専門医が2人派遣された世宗忠南大学病院は、軍医は診療できないと判断している。
漁夫の利を得たのは......
一方で辞職した研修医たちは就職難に直面している。兵役未了者は公衆衛生医を目指すが、服務期間は3月からで、志願者が多いと翌年以降に延ばされる。軍服務が終わった研修医や女性専攻医は一般医として勤務できるが、離脱研修医の急増で給与水準が下がっている。
専門医資格を得た後、専攻医指導病院に残って勤務するフェローの給与は700万ウォン、中小病院で週5日勤務する契約医師は1200万ウォンから2000万ウォンが一般的だが、離脱研修医は300〜400万ウォンでも仕事がないという。
患者と病院、離脱研修医のいずれも良い結果を生まないなか、この状況を歓迎する医療機関もある。美容整形外科と療養型病院だ。ソウルのある美容整形外科が月400万ウォンで求人を出したところ応募が殺到したという。手術は任せられないが看護師並みの給与で医師を採用できるとして「営業拡大」を図る動きもある。
療養型病院は「専門医資格がなければ昼に勤務できる病院が少ないため、夜間の当直を一般医に任せているが、確保が難しい状況だった」といい、「離脱研修医は恵みのようだ」と歓迎する。一般医は専門医と比べて勤務先が限られるうえ、給与水準も低いが、離脱研修医に対する目は冷ややかで、政府も手を差し伸べる考えはないようだ。
【動画】小児救急病院11カ所が受け入れ拒否、母親の悲鳴
小児救急室を運営するある病院は小児科医はいたが「小児神経科」担当医がいないという理由で、受け入れを拒否したという
KBS News / YouTube