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地震の恩恵? 「地震が金塊を作っているかもしれない」との研究が話題に...その仕組みとは?

ニューズウィーク日本版 2024年9月16日 8時45分

茜 灯里
<豪モナシュ大研究チームは「金塊ができる背景に電気が関与しているのではないか」との仮説のもと、地震によって石英が圧電効果を起こし得るのかを実験。その結果...>

日本が地震大国であることは、私たちは身をもって知っています。今年だけでも、最大震度6を超える大地震は1月1日に能登地方、同6日に能登半島沖、4月17日に豊後水道、8月8日に日向灘を震源として計4回起こっており、8月には初の「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されました。

家屋や財産にダメージを与え、時には人命をも奪う地震は、日本に住んでいる限り「上手く付き合っていくしかない」と諦めの境地に至ります。地震によって景観がつくられたり温泉が供給されたりすることはありますが、地震大国ではデメリットばかりが目立ちます。

ところが、オーストラリアのモナシュ大の研究チームが、「地震の発生がスイッチとなって、石英鉱脈の中に金塊を作っているかもしれない」と有力科学誌「Nature」の姉妹誌「Nature Geoscience」(9月2日付)に発表したことで、海外では「地震のメリットが示されたかもしれない」と話題になっています。

研究者たちは何故そのような結論に至ったのでしょうか。これまでは金塊はどのように作られると考えられていたのでしょうか。概観してみましょう。

長年の謎だった金塊形成の仕組み

金は美しいだけでなく、重く、軟らかく、酸化しにくく、電気を通しやすい性質から、財産価値としてだけでなく工業用途でもなくてはならない金属です。

世界の主要金鉱山会社がメンバーとなっている非営利組織「ワールド・ゴールド・カウンシル」によると、2024年2月1日現在、歴史を通じて約21万2582トンの金が採掘され、未だ約5万9000トンが埋蔵されていると言います。

金は、主に鉱山や河川で採掘されます。と言っても、河川で見つかる金は、上流にある金を含む岩石が雨や風で削られて溜まったものです。大きな金塊のほとんどは、地球上でありふれた鉱物である石英(二酸化ケイ素 [SiO2])の鉱脈で見つかります。

これまでの間、金が集積した金脈は、「金を豊富に含む熱水が石英の鉱脈に生じた亀裂に流れ込み、冷えたり化学的な変化を起こしたりして蓄積した」と説明されてきました。火山ができてから50万年ほど経つと、周囲の地下水がマグマの熱で十分に温められ、大規模に循環し始めます。この熱せられた地下水に、マグマから分離した金を含む熱水が加わって、岩盤の割れ目を流れるのです。

といっても、金は水に溶けやすい物質ではありません。熱水になれば常温の水よりは溶け込むことができますが、金が高濃度で存在するわけではありません。従来の粒子濃度モデルによると、1キロの金塊を作るためには、金が溶け込んだ熱水はオリンピック用プール5個分も必要と計算されています。これは、実際の石英鉱脈で起きている事象と反しています。

それなのに、石英鉱脈では数百キロの金塊が見つかることもあります。熱水だけでは説明ができそうにないものの、金の粒子が実際にどのようにしてくっつき合い、1カ所で塊になるのかは長年謎のままでした。

今回、研究を主導したモナシュ大学の地質学者クリストファー・ヴォイジー博士は、「大きな金塊ができる背景には電気が関与しているのではないか」と仮説を立てました。

石英には「圧電効果」があります。これは、外部から圧力を受けると電気を発生させる性質で、クォーツ時計(クォーツは石英のこと)やガスコンロの点火などに応用されています。

ヴォイジー博士は、圧電効果が地震によって石英鉱脈に引き起こされているのではと考えました。発電すれば、液体中の金イオンが電子を獲得して固体の金を形成できます。金が固体になると、石英鉱脈の中で導体(電気を通しやすい物質)として働き、熱水中でより多くの金イオンが同じ場所に引き寄せられて集積し、塊を作ることができます。

研究チームは、地震によって本当に石英が圧電効果を起こし得るのかを実験室で確かめることにしました。

まず、浮遊する小さな金粒子をたくさん含む水溶液を用意して、石英の結晶を沈めました。次に、地震波の周波数を再現して、モーターを使って石英結晶を何度も押したり離したりして揺さぶりました。

その後、石英の状態を顕微鏡で観察すると、わずかな圧力がかかっただけでも結晶表面に金が集積することが分かりました。時間が経つにつれ、金は同じ場所にどんどん溜まっていき、大きな破片に成長していきました。

ヴォイジー博士は「この実験結果は、石英鉱脈内に見られる大きな金塊のもっともらしい説明になります。石英は金を電極として天然の電池のように機能し、地震が発生するたびにゆっくりと金を蓄積するのです」と話しています。

実際の金鉱床でこのメカニズムで金が蓄積されているのかを確認する作業はこれからです。けれど、石英は地球に数多く存在するありふれた鉱物の中で圧電効果を持つ唯一のものなので、「石英に金が集まる理由」をうまく説明できている可能性は高そうです。

菱刈金山も地震の賜物?

マルコポーロが「東方見聞録」で「黄金の国ジパング」と紹介した日本は、かつては金を豊富に産出していました。昭和初期には、高玉金山(福島県)、鯛生鉱山(大分県)、鴻之舞鉱山(北海道)が「日本三大金山」と呼ばれ、本年7月に世界遺産登録された「佐渡島の金山(新潟県)」でも多くの金が採掘されました。

現在は、上記の4鉱山はいずれも採算が合わなくなって閉山しています。ただし、現時点で日本唯一の商用金山である菱刈金山(鹿児島県)は、採算が取れる目安になる「鉱石1トンあたりに3~5グラムの金」を大きく超える1トンあたり20グラム程度の金含有量と、世界でもトップクラスの品質を誇っています。

投資家向けの海外金融Webサイトである「Insider Monkey」は、世界で最も地震の多い25カ国のリストを作成しています。2023年に発生した、震源地がその国から300キロメートル以内にあるマグニチュード4以上の地震総数を比較すると、日本は世界で5位(902件)だそうです。ちなみに1位はインドネシア、2位はメキシコ、3位はフィリピン、4位はチリでした。

菱刈鉱山は果たして地震大国の恩恵を受けたのでしょうか。さらに、日本では最近、伊豆諸島・青ヶ島沖の深海で、最高濃度で1トン当たり275グラムという高品質の金鉱石が見つかっています。「黄金の国ジパング」の再来に期待したいですね。



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