ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
<「本を出すのに文章力は必要ない」と言うと驚かれるが、本を出すのに文章力はいらない。しかし必要なことがある。何か?>
自分の知見や文章を発信したいビジネスパーソンは多く、その機会も増えた。SNSやnoteが情報発信への参入ハードルを下げ、同人誌を売る文学フリマも盛況だ。とはいえ、出版社から本を出したいとなれば、話は別だ。出版を実現するためのノウハウは、意外と知られていない。
『本を出したい』(CCCメディアハウス)は、「出版社から本を出す」ための方法を解説している。著者の佐藤友美氏は、作家として8冊の単著と3冊の共著を出版し、書籍ライターとして52冊のビジネス書や実用書の執筆に携わってきた。『本を出したい』は前著の『書く仕事がしたい』とあわせて、多数の出版社や編集者、著者と仕事をしてきた経験が惜しみなくシェアされたトリセツとして好評だ。
では、そもそも本を出すとはどういうことか? 『本を出したい』より取り上げる。
※本記事は全3回の第1回
◇ ◇ ◇
ベストセラーの多くは本人が書いていない
「いつか自分の本を出すのが夢なんです。でも、文章力がないと無理ですよね?」
これまで、数えきれないほどの人から、このような質問をされました。そのたびに、「本を出すのに文章力はいりませんよ。というより、自分で原稿を書かなくてもよいですよ」と、お答えしてきました。
こうお伝えすると、ほとんどの人は驚いた顔をします。そうですよね。私も初めてこの事実を知ったときは、びっくりしました。
これまで、60冊ほどの書籍の執筆に関わってきました。が、私自身もほんの10年前まで、書店に並ぶベストセラー書籍の多くは、本人が書いているわけではないことを知りませんでした。
ビジネスパーソンは本を出す方法が作家とは違う
もちろん、小説やエッセイのような「読み物」のジャンルの書籍を書いているのは著者本人です。こういった書籍は、オリジナルのストーリーや文体など、「その人ならではの文章表現」そのものが価値です。
このような、「文章そのもの」で価値を提供する小説家やエッセイストなどの書き手は、著者の中でもとくに「作家」と呼ばれます。でも、ビジネス書や、自己啓発書、健康本や料理本、メイク本などの実用書は、必ずしも本人が執筆しているわけではありません。
著者となる人の多くは、普段は会社を経営していたり、セミナー業をしていたり、医者だったり、料理研究家だったり、メイクアップアーティストだったりします。つまり「本業」がある人たちです。こういった「その道のプロ」の視点を本にまとめるために、編集者や書籍ライター(ブックライター)と呼ばれる人たちが本づくりの手伝いをします。
ビジネス書や実用書の7割〜8割は、著者のインタビューや講演などをまとめる形、いわゆる「聞き書き」で出版されていると推測されます[注:2019年〜2023年の年間ベストセラーランキング(日本出版販売株式会社サイトより)の、ビジネス書単行本上位10冊と実用書上位10冊(ともに翻訳者、編集部の編者を除く)をもとに独自に調査したデータと、書籍編集者へのヒアリングをもとに推測]。
磨くのは文章力ではなく、自分というコンテンツ
わかりやすくいうと、作家は「価値のある文章を書く人」で、著者は「価値のあるコンテンツを持っている人」。同じ本を出す人でも、まるで方法が違うのです。
もしあなたが、自分のビジネスや人生経験から得たコンテンツを本にしたいと思っているなら、そのために文章力を鍛える必要はありません。
むしろ、あなたしか持っていない情報や、あなただけが知る新しいものの見方を研ぎ澄ませるほうが重要です。そして、その情報やものの見方を、人に口頭で説明できる力のほうが重要です(もちろん、自分で書きたい人や書ける人は、自分で書いてもよいです。自分で書ける人は本を出せる可能性が高まりますし、今後さらにその傾向が強まるはずです)。
本を出すために何をすればよいのか
本を出すために、「文章を書くこと」は必須ではない。このことひとつとってもそうですが、作家以外の人が「本を出すために何をすればよいのか」、その実情はぼんやりとしていて、よくわからないことが多いと感じます。
小説家になるためには、まず小説を書かなくてはならないでしょう。新人賞を受賞したり、小説投稿サイトで評判を集めたりすればデビューできそうというイメージも、なんとなく湧きます。
でも、作家以外の人たちが本を出したいと思った場合は、はたして何から手をつければいいのでしょうか。
たとえば、
・そもそも誰が本の企画を考えているのか
・誰がOKすれば本が出るのか
・本を出せる人と出せない人は何が違うのか
・本が出るまでにはどんなプロセスがあり、どれくらい時間がかかるのか
・著者の仕事範囲はどこまでなのか
・印税はいくらもらえるのか
・売れる本と売れない本の違いは何なのか
・本が出たあとに、何をすればいいのか......etc.
この本では、これらの疑問に、できるだけ多くの例を紹介しながら答えたいと思っています。
本を出せば人生が変わる...という誤算
本を出すと何が変わり、何が変わらないのか具体的にイメージしにくいのが〝本を出すまで〞のプロセスですが、〝本を出してから〞のことも「想像していたのと違った」とよく言われます。
たとえば「本を出せば人生が劇的に変わる」と思っている人は多いです。たしかに、本を出して人生が劇的に変わることもあります。テレビの出演依頼がくるようになったり、講演のオファーが殺到したり。自分のスクールを立ち上げることになったり、自分がプロデュースした商品を販売できたり。
しかし、そういった劇的な変化があるのは「本を出して、その本が劇的に売れたとき」だけです。本を出しても、売れたり話題になったりしなければ、驚くほどの無風状態で、人生はぴくりとも動きません。これは本を出したことがある人から、よく聞く「誤算」です。
出版とは小ロット多品種多産多死
書籍は決してマスメディアではありません。よっぽどの売れっ子著者でない限り、書籍の初版部数(最初に刷る本の冊数)は4000〜6000部程度が近年の主流です。日本全国にある書店の数は約1万店ですから、初版ではその本が入荷されない書店のほうが多いでしょう。
一方、日本では毎日約200冊の新刊が発売されています。毎日増え続ける新商品の中で、何ヵ月も書店に置いてもらうことは難しい。心血を注ぎ何年もかけてつくった書籍が、あっという間に書店から消えることもあります。小ロット多品種多産多死。これが書籍の現実です。
それでもやっぱり本を出すことには価値がある
本を出すことは大変です。時間も労力もかかります。必ずしも多くの人に読まれるとは限りません。それでもやはり、本を出そうと考え、企画し出版することは、他の何かとは似ていない唯一無二の体験だと、私は思います。
なぜなら、本をつくるプロセスは「これほど、自分自身を深く知れる機会はほかにない」と感じるほど、発見の連続だからです。
自分の人生をもとにして本を出すということは、「自分が持つコンテンツが、どう読者の価値になるか」を模索する行為です。これはそのまま「自分がどのように生き、どのように役立ってきたか」を深く見つめ直す作業とも言えます。
自分自身や自分の思想を社会に向かって開いていく行為。それが、本を出す、ということです。そして同時に、自分自身も知らなかった自分を発見することにもなります。
「自分にすでにあるもの」からはじまる思考の冒険
これもあとで詳しく書きますが、本を出すときには、「過去の自分の考えをまとめる」だけでは全然足りません。本を出そうと思ったときには考えもつかなかった思考を本づくりの過程で獲得するのが、本を出すという行為なのです。
本をつくっている間、著者はあらゆる方向から自分自身を観察することになります。おそらく、これほどまでに自分と向き合う時間は人生で何度もない経験でしょう。ときには「この先、自分はどう生きるべきか」を発見することもあります。人によっては、自分の使命のようなものを見つけることもあります。
だからやはり、大変だけれど、やりがいを感じる行為でもあります。そうやって生み出した書籍のコンテンツが読者に届き、「役に立った」「人生観が変わった」と言われれば、とてつもない幸せにもなります。
◇ ◇ ◇
佐藤友美(satoyumi)
ライター/コラムニスト 1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社勤務を経て文筆業に転向。日本初のヘアライターとして、ベストセラーとなった『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)や『書く仕事がしたい』(CCCメディアハウス)、『ママはキミと一緒にオトナになる』(小学館)などを執筆。自著はすべて重版している。わかりやすい解説でテレビ・雑誌・講演などの出演オファーが絶えない。自身の著作のみならず、ビジネス書、実用書などの執筆・構成を手掛ける書籍ライターとして50冊以上の書籍の執筆に関わっている。特筆すべきは、自著・ライターとしての書籍63冊のうち29冊は持ち込み企画であることと、持ち込み企画のほうが重版率が高いこと。
近年は、日本で最も入塾倍率が高いと言われる「さとゆみビジネスライティングゼミ」を主宰。ライターだけではなく様々な職業のビジネスパーソンを「書ける人」に育てている。卒ゼミ生と運営するメディアCORECOLOR(コレカラ)の人気連載「編集者の時代」には、ベストセラー編集者が続々登場し、出版業界で話題を集めている。
『本を出したい』
佐藤友美[著]
CCCメディアハウス[刊]
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
<「本を出すのに文章力は必要ない」と言うと驚かれるが、本を出すのに文章力はいらない。しかし必要なことがある。何か?>
自分の知見や文章を発信したいビジネスパーソンは多く、その機会も増えた。SNSやnoteが情報発信への参入ハードルを下げ、同人誌を売る文学フリマも盛況だ。とはいえ、出版社から本を出したいとなれば、話は別だ。出版を実現するためのノウハウは、意外と知られていない。
『本を出したい』(CCCメディアハウス)は、「出版社から本を出す」ための方法を解説している。著者の佐藤友美氏は、作家として8冊の単著と3冊の共著を出版し、書籍ライターとして52冊のビジネス書や実用書の執筆に携わってきた。『本を出したい』は前著の『書く仕事がしたい』とあわせて、多数の出版社や編集者、著者と仕事をしてきた経験が惜しみなくシェアされたトリセツとして好評だ。
では、そもそも本を出すとはどういうことか? 『本を出したい』より取り上げる。
※本記事は全3回の第1回
◇ ◇ ◇
ベストセラーの多くは本人が書いていない
「いつか自分の本を出すのが夢なんです。でも、文章力がないと無理ですよね?」
これまで、数えきれないほどの人から、このような質問をされました。そのたびに、「本を出すのに文章力はいりませんよ。というより、自分で原稿を書かなくてもよいですよ」と、お答えしてきました。
こうお伝えすると、ほとんどの人は驚いた顔をします。そうですよね。私も初めてこの事実を知ったときは、びっくりしました。
これまで、60冊ほどの書籍の執筆に関わってきました。が、私自身もほんの10年前まで、書店に並ぶベストセラー書籍の多くは、本人が書いているわけではないことを知りませんでした。
ビジネスパーソンは本を出す方法が作家とは違う
もちろん、小説やエッセイのような「読み物」のジャンルの書籍を書いているのは著者本人です。こういった書籍は、オリジナルのストーリーや文体など、「その人ならではの文章表現」そのものが価値です。
このような、「文章そのもの」で価値を提供する小説家やエッセイストなどの書き手は、著者の中でもとくに「作家」と呼ばれます。でも、ビジネス書や、自己啓発書、健康本や料理本、メイク本などの実用書は、必ずしも本人が執筆しているわけではありません。
著者となる人の多くは、普段は会社を経営していたり、セミナー業をしていたり、医者だったり、料理研究家だったり、メイクアップアーティストだったりします。つまり「本業」がある人たちです。こういった「その道のプロ」の視点を本にまとめるために、編集者や書籍ライター(ブックライター)と呼ばれる人たちが本づくりの手伝いをします。
ビジネス書や実用書の7割〜8割は、著者のインタビューや講演などをまとめる形、いわゆる「聞き書き」で出版されていると推測されます[注:2019年〜2023年の年間ベストセラーランキング(日本出版販売株式会社サイトより)の、ビジネス書単行本上位10冊と実用書上位10冊(ともに翻訳者、編集部の編者を除く)をもとに独自に調査したデータと、書籍編集者へのヒアリングをもとに推測]。
磨くのは文章力ではなく、自分というコンテンツ
わかりやすくいうと、作家は「価値のある文章を書く人」で、著者は「価値のあるコンテンツを持っている人」。同じ本を出す人でも、まるで方法が違うのです。
もしあなたが、自分のビジネスや人生経験から得たコンテンツを本にしたいと思っているなら、そのために文章力を鍛える必要はありません。
むしろ、あなたしか持っていない情報や、あなただけが知る新しいものの見方を研ぎ澄ませるほうが重要です。そして、その情報やものの見方を、人に口頭で説明できる力のほうが重要です(もちろん、自分で書きたい人や書ける人は、自分で書いてもよいです。自分で書ける人は本を出せる可能性が高まりますし、今後さらにその傾向が強まるはずです)。
本を出すために何をすればよいのか
本を出すために、「文章を書くこと」は必須ではない。このことひとつとってもそうですが、作家以外の人が「本を出すために何をすればよいのか」、その実情はぼんやりとしていて、よくわからないことが多いと感じます。
小説家になるためには、まず小説を書かなくてはならないでしょう。新人賞を受賞したり、小説投稿サイトで評判を集めたりすればデビューできそうというイメージも、なんとなく湧きます。
でも、作家以外の人たちが本を出したいと思った場合は、はたして何から手をつければいいのでしょうか。
たとえば、
・そもそも誰が本の企画を考えているのか
・誰がOKすれば本が出るのか
・本を出せる人と出せない人は何が違うのか
・本が出るまでにはどんなプロセスがあり、どれくらい時間がかかるのか
・著者の仕事範囲はどこまでなのか
・印税はいくらもらえるのか
・売れる本と売れない本の違いは何なのか
・本が出たあとに、何をすればいいのか......etc.
この本では、これらの疑問に、できるだけ多くの例を紹介しながら答えたいと思っています。
本を出せば人生が変わる...という誤算
本を出すと何が変わり、何が変わらないのか具体的にイメージしにくいのが〝本を出すまで〞のプロセスですが、〝本を出してから〞のことも「想像していたのと違った」とよく言われます。
たとえば「本を出せば人生が劇的に変わる」と思っている人は多いです。たしかに、本を出して人生が劇的に変わることもあります。テレビの出演依頼がくるようになったり、講演のオファーが殺到したり。自分のスクールを立ち上げることになったり、自分がプロデュースした商品を販売できたり。
しかし、そういった劇的な変化があるのは「本を出して、その本が劇的に売れたとき」だけです。本を出しても、売れたり話題になったりしなければ、驚くほどの無風状態で、人生はぴくりとも動きません。これは本を出したことがある人から、よく聞く「誤算」です。
出版とは小ロット多品種多産多死
書籍は決してマスメディアではありません。よっぽどの売れっ子著者でない限り、書籍の初版部数(最初に刷る本の冊数)は4000〜6000部程度が近年の主流です。日本全国にある書店の数は約1万店ですから、初版ではその本が入荷されない書店のほうが多いでしょう。
一方、日本では毎日約200冊の新刊が発売されています。毎日増え続ける新商品の中で、何ヵ月も書店に置いてもらうことは難しい。心血を注ぎ何年もかけてつくった書籍が、あっという間に書店から消えることもあります。小ロット多品種多産多死。これが書籍の現実です。
それでもやっぱり本を出すことには価値がある
本を出すことは大変です。時間も労力もかかります。必ずしも多くの人に読まれるとは限りません。それでもやはり、本を出そうと考え、企画し出版することは、他の何かとは似ていない唯一無二の体験だと、私は思います。
なぜなら、本をつくるプロセスは「これほど、自分自身を深く知れる機会はほかにない」と感じるほど、発見の連続だからです。
自分の人生をもとにして本を出すということは、「自分が持つコンテンツが、どう読者の価値になるか」を模索する行為です。これはそのまま「自分がどのように生き、どのように役立ってきたか」を深く見つめ直す作業とも言えます。
自分自身や自分の思想を社会に向かって開いていく行為。それが、本を出す、ということです。そして同時に、自分自身も知らなかった自分を発見することにもなります。
「自分にすでにあるもの」からはじまる思考の冒険
これもあとで詳しく書きますが、本を出すときには、「過去の自分の考えをまとめる」だけでは全然足りません。本を出そうと思ったときには考えもつかなかった思考を本づくりの過程で獲得するのが、本を出すという行為なのです。
本をつくっている間、著者はあらゆる方向から自分自身を観察することになります。おそらく、これほどまでに自分と向き合う時間は人生で何度もない経験でしょう。ときには「この先、自分はどう生きるべきか」を発見することもあります。人によっては、自分の使命のようなものを見つけることもあります。
だからやはり、大変だけれど、やりがいを感じる行為でもあります。そうやって生み出した書籍のコンテンツが読者に届き、「役に立った」「人生観が変わった」と言われれば、とてつもない幸せにもなります。
◇ ◇ ◇
佐藤友美(satoyumi)
ライター/コラムニスト 1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社勤務を経て文筆業に転向。日本初のヘアライターとして、ベストセラーとなった『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)や『書く仕事がしたい』(CCCメディアハウス)、『ママはキミと一緒にオトナになる』(小学館)などを執筆。自著はすべて重版している。わかりやすい解説でテレビ・雑誌・講演などの出演オファーが絶えない。自身の著作のみならず、ビジネス書、実用書などの執筆・構成を手掛ける書籍ライターとして50冊以上の書籍の執筆に関わっている。特筆すべきは、自著・ライターとしての書籍63冊のうち29冊は持ち込み企画であることと、持ち込み企画のほうが重版率が高いこと。
近年は、日本で最も入塾倍率が高いと言われる「さとゆみビジネスライティングゼミ」を主宰。ライターだけではなく様々な職業のビジネスパーソンを「書ける人」に育てている。卒ゼミ生と運営するメディアCORECOLOR(コレカラ)の人気連載「編集者の時代」には、ベストセラー編集者が続々登場し、出版業界で話題を集めている。
『本を出したい』
佐藤友美[著]
CCCメディアハウス[刊]
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)